もし台湾有事が起きたらどうなる?専門家が読み解く、日本経済「悪夢のシナリオ」。米5kgが1万円になる可能性も

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2025年12月05日 09:30  日刊SPA!

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 日中関係が緊迫し、中国は渡航自粛、水産物の輸入停止と矢継ぎ早に経済カードを切る。だが、実際に台湾有事が勃発したら、どんな経済的影響が生じるのか? 日本経済「悪夢のシナリオ」を専門家が読み解いた!
◆インバウンドの経済損失など序の口に過ぎない

 日中関係が緊迫している。ことの発端は11月7日、高市早苗首相の衆院予算委の答弁だった。

 これに台湾統一を目指す中国は猛反発し、14日に日本への渡航自粛を公告。団体旅行のキャンセルが相次ぎ、インバウンドの経済損失は1兆7900億円との試算もある。

 19日には水産物の輸入を全面停止し、日本経済を揺さぶりに来たが、これはほんの序章にすぎない。専門家が警告するのは、これから先に起こり得る日本経済を凋落させる“最悪のシナリオ”だ。

 キヤノングローバル戦略研究所上席研究員兼中国センター長の峯村健司氏が解説する。

「中国は台湾統一に際して軍事力の行使を否定していないが、その手法は従来の戦争の概念とは大きく異なる“新型統一戦争”になる。市民の生命や社会インフラに極力損害を与えずに、台湾をそのまま機能した状態で支配下に置こうとしているのです。その理由の一つは、TSMCを中心とする世界最先端の半導体サプライチェーンを“無傷で”手中に収めたいから。世界の先端半導体の92%が台湾で製造されており、日本の自動車、家電、通信機器など幅広い産業がここに依存している」

◆物流や金融をサイバー攻撃されればひとたまりもない

 台湾はほぼ無傷で済むかもしれないが、峯村氏は日本はその限りではないという。

「中国は日本や米国に軍事力だけでなく“経済とサイバー”を組み合わせて圧力をかけ、台湾を統一交渉のテーブルに引きずり込もうとするでしょう。存立危機事態の手前段階でも、日本に対するサイバー攻撃が本格化し、物流・金融・通信といった“経済インフラ”に深刻な支障が出ます。企業活動は大幅に停滞し、鉄道や航空のダイヤも乱れ、サプライチェーンが機能不全に。金融システムに障害が出れば、株式・為替市場は一気に暴落し、日本経済は混乱に陥る」

 では、具体的にどの分野が真っ先に中国の“経済カード”となり、日本に襲いかかるのか。この点を読み解くのが、経済評論家の三橋貴明氏だ。

「次は、レアアースの輸出制限と見て間違いない。ボトルネックを押さえられると、経済は一気に厳しくなる。レアアースは中国が世界生産量の7割、精錬量の実に9割を握っており、’24年の日本の対中依存度は71%と高い。禁輸されれば、スマホやパソコンから医療機器、電気自動車や戦闘機までの生産が止まり、国内ハイテク製造業は壊滅的な打撃を受けます。部材調達コストは品目によって数倍に跳ね上がり、最終製品の価格も数十パーセント単位で上昇せざるを得ない。他産業への波及は避けられません」

◆原油が入らなくなれば米5kg/1万円も見えてくる!?

 そして、島国日本にはもう一つ“急所”がある。それが原油だ。

「日本は原油の99.7%を輸入に頼っており、そのうち95%以上を中東に依存している。LNG(液化天然ガス)や食料も海外依存度が高いが、世界各国から調達できる。だが、シーレーンを海上封鎖されたら、中東に依存している原油は日本に入ってこなくなる。全産業の生産が停滞するのはもちろん、ガソリンが高騰して運送費が嵩み、食料品を含むすべてのモノが暴騰。電気・ガスなど公共料金も値上がりする。少なく見積もっても、生活コストは倍増するでしょう。農産物や水産物への影響は少ないと考えがちですが、生産に必要な機械を動かすのはガソリンや電気。燃料代の高騰によって、米(5kg)が1万円以上になってもなんら不思議ではない」

 では、最も明瞭な指標である日経平均や為替はどうなるのだろうか。経済評論家の佐藤治彦氏の予想は、暗澹たるものだ。

◆GDPは半分消失。株価、為替も影響大

「バシー海峡が封鎖され、存立危機事態で自衛隊が防衛出動、さらに日米安保条約によって米軍も参戦する事態となれば、少なく見積もっても日本の株式市場の時価総額1200兆円の2〜3割に相当する300兆円が吹き飛ぶ。つまり、GDPの半分が消失してしまう。日経平均は2万〜3万円、為替は一瞬で1米ドル/200円に暴落するでしょう。武力攻撃事態となり交戦となれば、さらなる下落も避けられない」

 株価急落と円暴落は、単なる市場の混乱では終わらない。

「加えて、企業の倒産は連鎖し、賃金は追いつかず、生活費だけが膨張していく。“働いても暮らせない層”が雪崩のように増え、社会全体が貧困へと沈むでしょう」

 現状変更を強行する中国に屈してはならないが、台湾有事の経済損失は、国家と国民生活の両方を直撃する“未曽有の危機”である。

◆「むしろ今が最も危険!」台湾有事が高まっている理由

 中国で前例のない“軍の大粛清”が進んでいる。重要政策や幹部人事を決める10月の四中全会では、中央軍事委員会の7人中3人が失脚し、戦区司令官クラスも軒並み更迭された。

 このニュースだけを見ると「台湾有事は遠のいた」と思いがちだ。しかし、中国に精通するジャーナリストの福島香織氏は「むしろ今が最も危険だ」と指摘する。

「大規模な軍事作戦は現状では不可能ですが、粛清の嵐は今後も続く可能性が高い。ただ、これほどの大粛清が行われた事実自体、習近平が10年かけて進めてきた軍改革、反腐敗キャンペーンが完全に失敗したことを意味します。つまり本人は、自らの無能や軍の機能不全を自覚していない恐れがある。現場を知らない軍事素人の文民指導者こそ、誤った判断で台湾武力統一に踏み切るリスクが依然としてくすぶっています」

◆“台湾統一”を掲げているからこそ独裁が可能

 米CIA(中央情報局)のバーンズ長官も、「習近平国家主席は“’27年までに台湾侵攻の準備を整えるよう”軍に指示した」と明言した。

「習氏はかねてより“台湾統一”を掲げてきました。それもあり、現在のような権力維持が認められ、独裁を許されている。’27年に4期目を迎える習氏が今の体制をより盤石にするためには、いよいよ衝突は避けられないという見方は根強いのです」

 軍の崩壊と指導者の焦りが重なるとき、台湾有事“Xデー”は訪れるか――。今はっきりとわかるのは日本も無傷でいられないということだ。

【キヤノングローバル戦略研究所・峯村健司氏】
同研究所上席研究員。中国センター長。朝日新聞北京特派員などを経て現職。『サン!シャイン』(フジテレビ系)出演中

【経世論研究所所長・三橋貴明氏】
経済評論家。ベストセラー『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)ほか著書多数。YouTubeチャネル「三橋TV」は登録者83万人

【経済評論家・佐藤治彦氏】
エコノミスト。経営コンサルタント。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行などを経て独立。テレビやラジオなど多岐に活躍

【ジャーナリスト・福島香織氏】
産経新聞香港支局長、北京総局記者を経て独立。近著『新聞が語る中国の97%は噓である』(Hanada新書)ほか著書多数

取材・文/齋藤武宏 画像/時事通信フォト

―[もし台湾有事が起きれば…日本経済崩壊シナリオ]―

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