
首席入団、スピード出世、6年にわたるトップ在位。宝塚歌劇団屈指の経歴で“令和のトップ・オブ・トップ”と親しまれた元星組トップスター礼真琴。今年8月に退団し、女優業の第1歩を踏み出した。根っからの体育会系で挑戦大好き。エリート街道は、自ら1歩1歩、舗装しながら切り開いてきた。【梅田恵子】
★自然と足が
宝塚を退団して4カ月。「宝塚から東京に引っ越したことも、男役から女性としての第1歩を踏み出したことも、すべてが初めてで刺激的」と話す。
16年務めた男役の体質は抜けたのか尋ねると、「そこなんですよね〜」と笑い、「無意識に身についているというのが恐ろしいところ。座った時に自然と足が開いていることに気が付いて、慌てて閉じる、みたいな」。パンツスーツでの実演がいかにも男役で絵になる。「まずは人の目を気にして、女性として生きていく方法をひとつずつ学んでいきたいです」。
退団は19年のトップ就任から常に意識してきたという。「次に待っているのは卒業だという覚悟はありました。ゴールを決めていたわけではなく、やれるところまでやってみようと」。入団10年のスピード出世は大きなトピックとなり、歌、ダンス、芝居の3拍子そろった無双の男役像はスターを目指す後輩たちのあこがれの的となった。気が付けば5年10カ月の長期にわたり在位した。
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退団を決めたのは、「劇場の日常、お客さまとの日常が戻ったことに幸せを感じたから」。20年3月、トップお披露目公演でコロナ禍が発生し、公演中止を経験している。度重なる緊急事態宣言で宝塚全体が大きな試練を受ける中、圧倒的な実力とリーダーシップで組をまとめてきた。昨年、宝塚110周年の節目を迎え、「すべて見届けて卒業することに自分らしさを感じた」という。
★挑戦が好き
守られた世界を出た不安は「めちゃくちゃある」としながらも、「毎回同じカンパニーで作品を作る奥深さ、団体で魅せる力を学べたのは宝塚ならでは。それは今後どんなカンパニーと仕事をさせていただくことになっても力になるはず」ときっぱり。「挑戦することが好きなので、早くいろんな現場に飛び込んで、早く学びたい」と話す。
もともと無類の挑戦好きなのだという。「子どもの頃からみんなと楽しむことが大好きで、目立つ場所も張り切ってやれちゃうタイプ。はい、学級委員でした(笑い)。合唱コンクールなら指揮者やりたい! 体育祭なら応援団やりたい! って感じで」。父はサッカー元日本代表、浅野哲也氏。「要は体育会系なんです」。宝塚の中でも体育会系といわれる星組で育ったことも「私にはぴったりでした」という。
SMAPのチーフマネジャーだった飯島三智氏が16年に設立した「CULEN」を所属事務所に選んだのも挑戦好きなこの人らしい。稲垣吾郎、草なぎ(なぎは弓ヘンに前の旧字の下に刀)剛、香取慎吾らの活動をサポートしているが、同氏が女性アーティストをマネジメントするのは初めて。「縁あってお話をいただき、知らない世界に一緒に挑戦できることにわくわくしました」。
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★キー変わる
さっそく、来夏に上演される退団後初ミュージカル「バーレスク」の主演が決定した。英ロンドンで大ヒットした大型ミュージカルの日本初演。主人公アリ・ローズ役をオーディションで射止めた。「本場で見て圧倒されたので、夜中に合格の連絡を受けた時は飛び起きました。うれしいと思った瞬間、大丈夫か私で! と一気に不安が」。
演じるのは、母親を捜してニューヨークにやってきたヒロイン。たどり着いたナイトクラブで歌とダンスの才能を開花させ、人生を変えていく役どころだ。「体当たりで新しい世界に飛び込んでいくアリの姿に、自分と重なるものを感じます。男役とはキーも変わるので不安はありますが、物おじせず、いろんなことにチャレンジしていくアリに助けてもらえそう。自分の目標にできる人生だと思っています」。大胆な衣装、パワフルな歌とダンスも大きな見どころとなる。「気合を入れてボディーメークしないと。退団公演では筋肉が最高にモリッと男用に仕上がっていたので(笑い)、女性としてのしなやかな筋肉をこれから目指していきたい。かなりの挑戦になると思います」と目を輝かせる。
★できるまで
首席入団、スピード出世とピカピカの経歴の持ち主だが「子どもの頃は宝塚を進路に選ぶなんて考えもしなかった」という。きっかけは中学2年の時。初めて見た星組公演「龍星」の安蘭けいにハートを射抜かれ「私もここに入る! と決めてしまった」。幼少期から宝塚受験の英才教育を受ける人も多い中、1年間のレッスンで合格というスター伝説が始まった。
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エリート街道一直線に見えるが、「歌もダンスも、できるようになるまでひたすら練習しているだけなんですよ」と明かす。「たまたま振りもせりふも間違えずに首席になって、しっかりしなきゃという自覚が後からついてきた。毎回どん底まで落ち込んで、悔しくて泣いて」と振り返り、「私に天性の何かがあるとすれば、そういう挑戦が好きということ」と明快だ。
「人前に出るのがトラウマだった」という幼少期エピソードも語ってくれた。小学5年の時、体育委員係の副会長として委員会の仕切り役を任されたが、何もできなかった。「大勢を目の当たりにしたら何もしゃべれなくなっちゃって。先生がフォローに入ってくれてもダメで、何の議題も決められずに終わった。人前でしゃべるのがトラウマになりましたね」。
中学校でとびきり明るい仲間たちに恵まれた。「楽しくてなぜかトラウマを忘れていて、また体育委員になるわけですよ(笑い)。中3で会長になり、まったく同じ状況になった時に、今度は体育祭の議題をバーッと書き出して、まあ見事に仕切ったんですよ。後輩から『先輩の仕切りがかっこよすぎて』と言われて、その言葉でトラウマを克服できました」。持ち前のチャレンジ精神と好奇心を武器に、1歩ずつ道を切り開いてきた。
目指す女優像を聞くと「宝塚時代から、その質問に答えられたことが1回もない」と笑う。「もがきながら自分の男役像を作ってきた宝塚人生だったので、自分にしか出せない女優像を長い時間かけて作っていく予感がする。その場その場を楽しんで挑戦してきたので、きっとこれからもそうやって進んでいくんだと思います」。
■「本当に励み」宝塚、花の95期
宝塚歌劇団の95期は「花の95期」といわれるスター軍団。星組トップの礼、花組の柚香光、月組の月城かなと、雪組の朝美絢、宙組の桜木みなと、同時期ではなくとも、5組すべてにトップスターを輩出している。「私が私が、みたいな人が誰もいなくて、みんなで一緒に頑張ろうみたいな。同期の活躍は誇らしい。本当に励みになります」。
◆礼真琴(れい・まこと)
12月2日生まれ、東京都出身。09年、宝塚歌劇団(95期)に首席入団し、星組に配属。19年にトップ就任。下級生時代から歌、ダンス、演技力と3拍子そろい、トップとして6年にわたって在位した。25年8月「阿修羅城の瞳/エスペラント!」で退団。170センチ、血液型O。
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