羽田近くの施設はガラガラ、成田の周辺は…… なぜ、空港近くの商業開発は失敗しがちなのか

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2025年12月09日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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出所:ゲッティイメージズ

 共生バンクが運営する不動産ファンド「みんなで大家さん」が厳しい局面にある。成田空港近くの場所を開発するプロジェクトの商品において、投資家への支払い遅延が生じていたが、計画地の4割を所有する成田国際空港社(NAA)は、借地契約の延長に応じない方針を決めた。


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 NAA側は、共生バンクに工事の遂行能力がないと判断したという。開発計画の根幹を揺るがす決定である一方で、仮に開発が完了したとしても、採算が取れずに失敗していたかもしれない。過去の事例を振り返ると、空港近くの商業施設が集客に失敗する事例がいくつか存在する。羽田空港近くの施設もガラガラだ。失敗した空港近辺の開発事例とその要因に迫る。


●想定利回りは7%、個人投資家たちが飛びついた


 みんなで大家さんを運営する共生バンクグループは1998年に創業し、当初は店舗や不動産の証券化事業を展開していた。2007年にみんなで大家さんの運用を始め、当初の投資対象物件はパチンコ店や宿泊施設、物流施設など。その後、商業施設やマンションにも手を広げた。


 話題となっている「シリーズ成田」は2021年から運用を開始。現在までに18のファンドを提供しており、投資は1口100万円、想定利回りを7%と設定していることから、多くの個人投資家が同ファンドに出資した。


 シリーズ成田の投資対象は、第2ターミナルの北西にある大型開発用地だ。共生バンクはファンドで集めた資金を原資として、約45.6万平方メートルの土地を「GATEWAY NARITA」として開発する計画を立てている。開発地には商業複合施設や国際展示場、デジタルドームやホテルなどを建設し、賃料で得た利益の一部をファンドの投資家に支払う仕組みだ。


●個人投資家が飛び付いた「みんなで大家さん」の仕組みとは?


 開発地は空港から徒歩で行けない上に、原野だった場所だ。新駅の構想もアピールしている時点で、1970年代に流行った不動産商法を思い起こさせるが、利回りなどは魅力的で、3万8000人が約2000億円を出資したとされる。しかし同ファンドでは7月から分配金の遅延が発生。遅延はシリーズ成田以外でも発生し、投資家による集団訴訟も相次いでいる。


 開発現場は現在、更地のままで建築物はない。そもそも施設がなく、賃料収入がないので分配が滞ったと考えられる。他のファンドにも影響していることから、自転車操業に陥った可能性が高い。


 さらに、開発地の約4割を保有するNAAは、開発用地の賃貸借契約を11月末で終了し、契約更新をしないと発表した。NAAは年間1800万円で土地を貸していた。共生バンクからすれば、訴訟に土地の縮小と八方ふさがりの状況だ。


 だが、仮に竣工まで進んでいたとしても、多くの課題が現れていたかもしれない。というのも、空港近くの商業施設が集客に失敗する事例がいくつか存在するからだ。


●テナントが「わずか3つ」まで激減したモールも


 新千歳空港の隣駅で、2005年にオープンした「千歳アウトレットモール・レラ」はその一つだ。初年度に来客数が400万人を突破し、拡張工事を実施した2007年には500万人を突破。屋外型のモールであり、その珍しさや安いブランド品が注目され、主に道民が利用する場となっていた。


 しかし2010年に「三井アウトレットパーク 札幌北広島」が開業すると、テナントの空きが目立つようになった。札幌周辺では2000年代からモールの開発が相次いでおり、競合が増えたことも関係している。レラは当初の話題性に乗っただけともいえ、積雪地帯において、屋外型モールであったこともマイナスに影響した。


 2010年代から営業担当者を海外に派遣、ツアーを誘致するなどインバウンド強化を図ったが、道民の減少を補うことはできなかった。その後、2024年11月に大規模商業施設としての営業を終了した。公式Webサイトによると、現在入居するのはわずか3テナントに留まっている。


 空港近くの施設は観光客との相性が良さそうに見えるが、観光客は空港付近で遊びたいわけではない。まずは札幌を含んだ中心地を目指すはずで、わざわざ1駅隣で降りるモチベーションは低い。そもそも新千歳空港内に数多くの店舗・飲食店テナントがあり、空港自体が競合なのである。


●羽田近くにも「ガラガラ施設」が


 2023年にオープンした「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)」も、寂しいことになっている。羽田空港の旧ターミナル跡地に開業した施設で、商業施設やホテル、オフィス、研究開発施設などを含み、NTT東日本のオフィスや藤田医科大学の研究施設がある。


 ただ、オフィスやホテルなどは失敗しているわけではない。京急 EXイン 羽田は週末で1人1泊2万円以上、ホテルメトロポリタン 羽田は3万〜4万円台が相場だ。ホテルは空港利用客が見込まれ、オフィスは品川から最短20分という好条件が強みになる


 一方、商業施設は閑散としている。モールのように人の流れがあるわけではなく、人が点在しているような状況だ。週末でも飲食店に人が入らないような状況で、報道によると商業テナントの稼働率は65%だという。施設全体が12棟に分かれており、見た目は商業施設よりも研究所に近い。雰囲気からして商業施設の様相ではない。


 大田区によると、2024年度の来訪者数は7、9、2月のみ前年同月を上回ったものの、年度全体では前年割れとなった。集客力のある施設はライブハウス「Zepp Haneda」くらいで、イベントに左右されている状況だ。施設全体に都内の観光地ほどの魅力があるとは思えず、レラと同様の事例といえる。


●空港近くで成功した施設は、ほとんどない


 千歳アウトレットモール・レラや羽田イノベーションシティの事例をふまえると、仮にGATEWAY NARITAが竣工しても厳しい状況に追い込まれそうだ。商業施設の店舗数は公開していないが、成田空港から離れている上に最寄り駅もないため、新千歳や羽田の事例よりもさらに不利である。客席数5000席超を擁するアリーナの規模感は約3000人のZepp Hanedaに近いが、都心から離れている点がネックである。


 反対に空港付近で成功している商業施設としては、関空近くの「りんくうプレミアム・アウトレット」が挙げられる。中国人観光客にも人気の施設だが、同施設は空港至近なだけでなく、大阪〜和歌山の動線上にあり、両地域の住民のレジャーの場になっている。周辺は市街地で、原野が広がる成田とは対照的だ。


 共生バンクは現在も2027年冬の開業に向けて動いている。予定通り建設が進むのか、それとも中断になるのか。開業した場合でも、数多くの課題が現れることになるだろう。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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