首相官邸に入る高市早苗首相=8日、東京・永田町 中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射を巡り、日中両政府が設けた防衛当局間のホットライン(専用回線)が事実上機能しなかったとの見方が広がっている。中国側は事案発生後も周辺海域で活動を継続。偶発的衝突の回避には安定的な運用が課題となる。
日中両政府は2018年、不測の事態回避や信頼醸成を目的に「海空連絡メカニズム」の運用を始めた。ホットラインはその柱の一つとして23年3月に開設され、防衛省と中国国防省の幹部間をつなぐ。日本側は23年5月に当時の浜田靖一防衛相が行った初の通話を除き、中国側との関係を理由に使用実績を一切公表していない。
レーダー照射を受け、8日に急きょ開かれた自民党国防部会などの会合では、出席者からホットラインが機能していないとの声が相次いだ。稲田朋美元防衛相は終了後、記者団に「メカニズムがどれだけ発揮されたのか、(政府の)説明も必要だ」と指摘した。
レーダー照射を巡る日中双方の主張の食い違いは、ホットラインの機能不全も要因の可能性が高い。海空連絡メカニズムには、防衛当局間の年次会合の開催も盛り込まれているが、これまでの実績は計3回で、当局間の信頼関係構築に寄与しているかは疑問符が付く。
自衛隊幹部は「連絡が取れたとしても事が起きるときは起きる。平素からの関係がないと誤解も招きやすい」と指摘する。
防衛省によると、中国海軍の空母「遼寧」は沖縄本島―南大東島(沖縄県)間の海域を進み、艦載機の発着艦は6、7両日で計約100回に上った。偶発的衝突の懸念がくすぶる中、意思疎通をどう図るかが問われている。