2025年FIA F2第14戦ヤス・マリーナ 宮田莉朋(ARTグランプリ/TGR-DC)
2025年シーズンのFIA F2は第14戦ヤス・マリーナ(アブダビ)で最終戦を迎えた。FIA F2参戦2年目の宮田莉朋(ARTグランプリ/TGR-DC)は今季、シーズン序盤からエンジンに起因するストレートスピード不足に悩まされ、苦しいシーズンが続いていた。その症状は、最終戦でも改善されず、宮田を苦しめた。
「今シーズンの問題・課題だったストレートスピード不足はアブダビでも大きく影響しました。コーナーで頑張らなければ簡単に抜かれてしまう状況で、予選、決勝ともにかなり厳しかったです」と、宮田はレースウイーク後の取材で振り返った。
金曜日のフリー走行を9番手で終えた宮田。走り出しとしては悪くないポジションに思われたが、マシンのストレートスピード不足は顕著であり「正直、続く予選を9番手で終えられるとは思いませんでした」と、フリー走行でのシングルフィニッシュも決して展望は良いものではなかった。
「それでもARTグランプリと一緒にストレートスピードを改善できる部分をなんとか見つけられないかと臨みました。ただ、良くない想定どおりに予選はトップ10に入ることができず、14番手で終えました。ヤス・マリーナ・サーキットはストレート区間が長く、ストレートスピード不足の影響は大きかったです。あれが限界でした」と、宮田。
土曜日のスプリントレースでは、序盤に宮田の前にいたジョン・ベネット(ファン・アメルスフォールト・レーシング)が白煙を上げてストップし、宮田は13番手に浮上する。終盤まで13番手を守ったが、22周目のバックストレートエンド/ターン6でセバスチャン・モントーヤ(プレマ・レーシング)にかわされる。続くターン9で宮田が粘り、一旦はポジションを戻すが、ファイナルラップで再度モントーヤにかわされ14番手でチェッカー。その後他車にタイムペナルティが下り、正式結果は13位となった。
「コーナーでタイヤを使ってトラクションで頑張らなければ簡単に追いつかれてしまう。もしくは引き離されてしまう状況でした。タイヤをセーブする・しないという次元ではありませんでした」
宮田は日本でもそうであったとおり、タイヤマネジメントに秀でたドライバーだ。そんな宮田がタイヤを使うことでしかライバルに太刀打ちできないクルマのパフォーマンスだった。
「最後はDRS(ドラッグ・リダクション・システム)圏内にも入られましたし、相手はアブダビに限らず今季どこでもストレートが速いクルマでした。僕にとっては一番厄介な相手でもあり、なんとかポジションを守ろうとしましたが……厳しかったです」
日曜日のフィーチャーレースはタイヤ交換義務があるなか、宮田はオプションタイヤ(柔らかめ/スーパーソフトタイヤ)でスタート。ただ、オープニングラップの混乱で17番手までポジションを落としてしまう。そんななか、2周目のターン7でビクトール・マルタンス(ARTグランプリ/ウイリアムズ育成)と接触したアレクサンダー・ダン(ロダン・モータースポーツ)がマシンストップ。そのダンのマシンに後続のキアン・シールズ(AIXレーシング)が追突。この混乱をうまく抜けた宮田は一気に12番手まで浮上する。
このアクシデントでセーフティカー(SC)が入り、レースは6周目に再開。宮田が9周目にプライムタイヤ(硬め/ミディアムタイヤ)に履き替えた直後、モントーヤがマシンを止めてバーチャル・セーフティカー(VSC)が導入。そのVSCは2度目のSCに切り替えられた。この2度目のSC時点でプライムタイヤスタート勢8台がタイヤを替えておらず、宮田は15位/タイヤ交換組7番手という好位置につけた。
その後、同じくタイヤ交換組のクッシュ・マイニ(ダムス・ルーカスオイル/アルピーヌ育成)にかわされるも、全車がタイヤ交換義務を消化すると宮田は8位に浮上しチェッカー。今季7度目の入賞を果たし、ドライバーズランキング17位という結果で2025年シーズンを締め括った。
「フィーチャーレースは運良くSCリスクを避けることができ、ポイントを獲得することができました。本当にやり切ったレースだったと思います。クルマのパフォーマンスと自分のドライビング、どちらも毎ラップでベストを尽くし切りました。もし、シーズン序盤に同じ状況を迎えていたら、もっと苦戦していたと思いますので、少なからず自分はこの1年をとおして強くなれたと感じています」と、宮田。
波乱の2025年シーズンを終えた宮田に、FIA F2参戦2年目の『良かったこと』、『悩んだこと』をそれぞれ聞いた。
「2024年はゼロからのスタートでしたが、2025年はFIA F2での経験が1シーズンある上で、各サーキットのことを知った上でレースができました。ただ、『良かったこと』というのは難しいですね。いろいろな条件が重なり、結果を残すことができないシーズンで本当に苦しかったです」
「唯一、救いとなったのがスパ・フランコルシャンでの2位です。ある程度の条件が重なれば、あそこまで行けることは間違いないということを確認できたことはポジティブでした。地道な部分をしっかり積み重ね、ベストを尽くし切り、マシンのパフォーマンスが高い位置にあれば、スパのようなレースはできると思います」
「『悩んだこと』は、マシントラブルが続いたことやマシンパフォーマンスなど、自分にはどうしようにもできないことが多かったことです。そこは1年目よりも厳しかったですね。そんな状況下でも自分のできること、改善できることを追い求めて、頑張ってきたシーズンでした」
12月8日に発表されたように、宮田は2026年に向けてTOYOTA GAZOO Racingと提携するハイテック(チームのエントリー名はハイテックTGR)に移籍し、FIA F2参戦3年目を迎える。
「彼らは今季チームランキング2位を獲得しています。これまで外から見ていて、現行マシンになってから強さを見せるチームだなと思っていました。まずは彼らから吸収できることを吸収し、学べることを学んで生かしたいです。自分も3シーズン目を迎えますが、毎シーズン違うチームでの戦いなので、より多くの経験を積めていると思います。その経験を生かしてすべてのレースでベストを尽くし切ります」
最後に『2026年の目標』を聞いたところ「今明確にするのは避けたいと思います」と、宮田。
「というのも、FIA F2はすべてがまとまらないと厳しいレースで、今季は自分だけではどうすることもできない事態を目の当たりにしました。ポールポジションや優勝、シリーズタイトルを獲得したいのは当然です。ただ、今は目の前のテストやハイテックTGRと一緒に時間を過ごすことに専念し、そこから明確なターゲットを作り、挑みたいと考えています」
2025年シーズンのFIA F2は幕を閉じた。ただ、12月10〜12日にはヤス・マリーナでFIA F2ポストシーズンテストが行われ、宮田はハイテックTGRから出走する。宮田のFIA F2参戦3年目の戦いは、すでに始まっている。
[オートスポーツweb 2025年12月09日]