
実際、警察庁の統計によると、2024年の配偶者間の暴力相談件数9万4937件のうち、男性の被害件数は2万8214件(29.7%)と約3割を占めているのだ。
私が見た妻からのモラハラ
ヤスコさん(38歳)が電車内で見たのは、乱暴な言葉を発し続ける妻だった。「昼間のそれほど混んでいないけど立っている人もいるという電車内。私は立っていたんですが、50代の夫婦らしき男女が前に座っていたんです。その妻の方が、ずっと夫に文句を言い続けている。それも言葉が乱暴で……。
知人にでも会った帰りだったのかもしれません。『あんたはどうしていつもああいうことを言うのよ。バカじゃないの』『人の気持ちを考えなさいって言ってんの。ほんっとに頭悪いんだから』って。
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電車内で妻に怒られる夫の気持ちは考えないのか、とヤスコさんは心の中でツッコんでいたそう。決して小声ではなかったので、周辺の人たちはチラチラと妻の顔を見ていたが、妻の暴言は止むことがなかった。
また、マリさん(40歳)は、スーパーで夫を「グズ」「のろま」と大声で怒鳴り続ける妻に遭遇した。店中に響き渡る声だったため、店内に入ってきた人たちは一様に「何が起こっているんだ」と息を呑むような状態だったという。
怒鳴った後に一転し……
「『あんたは、どうして先を予測して動けないの!』『遅いって言ってんだよ』と金切り声を上げていました。妻はボサボサ頭でしたが体格もよくて、夫は小柄で細身。取っ組み合っても夫が勝てるとは思えない感じでしたね。ただ、休日夕方のスーパーで、どうしてあんな大声を張り上げるのか、夫の気持ちうんぬんも大事だけど妻自身が、みんなに見られてかっこ悪い、みっともないと思わないのか、不思議でたまりませんでした」
あまりのことにマリさんは、自然とその夫婦の近くに寄って耳をそばだててしまった。すると妻は突然、「ほら、これ、あんた好きでしょ」と夫の好みらしいヨーグルトをかごに入れたりしていた。
怒鳴りつけて萎縮させ、次の瞬間に優しくなるのはDVの典型だが、果たしてそうなのか、あるいはさすがの妻も通報などされたら困るからと急におとなしくなったのか、そのあたりは分からない。
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夫を罵倒していた私
自分ではモラハラと認識していなかったが、夫から離婚を切り出されて初めて、自分が暴言を吐いていたと気づいたと言うマサエさん(44歳)。「新卒で入った会社の同期だったんです。彼からはずっとアプローチされ続けていたけど私は断っていた。でもこういう人の方が大事にしてもらえるかもしれないと思って、29歳のときに結婚したんです」
確かに彼は大事にしてくれた。そしてマサエさんはどんどん傲慢(ごうまん)になっていった。私が結婚してあげたんだから、あなたはもっと私に尽くして当然だと言ったこともある。
「子どもも『産んでやった』と思っていたし、そう言ったとも思う。夫は夜泣きする子をずっとあやしてくれたけど、私は『早く泣き止ませてよ。どうしてできないの、父親でしょ』と責めました。
産休、育休を経て職場復帰したものの、結局、両立できなくて仕事を辞めた。それも夫のせいだと思ってイライラしました」
なにもかも夫のせい。そう思うことで、ほんの少しストレスが減少していたのかもしれないとマサエさんは言う。
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離婚が成立した後に
「どこでも叫んでいました。『なにやってんのよ、このグズ、ハゲ』って。ちょうど髪が薄くなってきたのを気にしていたので、よくそうやっていたぶっていた。言い始めると止まらなくなるようになって、外で警察を呼ばれたこともあります」ついに夫が子どもを連れて実家に戻り、弁護士を立てて離婚を請求してきた。調停、裁判を経て離婚が成立したのは5年前だ。当時8歳だった息子は、マサエさんを怖がっていた。
「私はその後、心療内科に通いました。私がモラハラしてしまうのは、私自身がそうやって母から罵詈(ばり)雑言を浴びて大きくなったから。それが分かって、少しだけ変われたような気がします。今は時々息子とも会えるようになりました」
他の人には「人当たりのいい女性」と思われていたマサエさんだが、身近で自分の全てを受け入れてくれる夫には、自身の闇が全開してしまったのかもしれない。
つい夫を怒鳴りつけてしまう、夫にイライラが止まらないと心当たりがあるなら、専門家に相談してみた方がいいのではないだろうか。
<参考>
・「令和6年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」 (警察庁)
(文:亀山 早苗(フリーライター))
