
米NASAゴダード宇宙飛行センターなどによる研究チームが発表した論文「CH3OH and HCN in Interstellar Comet 3I/ATLAS Mapped with the ALMA Atacama Compact Array: Distinct Outgassing Behaviors and a Remarkably High CH3OH/HCN Production Rate Ratio」は、太陽系の外から飛来した彗星「3I/ATLAS」から生命の材料となりうる有機分子が検出された研究報告だ。
3I/ATLASは2025年に発見された3番目の恒星間天体であり、明確なコマ(彗星周囲のガスやダスト)を持つ恒星間彗星としては2I/Borisovに続く2例目だ。研究チームは8月下旬から10月上旬にかけて、太陽からの距離が2.6天文単位から1.7天文単位の範囲でこの彗星を追跡。「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」(ALMA)で観測した結果、メタノールとシアン化水素という2種類の分子を確認した。
メタノールとシアン化水素はいずれも生命前駆物質として知られる。メタノールはより複雑な有機分子の材料となり、シアン化水素はアミノ酸や核酸塩基の形成に関与する可能性がある。
メタノールとシアン化水素の存在比が特徴的だ。9月の観測で得られた比率は79〜124に達し、観測された太陽系彗星のほぼ全て(C/2016 R2以外)を上回った。太陽系彗星の平均値は26程度であり、3I/ATLASがいかにメタノールに富んでいるかが分かる。この異常な組成は、3I/ATLASが形成された別の恒星系における化学環境が太陽系とは大きく異なっていたことを示唆している。
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2つの分子は全く異なる放出パターンを示した。シアン化水素は太陽と反対側の半球で多く放出されていたのに対し、メタノールは太陽側で増加していた。研究チームはこの違いについて、彗星核の組成が場所によって異なる可能性や、メタノールが核からの直接放出だけでなくコマ中の粒子からも供給されている可能性を指摘している。
Source and Image Credits: Roth, Nathan X., et al. “CH $ _3 $ OH and HCN in Interstellar Comet 3I/ATLAS Mapped with the ALMA Atacama Compact Array: Distinct Outgassing Behaviors and a Remarkably High CH $ _3 $ OH/HCN Production Rate Ratio.” arXiv preprint arXiv:2511.20845(2025).
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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