
米ジョージアサザン大学などに所属する研究者らが2024年に発表した論文「Typed Versus Handwritten Lecture Notes and College Student Achievement: A Meta-Analysis」は、講義中に手書きでノートを取るのと、タイピングでPCに記録するとではどちらが学習効率が良いのかを分析した研究報告だ。
大学生の多くがノートPCやタブレットで講義ノートを取るようになった現在、手書きとタイピングのどちらが学習効果に優れているのかという議論が続いてきた。24年に発表されたメタ分析研究は、この問いに対して一つの答えを示している。
この研究では21本の論文に含まれる24の実験研究を分析し、合計3005人の大学生のデータを検討した。結果、手書きでノートを取り復習した学生は、タイピングでノートを取った学生よりも高い学業成績を収めることが明らかになった。統計的に有意であり、一貫した効果が認められた。
注目したいのは、ノートの量に関してはタイピングの方が有利だという点だ。タイピングで取ったノートは手書きに比べて記録される単語数や情報量が多いにもかかわらず、最終的な学習成果では手書きが勝るのだ。
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この結果を研究者たちは3つの観点から説明している。第1に、手書きノートは講義内容を自分の言葉で言い換えながら記録する傾向があり、これがより深い情報処理につながる。一方、タイピングでは講師の言葉をそのまま打ち込みがちで内容の理解が浅くなる。
第2に、手書きノートには図表やイラストが多く含まれる傾向がある。ある研究ではタイピング組が講義中の図を一つも記録しなかったのに対し、手書き組は複数の図を書き写していた。第3に、タイピングで記録される情報量が多いとはいえ、テストに出題される重要な内容の記録量は両者で差がないことが分かっている。
復習の有無による影響も検討されており、正式な復習時間が与えられた場合、手書きノートの優位性はさらに拡大することが示された。平均点75点、標準偏差10点の科目を想定すると、手書きでノートを取る学生の9.5%がA評価を得られると予測されるのに対し、タイピング組でA評価を取れるのは6.0%にとどまる。逆にD評価やF評価の割合はタイピング組の方が高くなる。
ただしこの研究には限界もある。分析対象となった研究のいずれも障害がある学生への配慮を検討しておらず、身体的・認知的な理由で手書きが困難な学生にこの結論をそのまま適用することはできない。また、講義で提示された図表の総数を報告していない研究が多く、図の多い講義と少ない講義で結果が異なる可能性も残されている。
Source and Image Credits: Flanigan, A.E., Wheeler, J., Colliot, T. et al. Typed Versus Handwritten Lecture Notes and College Student Achievement: A Meta-Analysis. Educ Psychol Rev 36, 78(2024). https://doi.org/10.1007/s10648-024-09914-w
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※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2
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