「技術だけ変えても“江戸時代”のまま」 Gartnerが示す「AI共生時代」に必要なマインドセット

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2025年12月12日 11:21  ITmediaエンタープライズ

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 ガートナージャパン(以下、Gartner)は2025年12月10日、2026年に企業が獲得すべきマインドセットを提示した。AIとの共存が前提となる時代を迎える中、ビジネスの再定義と素早い変革が不可欠と指摘した。


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●「AI共生時代」の危機を乗りこなす4つの視点


 Gartnerの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリスト)は、急速な変化が続く状況で従来型の思考に固執する企業は、環境との隔たりによって不利な立場へ追い込まれる可能性が高く、早期に新たな視点を備える必要があると述べた。2026年に求められるマインドセットは、「適切な時代認識」「New Worldの創造」「江戸の店じまい」「ファンダメンタル」の4区分に整理される。


適切な時代認識


 「適切な時代認識」は自動車やメディアを中心に進むデジタル変革が産業構造そのものを揺さぶっている現実を直視することだ。人材や知識、テクノロジーを組み合わせた備えが欠かせないとGartnerは強調する。対応が遅れた場合、今後の競争領域で存続が難しくなる恐れがあるとした。


New Worldの創造


 「New Worldの創造」は従業員が安心して能力を発揮できる場を整えつつ、「機械にできることは機械にやらせる」を前提に新しいビジネス・アーキテクチャに転換するというマインドセットだ。2030年までに伝統的なコールセンター業務の多くがAIに置き換わるとGartnerは予想しており、高度な自動化によって事務作業の大部分が機械処理へ移行する可能性がある。人間が担う領域を見極め、既存業務の前提そのものを改める発想が必要とされている。


 また、IT部門が業務の後追いに終始する従来の構造では変化に柔軟に対応できないとGartnerは説明した。デジタル技術をただ利用するだけでなく、デジタルを前提に組織を構築する姿勢へ切り替える必要があるとしている。AIなどの高度なテクノロジーを扱える人材の育成が、競争力の源泉になるとの見解を示した。


 AI共生時代への備えについては、AIエージェントやヒューマノイドの広範な導入によって、人間の能力や在り方が問われる局面が到来していると述べた。AIの強化が進むほど、人が機械に代替される恐れが高まるため、企業は人間が活躍できる組織像を再構築する必要があるとした。


江戸の店じまい


 「江戸の店じまい」は、レガシーマイグレーションに関する議論が単なるテクノロジーの移行に関する議論に終始している現状を指摘した言葉だ。


 「業務を変えないでテクノロジーだけを変えてもシステムはあくまでも従来のまま」だとGartnerは指摘し、このような現状を「“江戸時代”のような従来型のシステムをアレンジしたものに過ぎない」という意味で「江戸ダッシュ」と表現した。レガシーシステムを扱える人材は高齢化が進んでおり、経路変更を先送りにすることは大きなリスクになると述べている。


 コスト上昇への対応策として、高い交渉能力を持つことも求められる。老朽化した基盤の維持費やサポート費が上昇傾向にある中、2028年までにメインフレーム移行を試みる企業の多くが大幅な値上げに直面するとGartnerは見ている。


 クラウド移行では生成AIやAIエージェントの拡大によってクラウドの位置付けそのものが変化しており、戦略の再整理が必要としている。経営層は移行を重大な経営課題と捉え、業務を見直したり不要な業務を整理したりして、円滑に移行する体制を整える必要があるとした。


ファンダメンタル


 「ファンダメンタル」ではベンダーとの関係再考が重要視されている。IT部門が受動的な立場から脱し、自らテクノロジーを扱う能力を高める姿勢が求められる。デジタル前提の構造を構築できるパートナーを戦略的に選択する視点が重視される。


 時代に沿った言葉の使い方も実務上の重要項目と位置付けられている。意思決定の場で使われる表現が受動的だと、主体的な行動につながらない。自ら学び、試し、戦略を描く姿勢が重要とされる。Gartnerは、2028年までに日本企業の多くが、この点を改めないと継続的な衰退に直面する可能性を示した。


 亦賀氏は健全で活力ある企業はPeople-Centricを軸に人材とテクノロジーへの投資を続け、AIを扱う能力を高める組織へ進化するとの見方を示した。AIの浸透によって組織の姿は二分され、従業員が不安を抱えて活力を失う企業と、人間性を強めつつ成長する企業との差は2030年にかけて拡大するとの認識を示している。



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