
130年の歴史を持つ音楽業界のリーダー企業・Billboard(ビルボード)が、「7年間で300%成長」を達成させようとしている。その鍵は、核心であるチャート事業を基盤とした「言語圏戦略」だ。この7年でビルボードブランドでの事業展開を、5から16の言語圏へと拡大させる。
6月27日に東京で開催した、アジアのビルボードパートナーが一堂に会する初のカンファレンス「Billboard ASIA Conference 2025」で、ビルボードCEO マイク・ヴァン氏と各国の現地パートナーが明かしたのは、世界各地の言語コミュニティを一つの市場として捉えてアプローチし、300%成長を実現していく事業戦略だ。
マイク・ヴァン氏によると、2025年末までに16の言語圏に事業展開する計画だという。同時に、メディアコンテンツやライセンシング、イベント、データサービスという主に4つの事業セグメントを確立させ、単一収益モデルからの脱却により急成長を実現している。
各国のビルボードを代表するパートナーは、カンファレンスの中で具体的な成果を報告した。フィリピンでは2023年のローンチ以降、45%の成長を達成し、広告事業ではイベントに関わる収益が50%を占めるまでに拡大している。
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全収益の90%をストリーミングが占めている中国の音楽市場においては、46万4000人のフォロワー獲得や月間330万のインプレッション(表示回数)を達成し、リーチの対象範囲を伸ばした。ビルボード各国の成功事例を通じて、飛躍的成長を支える収益化の仕掛けに迫る。
●ビルボードCEOが明かす「言語圏」戦略 300%成長の仕組みとは?
ビルボードCEOのマイク・ヴァン氏は、同社のグローバル展開における戦略転換について、2025年末までに16の言語圏での事情展開を計画していることを明かした。
「2018年、CEOに就任した時、グローバルビジネスは初期段階でした。5つの言語圏で事業展開していた頃だと思います。2025年の終わりには、16の言語圏に展開していく予定です。それが300%の成長につながります」(マイク・ヴァン氏)
同氏は世界各地に点在する言語コミュニティへの効率的なアプローチについて、次のように語る。
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「ファンやアーティストを業界内でエンゲージメントするだけではなく、国内に加え、世界中のファンを獲得するためにも、言語圏というのは重要です。日本人コミュニティがペルーやブラジルにいたとすると、その日本人コミュニティにもリーチできます。ビルボード・ジャパンとパートナーシップを組むことによって、国外の言語圏でさらに展開をしていくというイメージを持っています。グローバル成長の中でのアジアの役割は、非常に重要です」(マイク・ヴァン氏)
同社の急成長を支える要因として、メディア企業が陥りがちな単一収益モデルからの脱却についても挙げた。
「メディアブランドと1つや2つの収益モデルというのは、いずれ失敗すると思っています。われわれはハイブリッドモデルを作りました。メディアコンテンツやライセンシング、イベント、データサービス、この4つです」(マイク・ヴァン氏)
特にチャートデータを事業の中核に据えた戦略について、同氏は「チャートがなければビジネスがないと言えるぐらい」と表現した。130年の歴史で培った権威あるチャートシステムを基盤として、多角的なビジネス展開をしている。
4つの収益源の相互作用により、単一事業への依存リスクを回避しつつ、各市場の特性に応じた柔軟な事業展開を実現。言語圏戦略と組み合わせることで、16の言語圏での事業展開で300%という驚異的な成長を達成させる見通しだ。
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●フィリピン グループシナジーで45%成長
ビルボード・フィリピンを代表するモダン・メディアグループCOOのアン・バーニスカ氏は、同社は大手マルチメディア企業AGC Power Holdings傘下のメディアブランドであり、「エディトリアルやクリエイティブの強みを共有し、ファイナンスやPR、イベント運営までを一体化することで効率性とスケーラビリティを実現している」と説明。グループとしての相乗効果を強調した。
収益構造の変化についても「2023年のローンチ以降、ビルボード・フィリピンは45%の成長を遂げました。2025年からは収益の重心がイベントとスポンサーシップに移り、広告事業におけるイベントの割合はすでに50%に達しています」と話す。
さらに「ビデオコンテンツが23%、デジタルが15%を占めるなど、多角化が進んでいます。こうした成長は、アーティスト主導のコンテンツやイベントによって支えられており、広告主やブランドパートナーにとって高い価値を生んでいます」と強調した。
オーディエンス分析では「われわれの強固な基盤はZ世代(1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代)や若いプロフェッショナルといったデジタルネイティブ層です。フィリピン国内が主軸ですが、米国、カナダ、UAE、日本からのアクセスも増えています」と説明。さらに「ファンコミュニティの結束はデジタル上で一層強まり、国境を越えたエンゲージメントにつながっています」と強調した。
●中国 テンセント連携と独自コンテンツで拡大
ビルボード・チャイナを統括するPenske Media Corporation(PMC)のヴァイス・プレジデントであるグージー・チマ氏は、世界5位の音楽市場規模(国際レコード産業連盟調べ、2024年 年次報告書)である中国での戦略について説明した。同氏は「ストリーミングによって全体の90%以上収益を得ている」と話す。
同社はIT企業・Tencent(テンセント)との連携により、競合他社との差別化を図っている。テンセントは中国のデジタルエコシステムにおいて音楽ストリーミング、ソーシャルメディア、ゲーミングで支配的地位を確立している。
モバイルファースト戦略の徹底により、紙媒体やWebサイトを運営せず、WeChatやWeibo、bilibili、QQ Music、rednoteなどの中国独自プラットフォームで事業を展開している。その結果、現在は約46万4000フォロワーと月間330万インプレッションを獲得している状況だ。
コンテンツ戦略について、同氏は「ビルボード・チャイナチームが作ったオリジナルコンテンツが80%、翻訳コンテンツが20%」と語り、自社制作能力を重視したビジネスモデルを構築している。
雑誌の表紙(カバーストーリー)をデジタル媒体に置き換えたデジタルカバーストーリー事業では、33のアーティストで12億のビューを獲得。収益化に成功した日本音楽の市場ポテンシャルも大きく、グローバル音楽市場でトップ3の地位を占めている。
フィリピンや中国において独自のコンテンツ戦略で成果を上げる中、韓国はK-POPの世界的成功で培ったノウハウを生かし、次世代ビジネスモデルを展開している。関連記事「なぜK-POPは伸び続けるのか? ビルボードが語る『ファン起点の成長戦略』」では、アジア発の実践事例から音楽配信時代における持続的成長の実践手法に迫る。
(フリーライター 佐藤匡倫)
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