
<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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今年もプロ野球界に希望の星たちが足を踏み入れた。高校、大学、社会人、独立リーグから逸材を受け入れるそのドラフトで異常現象が生じた。セ・リーグ6球団でキャッチャーの指名がなかったのは珍しい事態だった。
今ドラフトでは、計116人(支配下73人、育成43人)が指名を受けた。育成ドラフトでは複数がリストアップされたが、支配下ドラフトでセ・リーグから捕手の指名が「0人」だったケースは、最近では異例のことだ。
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10年前のドラフトまでさかのぼってみたが、どのチームも必ずキャッチャーを指名してきた。例えば17年には中村奨成(広島)、山本祐大(DeNA)、岸田行倫、大城卓三(巨人)、村上宗隆(ヤクルト)の5人が指名に至った。
また15年も、DeNA(戸柱恭孝)、中日(木下拓哉)、広島(船越涼太)、阪神(坂本誠志郎)、巨人(宇佐見真吾)の5球団が捕手の入団にこぎつけている。それが25年のセ・リーグに関しては“捕手枠”を埋める球団が見当たらなかったのだ。
今年のドラフト市場は全体的に“不作”の年だったという。セ・パ両リーグの編成責任者の話を総合すると、今年は例年と比較して、高校、大学、社会人のすべてのカテゴリーで、リストに載せる候補選手がそろわなかったという。
26年度については、渡部海(青学大)、前嶋藍(亜大)ら即戦力といわれている捕手が粒ぞろいで、早くもドラフト有力候補に挙げられている。例えばそれを見越して今年は手をつけなかったのかといえば、そうでもないようだ。
阪神がリリーフの島本浩也と、日本ハム・伏見寅威の交換トレードを成立させた。ただ、ベテラン捕手を補強した事実と、キャチャーの指名に至らなかったドラフト戦略との関連性は薄い。
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特に、プロで通用する一人前に育つまで、時間、指導力のかかる「捕手」は是が非でも補強しておきたいポイントのはずだ。しかし、複数の球団首脳がキャッチャーの人材不足を認めている。“捕手受難”の年だったということだ。
また最近の傾向では、社会人出身が下位指名でプロ入りするケースが以前より確実に多くなった。かつてはトップ企業に就職した選手のドラフト指名が下位の場合、会社側から拒否反応を示された。プロ・アマ間の“カベ”も存在し、一流企業としてのメンツもあった。
だが、そこには日本社会の雇用形態の変化が微妙に影響している。現代の各企業では「終身雇用」の限界を認めるようになった。その証拠に、会社によっては「リストラ」「退職勧奨」を乱発する。結果、人材不足を嘆く始末もあるが、従来の終身雇用制度を守ることができなくなっている。
雇用情勢が変わってきたことで、自社の選手が下位指名でもプロ行きを引き留めるケースが減少してきたと言えるのかもしれない。また選手も、会社が最後まで面倒をみてくれないのなら、先行きが不安でもプロで勝負したいと考えるのだろう。
1965年(昭40)の第1回ドラフト会議から、今年は60年の歳月が流れたことになる。その間、制度改正を繰り返しながら変遷したドラフト史だが、少子化、野球人口減少に、今後もさまざまな社会の動向によって姿を変えていくのかもしれない。
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