
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、料理家の今井真実さんゲストの後編です。
ステーキ肉は大きさよりも“分厚さ”で選ぶ
オージー・ビーフのPRアンバサダーを務める今井さんが、今年7月、大阪万博のオーストラリアパビリオンの野外ステージに立った。 用意した肉はなんと40キロ。2日間で2,000人分ものステーキを焼き上げたという。
「そこで披露したのは、濃厚発酵梅ソースをかけて、薬味にディルを使ったもの。梅とディルって、牛肉にすごく合うんです」
2025年万博!
— 今井真実 料理家 (@mamiimai_gohan) July 29, 2025
無事オージービーフのデモンストレーションが終わりました。
皆様に心からのお礼を申し上げます。
ずっと気が張っていたから、今は抜け殻です… pic.twitter.com/kY5onJuAMQ
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スーパーなどでステーキ肉を買う際には、ついつい大きいものを選びがちだが、できるだけ“分厚いもの”を選ぶことが重要だという。
「大きいものは火が入りやすいんです。入っているかなって思っているうちに入りすぎて、余熱でもどんどん火が入って硬くなってしまう。でも、厚みがあればあるほど、その猶予がある。取り返しがつくんです。切ってみてレアだったら、もう一回焼けばいいだけです」
ちなみに、4〜5センチくらいの厚みのある肉は、スーパーや精肉店などで簡単に手に入るとのこと。
「スーパーと上手にお付き合いをしてもらいたいなと思うのですが、スーパーの精肉売り場に行ったら切ってもらえるんですよ。3日前くらいに言っておけば、普通に切っておいてもらえるので、ぜひ注文してみてもらいたいですね」
焼く前の鉄則は「中までぬるくする」こと
ステーキ肉は、焼く前に30分程かけて常温に戻すことが大切だと今井さんは力説する。
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「本当にぬるくなるくらいまで戻してほしいのですが、時間がないときはぬるま湯に入れてもらえば、結構早く中までぬるくなります。ぬるくなると中に火が入りやすくなる。外ばかり焦げて中が冷たいということを防げます」
また、肉汁は必ず拭き取り、時間があるのなら、しっかりと乾かすことも大事なポイントであるという。
「お肉の表面が乾いていれば、脂と接地した面がこんがりとした焼き色になります。水分が残っていると、その部分がじゅくじゅくになっちゃうんです。こんがりとした香ばしさと食感のコントラストがあると、よりおいしくなりますからね」
ステーキ肉を焼く際は、弱めの中火にし、焼き時間は肉の厚さによって調整しているそう。
「定規で厚さが何センチかを測って、例えば4センチだったら片面4分ずつ、2センチだったら2分ずつで焼きます。いろいろなステーキの焼き方がありますが、ご家庭で一番やりやすいのはこれだと思いますね。肉を休ませる時間は焼いた時間と一緒です」
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ポッドキャスト収録中に焼いてくれた肉厚のステーキ。
オージービーフの魅力は“赤身のおいしさ”
大阪万博でも披露した「濃厚発酵梅ソース」は、甘酒と味噌、醤油、そして梅干しで作る。
「甘酒は風味が強いですが、強めの中火にかけて煮詰めることによって、風味もまろやかになりつつ、濃厚な甘みとかうま味が入ります。煮詰めてカラメル状になってきたら、味噌、醤油、ごま油、梅干しの果肉、すりごまを加えて混ぜ合わせれば完成です。梅干しが入っていますが、そんなに酸っぱくない丸いソースで、すごくおいしいです」
今井さんは幼稚園くらいのときから、すでに料理が大好きだったという。
「両親が商売をしていたのですが、同じ敷地にいとこの家があって、両親が帰ってくるまで一緒にご飯を作っていました。いとこの家は料理雑誌を定期購読していたので、料理雑誌やレシピ本も読み漁っていましたね」
仕事で忙しいお母さんのために、自分の家でも料理の手伝いをしていたとか。
「母は帰ってきてから料理をするので、その前にメニューを選んでおいたり、ちょっと下ごしらえをしておいたり、ご飯を炊いておいたりといったことをしていましたね」
オージービーフのPRアンバサダーになったきっかけは、肉好きで牛肉レシピをたくさん出していたことから、オージービーフ業界の方から取材を受けたことにある。
「そこで『アンバサダー制度が始まるのですが、どうですか?』と言われたんです。新しいことに挑戦するのは怖いタイプだったのですが、実際にオーストラリアに行って勉強するのは貴重な体験だなと思って、やってみることにしました。そこから本当に自分の世界が変わって、何かに飛び込むことにも恐れなくなりましたね」
オージービーフの魅力は、“赤身のおいしさ”にあると今井さんは言う。
「オージービーフの研修旅行で、15ヶ国の25人のシェフと一緒にオーストラリアを10日間周って、朝から晩までオージービーフを食べたんです。バス移動や飛行機移動が多い大変な10日間だったんですけど、へたらなかったんですよ。パワーがちゃんと体につくというか。そして、太りもしなかった。女性の体に赤身肉はすごく必要だし、体にもいい。そして、いくら食べてももたれないから、水のように食べられるんです」
オージービーフは、基本的には広大な自然の中で放牧で育てられるため、脂の質も違うという。
「自然のままに育てられて、最後に肥育するか、そのまま出荷されるかなんです。そのまま出荷されるとグラスフェッドビーフになり、その後に穀物肥育をすると脂が入ってくるんです。だから、どの牛肉が好みかというのが、割と細分化されているんです」
「梅」は世界に広がる可能性がある食材
今井さんは梅干しも手作りしていて、“梅しごと”に関する本も出している。梅干し作りは大変そうなイメージを持つ人が多いが、全く難しくないと断言する。
「梅しごとを始めるときに、梅シロップに挑戦される方が多いんですけど、梅シロップより梅干しのほうが簡単です。梅シロップはカビやすいですが、梅干しは塩分が多いのでカビにくい。だから、失敗が少ないのは梅干しです。実は干さなくてもよくて、塩漬けしてそのまま召し上がっても大丈夫です。料亭とかだと干さないんですよ」
最近は、梅しごとに興味を持つ人やチャレンジしてみたいと思っている人も増えてきていると感じているという。
「完熟梅をダージリンティーと砂糖で煮るだけで作れる『梅ダージリン』のレシピを本で紹介したのですが、それに派生したレシピがいっぱい生まれていると感じます。梅干しと梅シロップだけではなく、いろいろな梅の使い方ができるということが伝わってきている気がします」
「梅ダージリン」はシロップとして割ってもいいし、グラニテにしてもいいし、ゼリーにしてもいいという優れもの。いろいろと試していくうちに完成したレシピなのだとか。
今井さん考案の完熟梅を使った「梅ダージリン」
「日本茶、中国茶、いろいろなハーブティーなどで試して、ダージリンが一番いいなと思ってレシピに載せました。でも、ほかのお茶もそれはそれですごくおいしいんですよ。今年『梅ローズヒップ』という新しいレシピもネットに載せたのですが、梅はクリエイティビティを刺激する、すごく可能性を秘めている食材です。まだまだいろいろな遊び方がありますね」
大坂万博でも、梅に興味を持つ外国人の方がたくさんいたそう。
「私がソースを作っているとみんな近づいてくるんですよ。鍋の中を覗いてくるからめっちゃプレッシャーで(笑)。食べてもらったら、『味の強いドライトマトみたい』って言っていましたね。でも、ソースに仕立てるとすごくおいしいので、外国の方にも受け入れられやすい食材やなって思っています。食べ方とかを工夫すれば世界に広がる可能性もあるでしょうね」
日本の「家庭料理」を世界に発信していきたい
今井さんは仕事などで海外に行くこと多いが、さまざまな場面で日本の家庭料理の広がりを感じているそう。
「オージービーフのPRアンバサダーになったときに、みんなで料理対決があったんです。そこで寿司飯に梅酢と梅干しを混ぜて、ステーキを乗せた、ステーキのちらし寿司を出したんです。そうしたら、『この寿司飯すごくおいしい』って。『日本の家庭料理だよ』って説明したら、みんな面白がってくれたんです」
ジャカルタのホテルから、日本の家庭料理でコラボレーションディナーをやってほしいと招待もされた。
「肉じゃがとかお好み焼きとか、日本のトラディショナルな家庭料理を教えてほしいというので、お雑煮などを持って行ったんです。そうしたら、こんなに簡単な方法でこんなにおいしくできるのかってすごくびっくりされたんです」
世界での日本料理の人気の高さを感じる一方、日本の家庭料理はあまり知られていないという現実にも直面した。
「私は常々、家庭料理の地位が低いと感じていて、それは何も外国だけの話じゃなくて、国内でも家庭料理の地位が低いんじゃないかってすごく思っているんです。例えば、食のイベントがあったときでも、家庭料理は脚光を浴びないんですよね」
そこにすごくジレンマを感じ、何とかして変えていきたいという想いが強いという。
「1つ1つのレシピの価値を上げていきたいと思っているし、家庭料理というものの素晴らしさはもちろん、日本の家庭人は普段からすごく料理をしているということを国内外で発信していきたいです。家庭料理の世界は置いてけぼりになっているような気がしているので、そこの部分をもっと広げていきたいです」
「日本の家庭料理を世界に発信していきたい」というのは、今井さんの今後の展望の1つでもある。
「オージービーフのPRアンバサダーになってから、本当に視野が広がって、日本国内と世界中を同じ感じで考えられるようになったので、日本の家庭料理を世界に発信していきたいです。そして、逆に学んだことを日本に還元していきたいとすごく思っています。世界の料理を勉強されて日本で伝えている方はたくさんいらっしゃいますが、私は日本の家庭料理の素晴らしさを同じ熱量で発信していきたいです」
(TEXT:山田周平)
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【ゲスト】
第53回・第54回(11月21日・28日配信) 今井真実さん
料理家・オージービーフPRアンバサダー日本代表/兵庫県神戸市出身、東京都在住。レシピやエッセイ、SNSでの発信が幅広い層の支持を集め、雑誌、web、企業広告など多様な媒体で活躍。身近な食材を使いながら、香りや発酵、異国のニュアンスをさりげなく重ねる料理が特徴で、「知っているのに知らない味」「料理が楽しくなり、何度も作りたくなる」と高い評価を得ている。2023年、オージービーフPRアンバサダー日本代表に選出され、国内外でのレシピ開発やブランド発信、海外シェフとのコラボレーションなど、海外でも活動の幅を広げている。著書に『
毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』(KADOKAWA)ほか多数。近刊に山田詠美氏との共著『Amy's Kitchen』(左右社)などがある。
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【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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