いよいよ動き始めた、ソニー「Contents Production Accelerator」の正体

0

2025年12月29日 10:10  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

写真

 2024年のInter BEEで登場したものの、まだコンセプトしかなくいろいろ謎なソリューションだったソニー「Contents Production Accelerator」(以下CPA)。


【写真を見る】多くの来場者が詰めかけたソニーブース


 民放各社の報道制作システムはほぼほぼカスタムメイドであり、システム更新が行われるたびにフルスクラッチで組み上げていた。しかしそれでは構築に時間がかかり、しかも高額になる。さらにはOSのアップデートもままならず、「塩漬け」で使用される。これはネットワークが大原則となった現代においては、いかにも脆弱である。


 イマドキのニュース報道制作システムとしてそれではマズイだろうということから、ソニーが一括でメンテナンスできるSaaS方式のシステムに乗り換えませんか、というのが昨年までのストーリーである。


 そして今年のInter BEEでは、実働する「Contents Production Accelerator」を見ることができた。


●メタデータで局内連携するワークフロー


 ソニーがかねてより提案していた報道支援システムは、カメラで収録された映像を現場からネットワークを使ってクラウドにアップロードし、放送局側ではそれをクラウド経由で取り込んで編集や原稿制作を行い、ニュースサーバへ登録するという流れになっていた。ただそれで構築するには、芯になるシステムが必要だ。


 CPAはこの流れをより具体的に、効率的にするため、メタデータを入れ込むことで映像の流れや人のアクセスなどをコントロールし、他社製の報道支援システムと連携しながら分かりやすく交通整理するシステム、といった印象を受ける。つまりCPAそのものはデータやコンテンツの流れを担当する芯の部分で、報道支援システムはそこに被さって人の流れや権限を管理するという格好だ。


 一般に報道支援システムは、複数の機能から構成される。大まかな流れを説明すると、まずは取材予定管理だ。取材ネタが決まったら、番組情報として取材予定日を登録し、取材日の機材とスタッフの予約管理、編集システム手配、放送日の仮登録などを行う。


 取材した動画はシステムに登録され、原稿作成システムと連動する。通常は映像編集は専業の編集者が、原稿作成は取材記者がといった具合に同時進行で行われる。またタイトル文字発注やテロップ発注とも連動する。


 完成したニュースは、ニュース番組の項目表に登録され、送出サーバに動画が送られるとともに、原稿とリンクされ、ニュース番組内で放送される。


 その後はメタデータが付けられ、素材アーカイブや番組アーカイブなどに登録され、再利用を待つ。


 CPAが組み込まれたワークフローでは、まず現場での動きが変わってくる。現場からサーバへは、30秒単位で区切られたプロキシファイルによるチャンク転送となる。この際、カメラマンがスマホの転送ツールで番組情報を選択すると、以降は現場からチャンク転送される映像に番組情報メタデータがつけられる。


 クラウド側はそのメタデータを読み込んで、自動的に番組専用ディレクトリに素材を格納する。従来はカメラが局に戻ってきてから、素材サーバ等に取材映像をアップロードする際に番組情報のメタデータを付加していたので、大幅に時間短縮できる。


 またこれまでは現場で何カット撮ったのか、まだ取材は続くのかは、局側では把握できなかった。このため、せっかく現場から素材をアップできても、これで終わりなのかは現場に電話して確認するしかなかった。


 だがCPAではアプリ上で取材ステータス情報が設定できる。例えば15カット撮影で終了、といった宣言をすると、チャンク転送中でもその15カットを転送し終わって、転送を終了する。クラウド側で作られるグローイングファイルも、そこで閉じられる。


 局で待っている編集マンには、転送終了が通知されるので、素材がそろったことが分かる仕組みだ。夜間や祝日など、局に人が少ない時でも、素材登録作業を完了できる。プロキシファイルも昨今はHD解像度が標準になっているので、速報などはプロキシファイルで編集して放送できる。


 現時点では、現場のカメラは一方的にファイルを送るだけで、転送アプリのステータスが確認できないが、今後はカメラ内のビューファインダに何らかのかたちで転送状況を表示できるようにすることが検討されている。


 一方で記者の立場としては、まだ現場にいるうちに映像を参照しながら原稿を書きたい、あるいは局内でも自分のデスクで映像を確認したいというニーズが高い。こうしたニーズを満たすため、素材をブラウザで確認できるようになっている。そのUIも、自分に関係するファイルを自力で探すのではなく、報道制作支援システム上で指定された担当番組素材のみがすぐに見られるように工夫されている。


 Inter BEE会場で展示されていたのはプレビューシステムのみだったが、プレビュー画面でマーカーや範囲指定ができるようになっている。例えば一部の範囲を使用禁止に指定すると、その部分が含まれた動画ファイルは送出登録できないなどの連携が可能になっている。


 また転送アプリやビュワー上に、AI文字起こしツールが組み込まれる(現在はβ運用)。これにより、話の内容を音声を聞かずに確認できたり、インタビューのサマリーを作成したりと、効率アップにつながる仕組みがある。


 記者が映像データの中での使いどころを指定しておけば、編集マンはそれを見て作業できる。インタビューの全部を改めて全部聞き直すといった作業が省略できる。


 もちろん、昨今のハイエンドノンリニア編集ツールには、AI文字起こしツールが組み込まれる傾向がある。だが報道編集でそうしたツールが採用されているとは限らないのが実情だ。それを救う方法として、従来のツール外でAI文字起こしのメリットが得られるのは大きい。


 一方で回線裏送りなどSDIの制御が入るものはWebブラウザでは難しい。そうした固定端末の部分は専用アプリで対応しながら、映像はブラウザで見られるといった組み合わせで対応する予定だ。


 今後ソリューションで注目しているのは、アーカイブだ。これまではLTOなどを使ってローカルで行ってきたが、メディア劣化やフォーマットの進化などもあり、数年ごとにメディアの交換が必要になる。こうした課題を、コストが下がってきたクラウドアーカイブで解決できないかというわけだ。


 すでに報道支援システム側では番組送出後のアーカイビングまでカバーしていることもあり、それらと連動することで、メタデータを活用したアーカイブの活用なども視野に入っている。


 CPAはそのコンセプトに基づき、コンテンツ管理、編集ソリューション、ストレージをパッケージで提供する。また定期的なアップデートにより、機能追加やセキュリティ対策はユーザーとなった放送局全てにほぼ同時に提供される。25年12月にリリースされる予定で、すでに静岡放送、毎日放送、宮崎放送での採用が決定している。


●番組制作にもトータルソリューションを提供


 CPAは特に報道支援に特化したものではなく、番組制作にも使えるソリューションである。とはいえ、ベースは時間的な効率化であり、撮影からOAまで短時間で行う報道で使うことにメリットがある。


 一方でポストプロダクション作業を伴う番組制作でも、プリプロダクションから放送・配信・二次利用まで一元的に管理できるようなトータルソリューション「IGNITE CONTENT ECOSYSTEM」(以下ICE)を発表した。


 今後日本では、コンテンツはかなり大きな輸出産業となることは明白だ。それは国策でもある。一方でコンテンツ制作に関わる労働人口は減少を続けており、ワークフロー全体の効率化が求められている。


 そこで注目するのが、各パートを超えたデータ連携だ。例えばこれまで、企画・構成、撮影・収録、ポストプロダクション、送出・配信、二次利用といったパートパートにおいて、持っているデータ構造が違っていた。


 最初はWordとかPowerPointだったものが、ある時から台本になり、香盤表になり、キューシートになりといった具合にフォーマットを変えていくが、そのたびに書き写したり入力し直したりしている。番組ができたらできたで、今度は権利情報や出演者情報、あらすじなどの情報を入力し直しである。つまりデータが構造化されていないために、連動できていないのだ。


 一方で映像データのほうは、すでにXDCAMで採用されてきたプロフェッショナルディスクの販売終了に伴い、今後はファイルベースでやりとりされることになる。ソニーが推進するXAVCはその代表格だ。


 そこでこのXAVCを拡張して、動画の真正性情報や字幕、メタデータなどを持たせられるようにすることで、XAVCを中心に構造化データを流通させようというのがICEのコンセプトだ。番組納品もデータ納品になることを前提に、セキュアなかたちで外部から局へ完パケをアップロードできる仕組みも検討している。


 またスポーツイベントでは、スローリプレイや審判補助システムとして稼働している「Hawk-Eye」から取り出せる情報、例えば選手情報や骨格データに基づく3Dキャラクタ生成といったことも二次利用可能な形にしていくなど、番組だけにとどまらない活用方法へつなげようという計画もある。


 ICEは放送局向けソリューションではあるが、将来的には芸能プロダクションや芸人らが自ら立ち上げた、YouTubeチャンネルのようなオウンドメディアでも利用できる形にしていきたいという。


 このシステムはソニーが全部準備するわけではなく、それぞれの得意分野を持つ企業と連携して、オープンなソリューションとして提供される予定だ。基本的にはライブに近いCPA同様、番組制作もなるべくパッケージ化して、同じプラットフォームで制作することで効率化を図っていこうというのがICEのコンセプトだ。


 このように、ソニーが現在フォーカスしているのは、日本独自の課題ともいえる省人化にどう対応していくか、というソリューションである。そこにはAIを使った自動化はあるとしても、その前段階としてワークフロー全体に一貫して流通できるデータを構造化することが重要だというメッセージのように受け取れる。


 こうしたデータの構造化は、ハリウッドなどの映画製作では導入されてきたが、テレビ番組制作では、各局にそれぞれ独自のローカルルールがあり、全ての作業がカスタムメイドであった。そこをまず手始めにSaaS的な共通プラットフォームに乗りましょう、そうすれば流れるデータも構造化できますよ、という方法論である。


 こうした流れは、「自治体DX」の話と近いものがある。これまでは自治体ごとにばらばらなデータの持ち方をしていたために、IT化されていても横連携できないという課題があった。それを共通プラットフォームに乗せましょう、という方向で進んでいる。


 映像制作ではこれまで、製作会社、撮影会社、ポストプロダクション、放送局、ネット配信事業者がそれぞればらばらに情報を持っていた。その情報を共通プラットフォームに載せて構造化し、横連携していきましょうというわけである。CPA→ICEという流れは、まずは局内で閉じている報道から始めて、その後外部連携を進めるという、2段階になっているものと考えられる。



    ランキングIT・インターネット

    アクセス数ランキング

    一覧へ

    話題数ランキング

    一覧へ

    前日のランキングへ

    ニュース設定