
「些細(ささい)なことにイラッとしたり、将来に不安を感じて人生に希望が持てなくなったり……。中高年女性はそういった漠然とした『モヤモヤ』や『不安』が募りやすい世代なんです」
と話すのは、精神科医のTomy先生。自分自身ではコントロールできない変化に直面し、どうしても気持ちが揺らぎやすくなるのだという。
中高年のモヤモヤは誰にでも起こる
「親の介護や老後資金への不安。夫の定年退職に子どもの巣立ちなど、さまざまな悩みが相次いで発生する世代ですから、精神的に不安定になるのも無理はありません」(Tomy先生、以下同)
人生も折り返しに入っていると自覚することで、幸福度が徐々に下がっているように感じる人もいるそう。
「親族をはじめ周りの人との別れも経験しやすく、自分の残された時間をリアルに考えるようにもなります。私は『観覧車理論』と呼んでいるのですが、観覧車のてっぺんである人生のピークを過ぎたと思ってしまい、後は下っていくだけと捉えてしまう人も多いです」
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女性ホルモンの分泌と加齢による脳機能の低下も、ネガティブ思考に拍車をかける。
「個人差はありますが、更年期障害や閉経によってホルモン分泌に大きな変動が起こるため気分が落ち込みやすくなります。脳の中でも、感情と深く関わる認知機能が徐々に衰えることで、不安やイライラといったネガティブな感情がコントロールできなくなってしまうのです。
また、逆に新しい刺激への反応が鈍くなることで、毎日が単調に感じられ、気分が上がりにくくなる人もいます」
「自分軸」で選択。悩む前に「行動」して
こうしたモヤモヤから抜け出すには、考え方のクセを少し変えるだけで対策できるとTomy先生。
「大切なのは、執着を手放して諦めること。若さや人生の残り時間など、避けられないことを悩んでも答えは出ません。受け入れてしまえば、不安は自然と軽くなります。
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一気に“悩まない自分”になろうとするのはストレスなので、悩み続けてしまうときは、その時間をあえて趣味や気分転換に充てて、意識をそらすのも一つの方法です」
そのうえでカギとなるのが、今日という1日に集中して生きること。
「過去の失敗も未来の不安も、今現在は存在しない“頭の中の物語”にすぎません。人間は今日しか生きられないのだから、意識を“今”に戻すことが大切なんです」
意識を今に戻すためにTomy先生がすすめているのが、物事を「自分軸」で捉えて、さらに「行動中心主義」になること。
“私はどうしたいか?”を基準に選択することが「自分軸」。「行動中心主義」とは、考え込む前に“まずは行動してみる”ことで、不安やモヤモヤを増やさないという思考法だ。
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「例えば、仕事帰りの夫から『雨が降ってきたので、車で駅まで迎えに来て』と連絡があってモヤッとしたとき。モヤモヤしたまま条件反射で『行かなきゃ』と動いてしまうのは他人軸。違和感を覚えたのなら一度『私はどうしたい?』と立ち止まってみてほしいのです」
「夕飯の準備中だから15分待てるなら行く」「今日は体調が悪いからむずかしい」など、どちらを選んでもよいが、“自分が納得して選んだ行動”であれば、モヤモヤはたまりにくくなるという。
「自分軸で選んだら、次は悩み続けずに『では上着を着て玄関まで行こう』と小さな行動に移す。これが『行動中心主義』です。考え込む時間を減らすことで、モヤモヤが膨らむのを防げます。
この『自分軸』と『行動中心主義』を日々少し意識するだけで、今日という1日に自然と集中でき、未来への漠然とした不安にとらわれにくくなるはず」
「日々のモヤッとしやすい瞬間」に効く、行動のヒントと、心を軽くする魔法の言葉を紹介。毎日のしんどさをやわらげるために、ぜひ実践してみて。
心をふっと軽くする「言葉の処方箋」
老後プランは“気にしすぎない”、“共有体験”で夫婦仲良好に
Q.娘も大学生。夫もそろそろ定年退職。この先、大きな変化もなく、楽しいことがあるか不安です。
A.「楽しいことっていうのは『今』つくるもの」
脳は不安なことをぐるぐる考えすぎる性質があるので、未来の不安にとらわれないためには「今」に集中するのがいちばん。
例えばいつもより丁寧に洗濯物を干すことを意識してみて、「きちんとできたらおいしいおやつを食べちゃおう」とか、最初はそんな積み重ねでOK。脳に今を充実させるクセをつければ、自然と悩みも減ってくるはず。
Q.老眼も進みどんどん老け込んできて、なんだか気がめいります。
A.「魅力って、その人らしさの中にあるのよ」
若さに執着すると、失われていくものばかりに意識が向いてネガティブ思考に陥ってしまう。それに魅力は、“その人らしさ”の中にあるもの。だから清潔感と自分らしさがあれば十分。若さではなく、あなたらしさに目を向けて。
Q.子育ても終わり夫婦関係がマンネリ。2人だけの時間に戸惑います。
A.「毎日一緒にいられる人って、とても貴重」
意識して「共有体験」を増やすのがおすすめ。一緒においしいものを食べたり出かけたり、お互いの顔を見て感情を分かち合う機会を増やすと心の距離が自然と近づき、共に暮らすだけの相手から“人生の相棒”に変わる。
そうやって「毎日一緒にいられて良い体験を分かち合える人」がいるというのをポジティブな意味にかえてみて。
Q.夫が外面はいいのに、家ではクレーマーで困っています。
A.「相手の言動は性格というより学習の結果なの」
クレーマー化するのは、そうすることで“得”をしてきたから。でも学習行動として定着しているだけだから、変えられない性格ではないはず。有効なのは行動療法的アプローチ。
相手の嫌な言動に反応しない、その言い方はちょっと……と伝えるなど、対応を変えてみることで「クレームを言っても通じない」とわかったら、徐々に横柄な態度をとらなくなることも。
Q.将来の老後資金が足りないのではと、毎日不安。
A.「ぶっちゃけ老後のプランなんてどうでもいい」
お金の心配は終わりのない“計算地獄”。どんなに備えていても病気や事故は急に起こるので、未来のことを考えすぎる必要はない。困ったら社会保障制度に頼ることもできるので、抱えすぎないほうがいい。
最悪のケースを想定して不安にとらわれるのは、未来への過剰投影。不安貯金をやめて、2か月先を生き抜けるくらいの余力があればいいと開き直るのが大事。
教えてくれたのは……Tomy先生●精神科医。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。X(@PdoctorTomy)などで「言葉の精神安定剤」として、多くの人の心に寄り添うメッセージを発信。『精神科医Tomyが教える 50代を上手に生きる言葉』(ダイヤモンド社)をはじめ、著書多数。
取材・文/井上真規子

