JEITAが予測したデータセンター動向から探る 「AIによる産業革命」の課題

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2026年01月06日 23:10  ITmediaエンタープライズ

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JEITAの漆間啓会長(出典:オンライン会見を筆者がキャプチャー)

 2026年、AIの活用が本格化する。それに伴って、企業をはじめ社会の在りようが将来に向けて大きく変わることを実感する年になるだろう。そうしたAI活用を支えるインフラとなるデータセンターについて、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が今後の動向における見方を示したので、本稿ではその内容から「AIによる産業革命」への期待と課題について考察したい。


JEITAが予測したデータセンター動向から探る 「AIによる産業革命」の課題


●データセンターの世界市場規模は2030年に倍増へ


 JEITAは2025年12月16日、データセンターの国内外の動向をまとめ、データセンターサービスおよび関連製品の市場の見通しを発表した。同日開いた記者会見でJEITA会長の漆間啓氏(三菱電機 代表執行役 執行役社長 CEO)がその内容を説明した。


 同調査は、主要国政府の政策や海外先進企業の動向など公知情報の分析と、国内外先進企業へのヒアリングをもとにデータセンター需要を推計したものだ(図1)。


 漆間氏はデータセンターについて、「国際情勢が不透明さを増す中、経済安全保障の重要性はかつてなく高まっている。エネルギーや半導体などと並び、データとデジタル基盤は国家の機能を左右する『新たな戦略資源』になりつつある。とりわけ、データセンターは行政や産業、国民生活の全てを支えるインフラに位置付けられる」と述べた。


 さらに、データセンターの国内における整備について次のように訴えた。


 「AIの学習に使われるインターネット上のデータは2028年までに学習され尽くされるとの見方もあり、今後のAI活用による経済発展には各産業分野が現場で保有するデータの重要性が一段と高まる。とりわけ、日本の産業分野の現場で生まれる『OT(制御技術) データ』は極めて高品質で有効なデータだ。これらは領域特化型AIを活用した生産性向上と付加価値創出の源泉であり、産業競争力と経済安全保障を支える鍵であることからも、国内におけるデータセンターの整備は喫緊の課題といえる」


 以下が、データセンターの動向に関する会見内容の概要だ。


 データセンターを通じて提供されるサービスの世界市場額は、2030年に1兆7200億ドルと、2025年現在の約2倍に達する見通しだ(図2)。


 漆間氏はこの予測について、「背景には、クラウドサービスを中心としたサービス利用の加速、動画配信やゲームなどデジタルコンテンツ需要の拡大、そして何よりAIの学習および推論に対応するGPUサーバや高速ネットワークの需要拡大がある。これらが複合的に作用してデータセンター投資を強力に後押しする」との見方を示した。


 データセンターサービスの市場拡大に伴い、関連製品市場も大きく成長する見通しを示した。サーバや半導体、電子部品といった関連製品の世界市場は、2030年に1兆6907億ドルに達し、2025年の2倍以上となる見込みだ。これについては「インフラの高度化に向けた投資により、市場の成長スピードが加速する」(漆間氏)とのことだ(図3)。


 データセンターを通じて提供されるサービスの日本市場額は、2030年に5兆6540億円へと成長する見通しだ(図4)。


 漆間氏はこの予測について、「日本市場も堅調に推移する見込みであり、産業のデジタル化やAI活用の広がりによって、高度なデータサービス需要が国内でもより拡大することから、設備の高性能化や効率的な運用などが求められる。経済安全保障の観点から見ても、インフラたるデータセンターを日本国内に確保し、盤石な体制を整備することは極めて重要だ」との見方を示した。


●AIによる新たな産業革命はスムーズに進むか


 一方、データセンターの整備を図る上での課題として「電力供給」を挙げた。これについては、指数関数的に上昇する処理能力への要求に応じて、データセンターの電力需要は2030年に現在の2倍以上になるとの予測を示した(図5)。


 漆間氏はこの点について、「電源の確保と省エネ技術の革新は今後ますます重要となり、電力供給がサプライチェーンのボトルネックにならないよう、産学官の連携が必要不可欠だ。この現実を踏まえれば、AI時代の成長はもはや『データと電力の戦略的確保が決める』と言っても過言ではない。データセンターと電力は、半導体に次ぐ国家の戦略資源だという視点を持たなければ、日本のデジタル競争力は維持できない。日本の産業競争力や国際的なプレゼンス、そして国民生活の利便性はこの基盤を確保できるかどうかにかかっている」と警鐘を鳴らした。


 その上で、次のように述べた。


 「データ活用の基盤となるデータセンターには、安定的な電力供給と革新的な省エネ技術における産学官の連携が必要不可欠だ。JEITAとしては、電力およびITリソースの統合管理を実現する『ワットビット連携』の推進、再生可能エネルギーの効率的な活用や省エネ半導体の開発、光電融合による高速および低消費電力通信などの技術導入を提案する。さらに、経済安全保障の観点から産業のみならず行政などさまざまな分野でのクラウドの整備を進め、デジタル赤字の解消を目指したい」


●「AIによる産業革命」への期待と課題


 上記の会見を受けて、データセンターが支えるAIによる産業革命の構図について、筆者なりに考察してみたい。


 「AIは新たな産業革命」といわれる。そういわれるのは、かつての蒸気機関や電気と同様、AIが限られた分野だけでなく、社会そのものを大きく変える可能性が高い技術だからだ。では、AIを支えるデータセンターは、新たな産業革命においてどのような役割を担うのか。


 かつての産業革命では、さまざまな産業が機械化し、それらの工場が立ち並んで稼働することで生産性が飛躍的に向上した。これまで手作業だったものが機械化される中で人は仕事を奪われたのかというと、さにあらず。工場が新たな労働を生み出し、社会は豊かになった。ただし、そうした発展に伴って、自然環境の破壊や交通事故の増加などの問題も抱えるようになった。


 上記の構図を新たな産業革命に当てはめてみると、AIはさまざまな産業を「自動化」する技術といえる。それらの“工場”となるのがデータセンターだ。そして、その動力源となるのがデータであり、エネルギーとしての電力である。


 こうした構図によって、AIによる新たな産業革命は果たしてスムーズに進むのだろうか。データセンターの観点からすると、上記のように電力の問題がまず挙げられる。これは環境保全とも密接に関係しており、1つの企業や国にとどまらず、国際社会としてどう取り組むかというテーマだ。ちなみに、サイバーセキュリティも環境の問題と捉えることができよう。


 また、AIを効果的に使うデータの在りようについても、意外にてこずるのではないかと懸念する。もし、そうなれば、企業では投資対効果の観点から不満が噴出するだろう。そうした「生みの苦しみ」をどう乗り越えるか。


 加えて、懸念として挙げておきたいのは、AIによる新たな産業革命によって、人はどのような役割を担うのかだ。もはや、指示に従って働くイメージが強い「労働」という言葉は当てはまらなくなるだろう。「AIを監督する立場に」あるいは「クリエイティブな役割を」などといわれるが、果たしてどれほどの人がそうした立場になり得るのか。生産労働人口が減少する中でも、その速度を上回る形でAIに仕事を奪われるケースが多発し、行き場のなくなる人が増えてしまわないか。


 データセンターの話を起点に、新年からAIについて懸念ばかりを挙げたが、これからAIによる新たな産業革命が確実に進むと見ているからこその警鐘のつもりだ。大きな期待を寄せるとともに、課題にもしっかりと向き合うことが肝要だ。本連載もその一助となれるように、引き続き取材を重ねていきたい。


著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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