「30万円以上の初任給? そんなのムリ!」嘆く中小企業の人事部長 どこまで続く“賃上げ格差”

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2026年01月07日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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「賃上げ格差」はこれからも広がる。ではどうすればいいのか

 「30万円以上の初任給だって? うちには到底まねできない……」


【画像】Z世代の就業観とは


 都内近郊の製造メーカーの人事部長(52歳)は、大手企業の賃上げニュースを見るたびにため息をつく。ファーストリテイリングは初任給37万円、オープンハウスグループは40万円。さらに入社支度金30万円まで支給するという。


 一方この人事部長の会社の初任給は22万円だ。業界平均と比べて決して低くない。技術力にも定評がある。それなのに、新卒採用の説明会を開いても学生の反応は年々薄くなっている。


 賃上げ格差は、中小企業の採用を直撃している。この問題をどう乗り越えるべきか。そこで今回は、賃上げ格差が中小企業に与える影響と、その対策について解説する。中小企業の経営者、人事担当者は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●大企業の賃上げラッシュが止まらない


 2025年、大企業の賃上げ競争が過熱している。賃上げの規模、頻度、いずれも異次元のレベルに達している。


 ファーストリテイリングは新卒初任給を33万円から37万円に引き上げると発表した。対象はグローバルリーダー候補と呼ばれる転勤前提の職種だ。年収にして約590万円である。


 転勤のない地域正社員も28万円に引き上げられる。同社の初任給引き上げは2020年以降4回目だ。6年間で16万円アップという破格の待遇である。


 不動産業界も負けていない。オープンハウスグループは2027年度入社の営業職の初任給を40万円に設定した。さらに入社支度金として30万円を支給する。


 引っ越し代やスーツの購入費用に充てる名目だ。つまり新入社員は、初めての給料日に70万円を手にすることになる。既存社員の給与も引き上げられ、人件費は全体で1割増加する見込みだという。


 証券業界でも同様の動きがある。大和証券グループ本社は2026年度の春闘で5%程度の賃上げを検討中だ。大卒総合職の初任給も30万円から31万円への引き上げを検討している。


 注目すべきは、これが5年連続の賃上げだという点だ。累計で約20%の賃上げを実現している。さらに自社株を毎年交付する制度も導入するという。


 各社に共通するのは「人への投資」という姿勢である。好業績を背景に、優秀な人材を確保するための競争が激化しているのだ。


●「賃上げ格差」の正体とは何か


 この人事部長の悩みは、単純な金額の差だけではない。ベースとなる給与水準だけでなく、賃上げ率も違う。その結果、格差は縮まるどころか広がる一方なのだ。


 例えば初任給22万円の企業が3%賃上げしても、上がるのは6600円だ。その間に初任給30万円の大手企業が5%賃上げすれば、1万5000円上がることになる。これが「賃上げ格差」の実態だ。


 「新卒採用の説明会を開いても、学生の反応が年々薄くなっている。大手の初任給が上がるたびに、うちへの関心は下がっていく。技術を磨ける環境も、働きやすさも自信があるのに……」


 人事部長の悩みは深い。そして、この悩みは決して珍しくない。


●中小企業の8割超が「大企業の賃上げ」に影響を受けている


 人材育成事業を手がけるCRAYONZ(東京都港区)が2024年8月に実施した調査がある。対象は20〜60代の中小企業経営者574人だ。


 「人材の確保・定着に課題があるか」という問いに対し、53.4%が「はい」と回答した。中小企業の半数以上が、人材確保に苦しんでいるのだ。


 さらに深刻なデータがある。人材確保に課題があると答えた経営者に、大企業の賃上げが自社に与える影響を聞いた。


 「非常に影響がある」が37.2%、「ある程度影響がある」が46.4%。合わせて80%を超える経営者が、大企業の賃上げの影響を実感していたのである。


 また、以下のような声も上がっている。


1. 採用応募者の数が集まりにくくなった(46.5%)


2. より良い条件を求めた離職・転職の増加(23.8%)


3. 社内に不満が生まれ士気が低下している(12.9%)


 この結果から見えてくるのは、賃上げ格差が「採用」と「離職」の両面から中小企業を圧迫しているという事実だ。新しい人材が入ってこない、既存の社員も流出する。この二重苦が、中小企業を追い詰めているのである。


 当然、将来への危機感も強い。「賃上げ格差が拡大した場合、人材流出にどの程度危機感を抱いているか」という問いに対し、「非常に強い危機感がある」が38.2%、「ある程度の危機感がある」が45.7%と、合わせて約85%が危機感を持っていることが分かった。


 採用が難しくなり、既存社員も流出する。賃上げ格差は、中小企業の存続そのものを脅かしつつあるのだ。


●Z世代が就職先選びで最も重視するのは「給与・待遇」


 なぜ、これほどまでに賃上げが採用に影響するのか。若い世代の意識を見れば、その理由は明らかだ。


 大学生向けアプリを提供するペンマークが2025年に実施した調査がある。対象はZ世代(1996〜2005年生まれ)の学生407人と社会人178人、計583人だ。


 就職先を選ぶ際に最も重視する項目は何か。結果は圧倒的だった。


 「給与・待遇がいい」が78.0%でトップ。2位の「仕事内容が魅力的・やりがいがある」は47.0%。その差は30ポイント以上である。


 コロナ禍以前の調査では「やりがい」を重視する若者が過半数を占めていた。しかしコロナ禍を経て、価値観は逆転したことになる。「お金」が「やりがい」を上回るようになったのだ。物価高の影響や、将来への不安もあることだろう。


 いずれにせよ、Z世代にとって「給与・待遇」は就職先を決める最大の要素である。この現実を直視しなければならない。


●Z世代は「お金」で会社を選び、合わなければ躊躇(ちゅうちょ)なく辞める


 他にも興味深いデータがある。Z世代の出世に対する意識だ。


 同調査において「特に出世は望まない」「現場で専門性を高めたい」と答えた人は32.1%に上った。昇進よりも、自分のスキルを磨くことを重視する傾向がうかがえる。


 副業・兼業への関心も高い。「条件や機会があればしてみたい」「積極的にしたい・興味がある」と答えた割合は、学生で72.9%、社会人で79.0%に達した。


 退職・転職への抵抗感も低い。社会人の20.5%が「頻繁に退職・転職を考える」と回答しており、「時々ある」を含めると6割以上が転職を視野に入れていた。


 退職代行サービスへの意識も象徴的だ。「特別な事情がある場合に役立つ」が51.7%、「非常に有効なサービス」が12.5%。「好ましくない」はわずか4.7%だった。


 これらの結果から、Z世代は一つの会社に依存しない働き方を志向しており、退職のハードルはかつてないほど下がっていることが分かる。Z世代は「給与・待遇」で会社を選び、合わなければ躊躇なく辞める。この傾向は今後も強まっていくだろう。


●中小企業は「お金以外の価値」で勝負せよ


 賃上げ格差の拡大は止まらない。大企業と同じ土俵で戦っても、中小企業に勝ち目はないだろう。では、何ができるのか。


 CRAYONZの調査では、賃金以外で人材流出を防ぐ施策についても聞いている。結果は以下の通りだ。


1. 正当な人事評価制度の構築(46.1%)


2. 良好な人間関係やコミュニケーションを促進する組織風土づくり(41.8%)


3. 福利厚生の拡充(34.6%)


 評価制度、組織風土、福利厚生。これらは必ずしも大きな資金を必要としない。中小企業でも取り組める領域である。


 とくに注目すべきは(1)の「正当な人事評価制度」だ。半数近くの経営者が、これを重要な施策と考えている。それはなぜか。


 若い世代は「公平性」に敏感だからだ。給与が低くても、その理由が明確で、努力が正当に評価されるのなら納得できる。一方、不透明な評価制度のもとでは、どんなに給与が高くても不満が生まれる。


 「誰が、何を評価して、どう昇給・昇格が決まるのか」を明確にすることだ。そして、それを社員に丁寧に説明すること。これだけで、社員の納得度は大きく変わる。


●「自社の価値の再定義」が生き残りのカギ


 Z世代が出世よりも専門性を重視し、副業にも関心を持つという事実は、ヒントになるかもしれない。


 成長機会を提供し、柔軟な働き方を認める。「お金」以外の価値を明確に打ち出すことが、中小企業の生き残り戦略ではないか。


 人材の流動性はドンドン激しくなっている。しかしこれを嘆くだけではなく、チャンスと捉えることもできるだろう。


 ビジネスにおいて、中小企業には大企業にない強みがあるからだ。意思決定のスピード、顧客との距離の近さ、組織の柔軟性。これらは誰もが認める中小企業の武器である。


 それなら人材においても、大企業にはない強みを打ち出せばいい。例えばこんな打ち出し方はどうか。


 「当社では、入社3年以内に、必ず重要プロジェクトのリーダーを経験できます」


 「週1回のリモートワークが可能です。副業も条件付きで認めています」


 「社長との月1回の個別面談で、キャリアの相談ができます」


 経営陣と同じ目線で話ができる。意思決定スピードが速い。新たな挑戦をさせてもらえる。こういった具体的なメッセージが、Z世代に響くのだ。大企業にはない「小回りの利く組織」という強みを、前面に出すべきである。


 また、たとえ新卒採用が難しくても、大企業からの転職組を狙う方法はいくらでもある。


 大企業で数年働き、その限界を感じた若手社員。彼らは「お金」よりも「成長機会」「裁量」「やりがい」を求めている。このような人材こそ、中小企業が欲しい即戦力ではないか。


 賃上げ格差の時代、中小企業に求められるのは「自社の価値の再定義」だ。給与で勝てないのなら、別の価値で勝負する。その価値を言語化し、発信する。そして、新卒だけでなく、転職市場にも目を向ける。


 これが、中小企業が生き残る道だ。採用に悩む経営者、人事担当者は、まず「自社の強み」を改めて棚卸しすることから始めてほしい。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



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