井上尚弥戦はもう目前。中谷潤人の師・ルディが振り返る、12/27リヤドでのサバイバル

0

2026年01月07日 18:10  週プレNEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週プレNEWS

写真


「セバスチャン・エルナンデスは、実にいい選手だ」

サウジアラビア、リヤドでの戦いの3日後、中谷潤人を15歳から指導する師、ルディ・エルナンデスは言った。同じファミリーネームだが、血縁関係はない。

2026年5月の井上尚弥戦を見据えてWBC/IBFバンタム級タイトルを返上し、122パウンドに転向した中谷は、昨年12月27日のファイトで苦しんだ。

ルディの回想。

「試合当日の朝、私は午前2時に目覚めた。セバスチャンのことが思い浮かび、不安で眠れなかったんだ。一体、何がこんな気持ちにさせるんだろう?って、ずっと考えたよ。それで、セバスチャンの動画を見始めた。すると、彼のボクシングってすごく単純に見えた。でも、逆に気になって仕方なかった。簡単だと感じるのに、何かが足りないって落ち着かなかったのさ。

セバスチャンがかつてサウスポーと戦った折、独特のテンポで右アッパーを放った。我々はトレーニングキャンプで、その対策を十二分にやった。だが、潤人(ジュント)との試合で、彼は警戒したパンチを一発も打ってこなかった。

こちらとしては、セバスチャンが右アッパーを打とうと踏み込んできたところに左ストレートや左フックを浴びせて仕留めるつもりだった。それが私の立てたプランであり、鍵となるはずだったんだ。心底、そう信じていた。試合のおよそ1カ月前は、6〜8ラウンドでジュントがKO勝ちするだろうと予想していた。でも、彼は全く違うタイプのファイターだった」


20戦全勝18KOで中谷の前に立ちはだかったメキシカンは、戦績を裏付ける実力者であり、タフな選手だった。

「セバスチャンは、ずっとスーパーバンタム級で戦ってきたよな。一方、我々は階級を上げた。多くの人が4パウンド(約1.8kg)なんて大したことないって考えるだろうが、ボクサーの立場は理解し得ないさ。大きな重荷を背負って歩いていて、更に一つ荷物を追加したら、限界で壊れてしまうような」

フライ級で1本目の世界タイトルを獲得し、2階級目となったスーパーフライ級では減量に苦しんだ中谷。バンタムに上げてからは5試合の世界戦全てでノックアウト勝ちを飾った。「倒すツボを習得した」と評価を上げてきたが、122パウンドでは、想定以上の壁を感じることとなった。

「セバスチャン戦を振り返って私が感じるのは、彼は実に優れたファイターで、世界チャンピオンになる可能性を十分に秘めている事実だ。正直、見た目はそれほどでもないが馬力も技術もあって、ジュントを追い詰めた。一方のジュントは12ラウンドを戦い抜き、最後まで持ち堪えるべく、体の奥底から自分が持っているものを引き出した。ジュントの右目は、中盤以降にひどく腫れ上がっていったが、両選手が何度かヘッドバットを交わしたからだ。

無論、やり難かっただろう。でも、それは言い訳にならない。結果として判定となった。ファンにとっては素晴らしい打ち合いだった。ジュントへの期待は極めて高い。彼はトップ10ファイターの一人と見なされているからね。そういう地位にいると、世界6〜9位くらいの選手なら簡単に倒せると思われてしまう」


ルディは、プロ生活初黒星を喫しながらも、中谷に善戦したことで株を上げたメキシカンファイターを意外な人物と比較した。スーパーフェザーから3階級を制し、メキシコの英雄とされたチャンピオンである。

「セバスチャンは、フリオ・セサール・チャベスを思い起こさせた。屈強で、相手にプレッシャーを与えてパンチを繰り出し、強烈な一撃を叩き込むスタイルだ。セバスチャンに欠けているのは、チャベスが持っていた破壊力抜群のパワーだ。もしパンチ力があれば、我々がリヤドでの試合に勝てたかどうか分からない。

私個人としては、セバスチャンにはいずれ世界チャンピオンになってほしい。何一つ、敗戦についてエキスキューズを述べなかった点も男らしくて好きだね。ジュント以外の選手を倒すために必要なものは、全て備えていると思う。

試合後のリング上で、彼に告げたよ。『君がこなしてきた20戦のなかで、今夜の試合で示した以上にグレイトなものは一つもない。今回は負けたが、大きな勝者だ。なぜなら素晴らしい戦いを見せ、トップ選手として認知された。世界10傑の一人と拳を交え、彼の内面の奥深い部分を掘り起こさせたんだ。君も私がコーチするもう一人のファイター、アンソニー・オラスクアガのようになれる。彼は世界初挑戦で敗れたが、そこから学び、高い評価と大きな声援を受けた。そして今や世界チャンピオンだ。そんな風になると信じている』って」

ルディは、中谷vs.セバスチャン戦の流れにも言及した。

「最初の3ラウンド、ジュントはトレーニングキャンプでやったように、自分の距離を保った。ジャブと素早いサイドの動きが良かった。4ラウンド目は私が指示して、接近戦となった。至近距離だからパンチは食う。でも、気付いたかい? 1〜3ラウンドのセバスチャンは、それほど攻撃的じゃなかった。第4ラウンドにアグレッシブになった。5ラウンドからは、より勢いを増し始めた。

ジュントは最初の5ラウンドを制したと思う。問題はセバスチャンがペースを上げたこと。手数を増やして攻め続けた。ああいう相手に対して逃げ回ってしまうとパニックに陥り、次第に疲労が蓄積する。ジュントはそれを把握しているから、セバスチャンの距離で打ち合ったんだ。逃げのフットワークを使うより、ファイトした方が得るものは遥かに大きい。ジュントはインファイトも、アウトボクシングもした。リング中央を支配し、押さえ込もうとした。セバスチャンを後退させながら、勢いを削ごうとしたのさ」

ルディは、何度か剃り上げた頭に手を置きながら話した。

「そうすることで、ジュントのペースを取り戻そうというプランだった。しかし、セバスチャンのタフネスは、予想を上回っていた」


中谷は115−113、115−113、118−110のスコアで勝者となったが、結果に異論を唱える者も少なくない。ルディは、こうした声を一蹴した。

「確かに、アナリストやメディアが『不可解な判定だ』なんて主張しているね。皆、それぞれ意見がある。特にメキシコ人は、戦った以上、勝ったと思い込んで訴える。セバスチャンじゃなくても、メディアや一般人がいつも『メキシカンが勝った』って言う。

接戦だったのは疑いようがないが、12ラウンドやって7-5、もしくは8-4でジュントの勝ちと語る人が私の周囲は多い。どちらが優勢か迷うラウンドもあった。本音を言えば、どっちも負けるべきじゃなかったようなファイトさ。でも勝者はいた。そして、評価に値する選手の手が上がったんだ」

試合後、ルディは中谷の肩に手をやりながら話した。「セバスチャンを認めてやれ」。

「ジュントにとってこれまでで最も厳しい試合だった。そう、彼のキャリアで一番過酷なファイトさ。セバスチャンは戦いを繰り広げ、見事なパフォーマンスを見せた。そして、さっきも説いたように、試合には負けたが観客の心を掴んだ。多くの尊敬を勝ち取ったんだ」

――中谷のコーチとして、セバスチャン戦から何を学びましたか? と筆者が質すと、ルディは即答した。

「ジュントが自らの内面と対話する能力を持っていること。決して諦めないこと。そして彼が真のファイターであることを理解した。どんなに苦しんでも、複雑な状況になっても、ジュントは逃げなかった。激しく、12ラウンドを戦い抜いたんだ」

12月27日の中谷vs.セバスチャン戦は、セミファイナルに組まれた。メインイベンターとして登場したのは井上尚弥だった。モンスターは危な気なく、アラン・ピカソを判定で下した。

「ジュントの控え室で、ほとんど見たよ。技術的に良い試合だった。イノウエが全ラウンドか、大半のラウンドでポイントを取った。私が見た限りでは、ピカソを凌駕していた。経験値の差が顕著で、イノウエの実力が勝っていた。

これまでも述べてきたが、イノウエは現在、世界最高のファイターだ。ナンバーワンだと確信している。世界タイトルマッチで27連勝している男だ。が、来る5月、ジュントはモンスターに挑戦する。イノウエとの試合は、非常に厳しいものとなるだろう。

セバスチャン戦って、ヘビー級統一王者のオレクサンドル・ウシクがリングサイドから観戦していただろう。彼はジュントを応援していた。ウシクは『こっちへ行け』って私の指示と反対方向に動くよう促したよ。どっちが正しくてどっちが間違っていたかは分からない。けれど、とにかく動き回って、『横にステップしろ』ってことだ。ジュントは実際にそうして、少しうまくいき始めたんだ。モンスター戦では徹底的に策を考え、勝ちにいくさ」

2026年1月2日に28歳のバースディを迎えた中谷潤人も、頂を目指し、気持ちを昂らせている。決戦の日はもうすぐだ。

■中谷潤人を追い続けた渾身のノンフィクションが集英社より3月に発売予定!

取材・文・写真/林壮一

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定