
世代ナンバーワン選手としての資質を存分に発揮した快走だった。早稲田大の鈴木琉胤(1年)は4区区間賞を獲得。区間新記録にあと1秒まで迫ってみせた。「シン・山の神」の激走に隠れる形となったが、その存在感が放つ輝きは、来季以降へのさらなる成長曲線へと続いていく。
早大は今春も有力な選手が入学予定。だが、鈴木は「圧倒的な個」を磨くことで自身をより高みに、そしてチームの一員として箱根制覇に貢献するつもりだ。
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【衝撃の箱根デビューの価値】
今年の箱根駅伝で、総合優勝を目標に掲げていた早稲田大は4位に終わった。ただ、前回と同じ順位でも、前回以上に存在感は示したと言えるのではないだろうか。
「いろいろ課題はありましたが、先頭の景色は見ることができましたし、区間賞もひとつ獲れたので、確実にチームとしては成長しています」
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早大の花田勝彦駅伝監督がこう口にしたように、今回の箱根では見せ場を作った。
チーム唯一の区間賞を獲得したのが、4区を担った1年生の鈴木琉胤(るい)だ。
「1年間このチームでやってきて、4年生の思いをすごく感じていましたし、白石さん(幸誠、主務)が後ろ(運営管理車)にずっといてくれたのも心強かったです。都大路(全国高校駅伝)の最後の3kmもそうでしたが、自分じゃない誰かが走っているような感じがして、めっちゃ、楽しかったです。いろんな人の顔が思い浮かびながら、20.9kmを楽しく走れました」
鈴木は初めての箱根路をこう振り返る。
"スーパールーキー"の肩書きに偽りはなかった。前回、太田蒼生(GMOインターネットグループ、青山学院大OB)が打ち立てた日本人最高記録を一気に23秒も更新。さらには、イェゴン・ヴィンセント(Honda、東京国際大OB)の持つ区間記録にあと1秒と迫り、区間歴代2位となる1時間00分01秒で走りきった。
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「僕は風の恩恵を受けましたから」
鈴木は謙虚に受け止めているが、箱根路に残したインパクトは大きかった。5区の黒田朝日(青学大4年)の爆走にすっかり話題を奪われたが、それがなかったら、もっと大騒ぎされていただろう。
【他人事のように振り返る「規格外の快走」】
そもそもの設定タイムは1時間00分45秒。これは4区の早大記録よりも1分以上速いうえに、歴代4位に相当する。鈴木自身も「ちょっと無理な感じ」と捉えていたほど高い設定だった。とはいえ、花田監督は現実に則した目標を立てる指導者だ。鈴木に高い期待を寄せているのももちろんあったが、直前の状態等を見て、決して無理ではないと判断したうえで設定したのだろう。鈴木も「忠実に守ろうと思った」と話し、その高い目標に目を背けなかった。
鈴木が20km超をレースで走るのは今回が初めて。
「走れるとは思っていたんですけど、どこまで全力を出していいのかがわからないのが怖かったです」
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そんな不安も抱えてレースに臨んだ。
ところが、いざ平塚中継所を出発すると堂々とした走りを披露した。
鈴木がタスキを受けたのは4位。3位の駒澤大までは41秒、2位の城西大には50秒の差があった。
「(駒大の)村上さん(響/3年)が強いので、とりあえず前が見えないとなあと思って、最初から突っ込みました」
入りの1kmは2分43秒で「いい感じだな」と思ったという。しかし、3kmでタイムを確認すると8分32秒。自分では快調にペースを刻んでいるつもりだったが、ペースが少し落ちていた。「あっ、俺、調子が悪いのか......」と思った。
そんな時に脳裏に浮かんだのが、走る直前に花田監督から言われた言葉だった。
「『タイムを気にせず、感覚で行け』って言われていたので、そこから10kmまではけっこう淡々と走りました」
10kmの通過は「28分24秒ぐらい」。想定よりも20秒前後速かったが、まだまだ余裕はあった。とはいえ、未知の領域に踏み入る怖さもあり、それ以上ペースを上げることはしなかった。
そんな鈴木がリミッターを外したのはラスト3kmを切ったぐらいからだった。それまでも力感はなくともハイペースを刻んできたが、ここから一段ギアを上げた。
酒匂橋の定点(15.2km)ではヴィンセントの区間記録ペースよりも20秒以上遅れていたが、ペースアップし、最終的には区間記録に肉薄した。
「走り終わったら意外と速くて、けっこうビックリしました」
自身の快走を他人事のように振り返るが、規格外の快走だった。
5区は八千代松陰高(千葉)からの先輩でもある工藤慎作(3年)。4区から5区へのタスキ渡しは、東海道から少し左に入った側道で行なわれるが、勢い余って片手渡しになったほど、鈴木は勢いよく中継所に駆け込んだ。
【ルーキーシーズンの歩み、そしてこれから】
鈴木は中学時代からこの世代をリードしてきた選手で、5000mでは高校歴代2位の13分25秒59を持つ。
中学時代はサッカー部に所属しながらも、3年時に3000mで全国チャンピオンに輝き、高校に進んでからも着実に力をつけた。3年時のインターハイでは5000mで日本人大会最高記録を打ち立てて2位に入り、全国高校駅伝では1区の日本人最高記録となる28分43秒を打ち立てて区間賞を獲得した。
そして、早大に進学。ルーキーイヤーの前半戦は5000mを中心に華々しい活躍を見せた。5月の関東インカレでは留学生と互角の戦いを繰り広げ、日本人トップの2位。7月の日本選手権でもシニア勢に割って入って決勝に駒を進めた。
しかし、その反動は大きく、日本選手権後には左足の足部を痛めて1カ月半ほど走れない期間があった。
「ケガの影響で夏合宿が半分しかできなかったので、すごく不安でした」
こう振り返るように、前半戦の活躍とは裏腹に、不安を抱えて駅伝シーズンに臨んでいた。
それでも、出雲駅伝は3区、全日本大学駅伝は2区と、前半の流れを決める重要な区間を任されると、それぞれ区間5位、4位ときっちり役割を果たした。とはいえ、これまでの活躍と比べれば物足りなくも映ったかもしれない。そのレース内容を精査すれば並のルーキーではないことがわかるが、確かに大器の片鱗を少し見せただけに過ぎなかった。しかし、箱根ではその非凡な才能を惜しみなく披露した。
1年生にしてこの活躍。箱根2区を3年間担ってきた山口智規が卒業する来季、鈴木はその役割を継ぐ有力候補のひとりになるのは間違いない。
気が早いが、鈴木に箱根の2区について聞くと、こんな回答だった。
「山以外なら、どこを走りたいとかはないんですけど、まあ、そうですね。(自分が)2区をしっかり走れるとチームにもよい気がしますよね」
新年度には、増子陽太(学法石川高・福島)、新妻遼己(西脇工高・兵庫)、本田桜二郎(鳥取城北高・鳥取)と、暮れの全国高校駅伝を沸かせた選手たちが入学するが、彼らの活躍に刺激を受けつつも、鈴木は"圧倒的な個"をさらに磨いていくつもりだ。
狙ったレースにきっちりと合わせられるのが鈴木の強さでもある。2年目、トラックでも駅伝でも、大学長距離界を席巻する活躍を見せてくれそうだ。
