
JTBはコロナ禍で大打撃を受けた企業の一つだ。国内外の旅行者が激減したことで売上高は3分の1以下まで減少、赤字は一時期1000億円以上に膨らんだ。
その後、店舗を縮小したほか本社ビルを売却。ワクチン関連業務を受託し、生き残りを図った。依然、インバウンドの好調をよそに日本人による旅行の需要は回復しきっていないが、現在の利益率はコロナ禍以前の水準を上回る。
「旅行会社」という印象が強い同社だが、創業以来、柔軟に事業を変化させており、コロナショックの乗り越え方にも、その姿勢が受け継がれている。近年の業績推移や事業の変革を探っていく。
●1912年に創業、戦後に民営化
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JTBは1912年にインバウンドの呼び込みを目的とするジャパン・ツーリスト・ビューローとして創業した。後に外国人向けに鉄道乗車券の販売を開始。1925年にはJTB時刻表の原型となる「汽車時間表」を創刊し、邦人客向けの切符販売も始めた。
戦時中は疎開などの集団輸送業務に従事し、戦後すぐに財団法人日本交通公社となった。経済成長の著しい1950年代には国内旅行に注力し、その後一部を民営化して日本交通公社が発足し、これが後のJTBとなった。
●5つの事業を多角展開
JTBは主に5事業を展開している。海外旅行は日本から国外への旅行であり、訪日旅行はインバウンドを対象とした事業だ。日本を経由しない第三国間旅行も手がける。国内外の旅行パックを開発し、自社の直営店や公式Webサイトで販売するのが主な事業である。
近年ではネット予約の普及で宿泊施設と移動手段を自分で予約する人も増えたが、海外旅行の緊急時には現地のデスクや緊急電話サポートを頼れるなど、安心材料としてJTBのパック旅行を選ぶ人もいる。
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インバウンド関連では自社で「サンライズツアー」を提供するほか、海外の旅行会社と提携し、訪日旅行の企画・運営を手がけている。外国人旅行者が自分で宿泊施設を予約する場合、アゴダやブッキングドットコムなどの海外OTA(オンライン旅行代理店)を使うことが一般的だが、JTBはアゴダと提携し、自社で仕入れた部屋をアゴダで販売しており、そうした収入も含まれている。
旅行以外ではイベント運営などの「MICE」や、法人・自治体から一部業務を受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手がける。また、専門商社のJTB商事を通じて、宿泊施設向けにアメニティーなども供給している。
●コロナ禍では「スリム化」を進めた
国内では2020年1月に新型コロナウイルスの感染者が初めて確認された。3月下旬から感染者数が爆発的に増え、4月に政府は首都圏などで緊急事態宣言を発出した。外食、観光、レジャー産業は大打撃を受け、2022年末ごろまで自粛ムードが続いた。
こうした状況でJTBも大打撃を被った。2021年3月期の売上高は前年から70%以上も減少し、3721億円を計上。営業損失は976億円で、最終損失は1052億円となった。部門別では国内旅行の売り上げが3分の1未満にまで減少し、海外旅行は95%減少した。インバウンド関連の売り上げも前年の684億円からわずか38億円となっている。
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資金を確保するため、JTBは東京・品川の本社ビルと大阪のビル2棟を売却した。2022年3月期は前年度に引き続き営業赤字だったが、ビル売却により最終益は285億円と黒字化を達成。コロナ禍では各地の店舗再編を進めたほか、グループ全体で8000人規模の人員を削減・給与カットで「スリム化」を進めた。
また、BPO事業を手がけている関係で、JTBはコールセンターなど新型コロナワクチン接種に関連した業務を請け負っており、旅行授業の減収分を一部補填(ほてん)。ワクチン関連の売上高は不明だが、2023年3月期における旅行以外の収入は前年の3714億円から5024億円に膨らんだ。
●国内外旅行は、まだ需要減が続きそう
2025年3月期の海外旅行部門の売り上げは2243億円と、2020年3月期の4401億円と比較して半分程度だ。日本人出国者の数は2019年に2008万人を記録したが、そこをピークに2021年は51万人にまで減少し、2024年も1300万人と以前の水準より700万人少ない。
2019年に1ドル110円未満だったドル円相場は、円安が進行し、1ドル150円台になった。国内では物価高が進行している。円安と節約志向の上昇で、旅行控えが起きているとみられる。国内旅行の売上高は2024年3月期に2019年度の水準を上回ったが、再び減少に転じている。国内もインバウンドの増加で都市圏のホテル価格が高騰したため、旅行控えが起きており、JTBはしばらく影響を受けそうだ。
もっとも、スリム化を進めたことで収益は改善した。2023年3月期以降、営業利益は3ケタ億円をキープし、2025年度も上期時点で前年の水準を上回っている。国内の実店舗はいずれ足かせになることが分かっていた事業であり、コロナ禍が新陳代謝を促したといえる。売上高の回復は円高による海外旅行の復活を待つ必要があるだろう。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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