
NTTドコモは、住信SBIネット銀行を傘下に収め、銀行業に参入した。既に連結子会社化は済み、三井住友信託銀行との共同経営体制を取っているが、2025年12月には社名を「ドコモSMTBネット銀行」に変更することを発表。2026年8月3日から、この社名でサービスを提供していくとともに、ドコモ本体が手掛ける通信や各種ポイント、決済サービスとの連携も強化する。
金融事業に足りないピースを買収という形で補ってきたドコモだが、その中心となる銀行を手に入れたことで子会社間の相互連携も強化していく。また、NTTの代表取締役社長、島田明氏は、ガバナンスを強化するため、金融・決済サービスを傘下に束ねた持株会社を設置する方針も明かしている。
銀行を傘下に収め、金融サービスが一通りそろったドコモだが、ドコモSMTBネット銀行の発足に伴い、どのような戦術でサービスを提供していくのか。ドコモのコンシューマサービスカンパニーでウォレットサービス部長を務める執行役員の田原務氏に、今後の見通しを語ってもらった。
●銀行・決済の連携が基本軸、ドコモ回線や融資、保険にも広げる
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住信SBIネット銀行を傘下に収めたドコモだが、現状では、10月に開始した「d NEOBANK」やdポイントがもらえる口座開設キャンペーンなど、連携しているサービスは一部にとどまっている。これが本格化していくのが、社名をドコモSMTBネット銀行に変更する8月ごろだ。田原氏は、「まさに今、開発に着手している」としながら、「今年の8月ぐらいをめどに、サービスを出していきたい」と語る。
目指すのは、「暮らしと金融の境目のない世界」。ドコモSMTBネット銀行の社名を発表した際には、ドコモの代表取締役社長、前田義晃氏や住信SBIネット銀行の代表取締役社長、円山法昭氏から、銀行サービス、回線の利用でdポイントがたまるサービスや、dカードの引き落とし口座に設定することによる還元率アップ、さらには金利優遇といった連携施策が語られていた。
田原氏も、「まずはサービスとの連携と回線との連携をしっかりやってきたい。この2つが大きな軸になっていく」と話す。
「戦略としては、決済と銀行の口座をセットにして、ドコモの回線ユーザーのお客さまはもちろん、回線を契約していない銀行のユーザーにもメリットがあるように設計して、連携を進めていきたい。決済と銀行口座の連携を基本軸にしながら、回線やその他の金融、融資、保険、マネックス証券へのシームレスな連携ができるよう、しっかり設計していきたい」
田原氏の発言からは、中心に据えるのはドコモSMTBネット銀行とdカードのような決済サービスの連携と捉えることができる。ドコモ回線との連動は、他の金融サービスと同様、その次のステップと捉えていることもうかがえた。これは、「モバイル自体が成熟期を迎えているので、ドコモ回線ユーザー以外の方にも、銀行や決済(dカードやd払い)を使っていただきたいと思っている」ためだ。
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また、現状の住信SBIネット銀行は、「900万口座の中のざっくり言って3分の1がドコモユーザー」。逆に言えば、3分の2のユーザーは他社回線を利用している。ドコモグループ内のシナジー効果は、回線よりも「銀行を使っている方にクレジットカードやd払いを使えるよう、銀行をフックにしていく」方が発揮しやすい。
KDDIやソフトバンクは、回線の利用者に住宅ローンの金利を優遇する施策を行っているが、こうした取り組みも「検討中」だという。ただ、こちらもターゲットは「回線契約をしていただいた方や、その他のドコモのサービスをご利用いただている方」が中心。田原氏が「比較的使っていただきやすいdカードや、回線以外のサービスで住宅ローンを享受していただける設計にしていきたい」と語っていたように、ドコモ回線ありきでの設計にはしていかない方針がうかがえる。
●金融持株会社の新設も検討、開発面では既に連携も
こうした連携が取りやすいよう、ドコモグループで金融や決済サービスを担う会社を、ドコモ傘下の金融持株会社に集約する検討も進んでいるという。競合他社を見ると、KDDIはauフィナンシャルホールディングスを持ち、auじぶん銀行やauペイメント、au損保といった各金融、決済事業者を束ねている。「動きが速い業界なので、新しい取り組みや新しいテクノロジーが次々と出てくる。そこにキャッチアップし、競争力を高めたい」というのが狙いの1つだ。
もう1つ大きいのが、ガバナンスだ。金融や決済サービスの運営には、「業法に沿った事業運営や経営層の関与、金融に精通した人が事業運営をしているかもポイントになる」。実際、通信と金融、決済サービスでは監督官庁も異なれば、順守すべき法律も異なる。分社化し、そこに金融や決済に特化した専門的な人材を配置することで、「よりガバナンスを効かせた形にしたい」というわけだ。
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連携体制という意味では、8月の名称変更を待たず、既に人材交流も進んでいるようだ。田原氏によると、「うち(ドコモ)からも開発メンバーが出向し、全体で言うと20人弱が住信SBIネット銀行に出向している」という。ドコモ側は、「d払い中心に、UI(ユーザーインタフェース)やUX(ユーザー体験)を改善してきた実績のあるチームがいる」。そのメンバーを銀行側と合流させ、「UI、UXを起点にサービスをデザインするワーキングチームを作っている」という。
住信SBIネット銀行はUIやアプリの作り込みに定評がある。田原氏も、「今の住信SBIネット銀行のUIはものすごく使いやすい」と語る。一方で、dアカウントでの連携になってくると、その利便性が低下してしまう恐れもある。現行のdアカウントは回線契約を基盤にした顧客管理システムとひも付いていることもあり、使い勝手に疑問符が付くことも多い。
実際、筆者もかつて統合していたdアカウントの片方だけ回線を解約した結果、それが残ったままになり、メインで使う契約中の電話番号にひも付いたdアカウントでオンラインショップが使えなくなるというトラブルにあった。回線契約している場合、回線ごとにdアカウントを作らなければならず、1つのサービス内で情報が分散してしまうといったことも起こる。
このdアカウントが住信SBIネット銀行と連携することで、使い勝手を損ねてしまうのではという不安の声も聞かれる。これに対し、田原氏は、「(社長の)前田からお伝えしているように、dアカウントが複雑になっている」としながら、「社内で改善するプロジェクトが急ピッチで進んでいる」と語る。「ドコモの回線やカードを使われてメリットを獲得したい方はdアカウントの連携が必須になるが、そこ(使いやすいUI)を毀損(きそん)することなく、画面設計や導線設計をしていきたい」というのが、ドコモの方針だ。
●ドコモのアセットでBaaSを強化、通信事業者ならではの銀行を目指す
住信SBIネット銀行は、BaaS(Banking as a Service)の先駆けとしても有名な銀行。BaaSとは、APIで連携することで、銀行機能を持たない事業者がバーチャルな銀行を始められる仕組みを指す。日本航空の「JAL NEOBANK」や、高島屋の「高島屋NEOBANK」、ヤマダ電機の「ヤマダNEOBANK」など、さまざまな業種がこの仕組みを活用する。ドコモとはポイント経済圏で競合するVポイントのCCCライフパートナーズも「V NEOBANK」を展開している。
田原氏も、「住信SBIネット銀行はBaaSの取り組みがかなり早く、プラットフォームが洗練されていて、APIもきちんと整備されており、導入しやすいBaaSになっている」と評価する。一方で、最近では楽天銀行やみんなの銀行、GMOあおぞらネット銀行など、さまざまな銀行がBaaSを導入し、競合も増えている。ドコモ自身も三菱UFJ銀行のAPIを通じて、「dスマートバンク」を提供していた。
競合が増える中、ドコモが親会社になることで、新たな強みも出てきているという。住信SBIネット銀行の円山氏は、社名変更の発表会でスマートライフプラットフォームという構想を披露した。これは、「パートナーの意向に応じて、例えばdポイントを連携できるようにしたり、融資を連携できるようにしたりするもの。銀行機能の提供だけでなく、付随するポイント、金融、決済をセットで提供する」取り組みだ。
ドコモグループになったことで、住信SBIネット銀行にとっても活用できるアセットが増えた形になる。田原氏によると、「実際、発表した後、数社からお話をいただき、具体的な検討に入っている」という。具体的には、dポイント加盟店や、ドコモ傘下のドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)が抱える大手企業が導入の検討をしているという。田原氏は「BaaSの中でポイントや融資をどう表現するかの具体的な成功事例を作っていきたい。今年中に実績を出したい」と意気込む。
メガバンクと比べると規模は小さい住信SBIネット銀行だが、田原氏によると、ドコモが考えているのはこうした銀行への対抗ではなく、「通信事業者がやる新しい金融サービス」。「ドコモやNTTグループが持っているテクノロジーやイノベーションの種をしっかり融合させ、新しい金融を作るのが競争軸になる」という。AIやBaaSは、こうした金融を実現するための要素になる。
とはいえ、通信と金融の連携では、他事業者に後れを取っているのも事実。住信SBIネット銀行を傘下に収め、ようやくその競争のスタート地点に立ったのが実態だ。ただ、業界内はドコモがトップ、住信SBIネット銀行もネット銀行では預金残高2位につける。双方の規模感を生かせれば、シナジー効果は大きくなりそうだ。8月の社名変更を目指して開発しているサービスにも、今から注目しておきたい。
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