
バントについて語った山本キャスター
この連載の第197回で「日本野球学会」に参加したことをお話ししましたが、そこでの貴重な出会いのひとつが今泉拓先生でした。
今泉先生は、野球データを分析することを専門にされていて、現在は鹿屋体育大学でアナリストを育てています。先生の下から羽ばたいた生徒たちは、さっそくプロ野球と契約を結び始めているそうです。
大学の先生のホームページを拝見すると、専門分野の仲に「スポーツ心理学(判断・意思決定)」とあり、具体的には以下のように説明がありました。
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・「スポーツ場面における意思決定の変化と歪みの検証」
実際のスポーツ現場において、選手、監督、審判が不正確または非効率な意思決定を行う条件とそのメカニズム、さらに個人差の影響について研究している。
先生の著書に、2024年6月に発売された『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも"つい"やってしまう不合理な選択』(日本実業出版社)があります。本書は野球をはじめとしたスポーツのシーンを学術的な視点で解説しており、野球に詳しくない方も楽しめる一冊です。
その中で印象的だったのは、バントは効率のいい作戦とは限らない、という項でした。
ノーアウト1塁のときに、バントで送って1アウト2塁にするシーンはよくありますが、確率的な視点でいうと、普通に打つよりも、得点の確率を下げることになるんだそうです。
その書籍で使用されている数字では、ノーアウト1塁の得点の期待値は0.804点に対し、1アウト2塁では0.674点。送りバントを決めて走者を2塁に進めると、期待できる得点は0.13点下がってしまうという研究があるそうです。
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さらに「1点を取ることができる確率」を比べても、ノーアウト1塁では40.2%なのに対し、1アウト2塁では39.4%。つまり、ノーアウト1塁からの送りバントは、期待できる得点だけでなく、1点を取る確率も減らしてしまうことが明らかになっているのだとか。
昨年12月の学会での1枚。いつか鹿屋体育大学さんへ取材に伺いたいです!
ゲッツーを回避したい、得点圏にランナーを置きたいからバントをする。それは、確率論では得点機会を下げているということ。メジャーではよりバントが少ないですが、確率がより優先される傾向が強いからかもしれません。
送りバントは1点を取りにいくための戦術ですが、その1点を取るためにもっと効率がいい方法があるかもしれないことを、この本は教えてくれます。
選手の打撃力、バントが得意かどうか、試合の状況などによって作戦はさまざまですから、バントが悪ではないことは強調しておきます。本の中では、具体的に打率が何割以上であればヒッティングが有効なのかまで、詳しく紹介されています。適切なタイミングでバントを選択して、ランナーを2塁に送ることで投手にプレッシャーを与えることも、心理的に大きな意味があると思います。
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つまり送りバントは、適切な状況やタイミングで選択すべき戦術なのでしょう。ファンも、打者がバントをしたときに、その選択にどんな意図が隠されているのか考えると、より楽しく野球がみられそうですね。そこが、監督の腕の見せどころだからです。
今泉先生の本には、ファンの声援がどれくらいプレーに影響するのかという項もあり、興味をそそられました。声援があると、ストライク判定が有利になりやすい傾向が見られるそうです。
声援がフォアボールを0.5個増やしているというデータもあるとか。私たちの声援が力になっていることがデータで示されることで、もっと声援を送りたくなりますね。
データは日々更新されていますから、今ではまた違う結論が出ることもあるかもしれません。学問が、野球の戦術や見方を変えてくれる。まだまだ深堀りの余地がありそうですね。
それでは、また来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
