
企業の業務全体の自動化や高度化に向けて多様なAIエージェントを連携させて活用する「エージェンティックAI」に対し、ITベンダー各社はソリューションの開発、整備に注力している。そうした中、この分野で攻勢をかけている米Salesforceがビジネスチャットとして広く使われている「Slack」を活用した新ソリューションを打ち出した。その内容が興味深かったので、今回はその勘所を紹介し、エージェンティックAIの今後について考察したい。
エージェンティックAI時代、Slackは「OS」になる? Salesforceの戦略を読み解く
●「仕事のためのパーソナルエージェント」とは?
「"エージェンティックエンタープライズ"の実現に向けて、当社はさらなる攻勢に打って出る」
Salesforceの日本法人セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品統括本部 統括本部長)は、同社が2026年1月20日に開いた新ソリューションの記者説明会で、こう切り出した。
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三戸氏によると、エージェンティックエンタープライズとは「人とAIエージェントが協働し、人の可能性を拡大する新しい働き方」とのことだ。この環境では、AIが稼働することによって、全てのチームが24時間365日情報を活用できる。単なるAIによる自動化にとどまらず、AIエージェントが人の可能性を最大限に引き出し、働く人の思考・感性・判断といった能力の拡張を伴う次世代の企業像を意味しているという。
その具体的なソリューション体系が、図1に示した「Agentforce 360」である。
同氏によると、「Agentforce 360ではSlackを会話の起点とし、知識、業務アクション、データをリアルタイムでつなぐことで、日々の仕事の中でAIをより身近に活用できる環境を提供する。業務上のやりとりが日々大量に実施されているSlackにエージェンティックエンタープライズの力を組み合わせることで、エンタープライズ向けAIは特別なツールではなく、同僚と会話するように自然に使える存在になる」とのことだ。
そのSlackに組み込まれているチャットボット「Slackbot」を刷新し、個々の利用者の業務を支援する「パーソナルAIエージェント」(以下、パーソナルエージェント)として提供開始したのが、今回の新ソリューションだ。
同社は刷新したSlackbotについて「仕事のためのパーソナルエージェント」と強調し、「すでにSlack上に存在する会話や業務のコンテキスト(文脈)を起点に、利用者が信頼しているツールや情報と連携しながら、権限やアクセス制御を尊重した形で業務を支援する。新たなツールのインストールや特別な学習、追加の管理を必要とせず、質問への回答、業務の整理、コンテンツ作成、会議のスケジュール調整、各種アクションの実行まで、全てをSlackから離れることなく行える」と説明している(図2、図3)。
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米国では1月20日に発表されたこの内容について、今回の動きのキーパーソンであるSalesforceのパーカー・ハリス氏(共同創業者 兼 Slack CTO=最高技術責任者)は次のように述べている。
「Slackbotは単なるAIアシスタントではない。当社が可能にするエージェンティックエンタープライズへの"入り口"だ。企業のデータ、業務プロセス、そしてSlack上の会話に基づいたAIを、仕事の流れの中に自然に届けることができる。これは、私たちが目指してきた未来を実現するための重要なステップであり、直感的な会話型インターフェースを通じてAgentforce 360を具現化し、全ての人の働き方をエンタープライズ向けAIで進化させるものだ」
「Slackbotはエージェンティックエンタープライズへの"入り口"」との発言が、印象に残った。
●「エージェンティックAI元年」の口火を切った動きに
また、日本でのSlack事業責任者であるセールスフォース・ジャパンの浦和広氏(常務執行役員 Slack本部 Head of Slack Japan)は会見で、今回の発表について図4を示しながら次のように説明した。
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「Slackはこれまで人やデータ、Agentforceやアプリケーション、個人向けAIなどとやりとりするツールとして使われてきた。さらに今回の機能強化によって、パーソナルエージェントとして他社の生成AIやAIエージェントとも柔軟にやりとりできるようになる。これにより、企業の業務全体を見渡して自動化や高度化を進められるようになる。そうした役割から、Slackは新たに"エージェンティックワークOS"と位置付けている」
筆者の捉え方では、Slackは「OS」というより「ユーザーインターフェース」(以下、UI)のイメージが強い。ただし、かつてUIだった「Microsoft Windows」がいつの間にかOSと呼ばれてデファクトスタンダードになったことを考えると、この機にSlackをOSと呼び始めたのは深謀遠慮を感じる。
なぜ、そう感じるのか。それは、Slackbotを内蔵したSlackが冒頭で述べたエージェンティックAIのUIのデファクトスタンダードになる可能性があるからだ。これまでSalasforceの話をしてきたので同社が提唱するエージェンティックエンタープライズという言葉を使ってきたが、筆者の解釈ではエージェンティックエンタープライズはあくまで同社のサービスの利用環境を対象とした考え方だった。それが今回、浦氏の説明からすると、Slackは他社の生成AIやAIエージェントの利用環境も包含したUI(将来的にはOS)を目指していることが見て取れる。
エージェンティックAIについては、「マルチベンダー・マルチタスクのAIエージェントをオーケストレーションさせながら全体をマネジメントする技術・サービスおよび利用環境」と、筆者は定義している。特に、マルチベンダーのAIエージェント同士が自律的に連携し協働することが前提だ。という観点から、これまではエージェンティックエンタープライズはエージェンティックAIに相当しないと見てきたが、今回の動きで同じ意味になったと認識した。
ただ、エージェンティックAIにおいては、OpenAIやMicrosoft、Googleなどが提供する、既に多くの利用者がいる生成AIが進化してパーソナルエージェントになるのではないかとも推測する。そうした中で、Slackは確固たる存在感を示せるのか。この疑問を会見でぶつけてみたところ、三戸氏および浦氏は次のように答えた。
「パーソナルエージェントとしての競合は出てくるだろう。ただし、Slackも企業内のコラボレーションツールとして多くのお客さまが利用している実績を踏まえれば、他とは異なる価値を提供できるのではないかと考えており、選択肢の一つとして存在感を発揮できると確信している」(三戸氏)
「他とは異なる価値として挙げられるのは、Slackはもともと人と人をつないできたことから、パーソナルエージェントとしても人とAIエージェントを臨機応変かつ効果的につなげられることだ。エージェンティックエンタープライズを実現する過程においては、そこが大事なポイントになってくるのではないかと考えている」(浦氏)
「AIエージェント元年」といわれた2025年から、2026年は「エージェンティックAI元年」になるだろう。Salesforceの今回のアクションが、その口火を切ったというのが筆者の印象である。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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