0
2026年01月28日 18:45 ねとらぼ

学芸員の資格を持っており、美術や工芸に詳しいホロライブのVTuber・儒烏風亭らでん。彼女が他ではなかなか見られない映像をアップしています。それは、東京国立博物館で行われている源氏物語図屏風の修復風景。美術を守る人たちの、表に出ることのない裏側の世界です。
東京都内の一軒の古い民家で見つかった、ひとつの屏風。江戸時代後期の宮廷絵師である土佐光孚(とさ・みつざね)によるもので、貴重な文化財だと判明したのですが、いかんせん屏風としての保存状態は悪く、絵の具のはく離や虫食い、猫の引っかき傷もあって、修理が必須の状態だったとのこと。精神を研ぎ澄ませて職人たちがピンセットで細かく修繕する様子が詳細な解説入りで撮影されている、貴重な映像になっています。
元々この屏風の修理は莫大な金額がかかることもあり、クラウドファンディングで資金を募っていました。儒烏風亭らでんは自腹で寄付をしており、そのリターンとして修理見学ツアーに参加したようです。彼女の寄付と呼びかけは、このクラウドファンディングに絶大な影響を与えていました。
オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。
|
|
|
|
X:@tamagomago
「まだ、国宝、重要文化財といった国の指定を受けていない作品でも、しっかりと修理して、未来に残していきたい」「価値ある文化財を救い出したい」という思いのもと、東京国立博物館が開催していた源氏物語図屏風の修理のためのクラウドファンディング。目標額は3千万。簡単な金額ではありません。
目標額の80%くらいまできたとき、儒烏風亭らでんは自身の配信で、仕事ではなく個人的な思いでこのクラウドファンディングを紹介する配信を行いました。
「東京国立博物館さんのクラファンがまだ80%なんです! 皆さんよかったら東京国立博物館のクラファンに寄付してください! よろしくお願いいたします!」「URL覗くだけでも、文化財の保護ってこうなってるんだ、ってわかるんで、URLの先だけでも覗いていってください!」「なかなかないんだから! 源氏物語図屏風が見つかるなんてこと」
彼女は寄付した額を「うん百万」とぼかして語っていましたが、そうなると200万円か500万円コースのどちらかでしょう。
|
|
|
|
この配信での紹介をきっかけに、興味を持ったリスナーたちによって源氏物語図屏風の話題は広く拡散されはじめました。クラウドファンディングは見事、目標額である3000万円を超え、最終的に7000万円以上を達成し、大成功で終了しました。
東京国立博物館の応援コメントには「らでんさんの配信で知りました」というような声が数多く寄せられました。儒烏風亭らでん本人のコメントが10月31日に書き込まれたとき、東京国立博物館の担当者が驚きと感謝の返信をしているのを、今でも見ることが出来ます。
「いま、泣きながら、手が震えながら、返信させていてだいております」「らでんさんのつながりの方々のたくさんのご支援もいただいておりますことも、重ねて感謝いたします」「らでんさんに、この東博の本気の使命のプロジェクトへ、ご支援いただきましたことは忘れません」
儒烏風亭らでんは後日、東京国立博物館から依頼があって、正式にこのクラウドファンディングに応援メッセージを寄せています。元々多くの人が注目をしていたプロジェクトではありましたが、儒烏風亭らでんの呼びかけを聞いて初めて知った人が多かったのは間違いないでしょう。
ホロライブReGLOSSで活動している儒烏風亭らでんは、美術の専門家として活動しているわけではありません。基本的にはエンターテインメント配信者であり、ReGLOSSというユニットで歌とダンスを披露するアイドルでもあります。初期は自身を「ネタ枠」だと称し、酒・タバコ・パチスロ好きな破天荒なキャラでした(なお今はパチスロ、タバコは控えているとのこと)。SNSで2024年に大バズリを見せた「まいたけダンス」で彼女を知った人もいるかもしれません。
|
|
|
|
美術館通いが趣味で学芸員の資格も持っていた彼女は、しばしば芸術談義を行うようになり、そのガチ度合いが一気に露呈しはじめます。酒好き酔いどれ面白お姉さんでありつつ、芸術に対して博識な彼女。美術・工芸・伝統芸能などの面白さを多くの人に知ってもらいたいと発信し続けてきたその活動スタイルに、多くの人が魅了されどんどんファン(通称・でん同士)が増えていきました。
また落語家見習いでもある彼女は、絵画や彫刻などについて、わかりやすく、かつ興味を引く解説を、さらりとトークに入れています。彼女の美術解説は、特に初心者が新しい発見をして視野を広めるような巧みさがあるのが特徴。絵画の技法や美術にまつわる歴史などを絡めて語る彼女のトークを聞くと、作品を見る時の解像度がはねあがり、「知ること」の面白さに気付かされます。
それでいて自身はとても謙虚。美術・工芸に携わる人たちを強くリスペクトし、自身も教えられ、学ぶ側であるという姿勢を保っています。彼女は全国の色々な場所に自らおもむいて取材をしており、技術の素晴らしさを体験し、動画でアップしています。聞き手として専門家に話を伺う姿勢と、それをリスナーに伝えるトーク力に関しては、彼女はプロフェッショナルです。
また、サイエンスコミュニケーターの北白川かかぽや古代日本史に詳しいきら子、古典文学に長けた栞葉るり、民俗学に通じている諸星めぐるなど、他のジャンルで活躍する学術系VTuberとも親しく、積極的にコラボをしているのも彼女の活動の特徴のひとつです。
多様な専門知識を持つVTuberが集まって話をすると、視点が多角的になります。そのため、ひとつの芸術作品を見る際でも、美術の技法の知識、作品にまつわる歴史や人々のあり方、科学的な分析など会話の切り口がどんどん広がっていきます。彼女たちは他ジャンルの学問への興味も刺激してくれる、さまざまな学術系VTuberの橋渡し的な役回りとしても、VTuberファンの「学び」への興味を活性化する存在のひとりになっています。
儒烏風亭らでんは元々、「型破り」のような意味合いで「破天荒」と自称していたのかもしれませんが、「破天荒」の本来の意味は「今まで人がなし得なかったことを初めて行うこと」です。彼女がVTuberとしてガンガン美術・芸術の領域の面白さを幅広く拡散している現状こそ、まさに「破天荒」の語にぴったりです。
彼女のインフルエンサーとしての影響力の大きさは、美術界からも注目されています。
儒烏風亭らでんは、2026年1月20日から3月15日まで、静岡県立美術館の音声ガイドを担当することを発表しています。期間中に開催されている「ロダン館」「ロダン館 ナイトミュージアム」「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」「2000年代の絵画 〜静岡ゆかりの作家による」の4つの展示イベントが対象で、来館した際にQRコードを読み取れば無料で視聴できます。
今までも箱根ガラスの森美術館で、2025年7月18日から2026年1月12日まで、音声ガイドを担当していました。ちなみに、彼女は美術館関係者側からもとても愛されているようで、「箱根ガラスの森美術館」と「静岡県立美術館」の公式アカウントの人が配信をリアタイして、コメントを書き込んでいることもあるほどです。
他にも彼女は、サントリー美術館「エミール・ガレ」展の潜入レポートや台南市美術館のPRを行ったり、雑誌『美術手帖』に寄稿したりするなど、美術方面の仕事でも活躍の幅を広げています。
儒烏風亭らでんは配信の際、スーパーチャット(投げ銭機能)を普段オフにする旨を、Xで語っていたことがあります。「そのお金で美術館行ってほしいなあ的な理由です!」と言う発言をきっかけに、実際に色々な美術館に足を運び始めたファンは少なくないようです。公式ハッシュタグ「#行ったよらでんちゃん」「#観たよらでんちゃん」でXを検索すると、彼女の影響で美術館や展覧会などを巡るようになったファンの声を実際に見ることが出来ます。
2024年2月の「anan」のインタビューで「嬉しかったリスナーの反応を教えてください」という質問に対し、彼女は「実際に寄席に足を運んだり、美術館に行ったり…そんな報告をしてくれるのが一番嬉しいです」と語っていたこともありました。今後の目標として「より多くの方に『知らなかった面白いこと』を届けることです! 新しいことを知るとちょっとだけ世界が楽しくなる、そんな気持ちになる人が増えたらいいなと思います」と語る彼女は、幅広い層に向けての「知」の入り口になっています。
彼女は美術館へ行くハードルを下げてくれる配信をしたり、楽しく美術知識を学ぶオリジナル曲をアップしたりと、知識ゼロの初心者でも興味を持てるよう色々な工夫をし続け、美術への門戸を広げています。
彼女は初心者に向けて、美術館巡りに行きやすくなるよう背中を押す気持ちをこめて「何も知らないってそれだけで宝よ??」と語ったことがあります。「極力何も調べずに行って、新鮮な気持ちで絵画を見るのが良いかなぁと思います」「初見で楽しむ気持ちっていうのを大切にしてあげてください」という彼女の言葉に励まされ、美術館デビューした人のコメントが数多く見られます。
配信で語られる美術知識の話自体も面白いのですが、何より彼女自身が美術・工芸作品や落語などの伝統芸能に触れた時、とても楽しそうにその感動を言語化し、みんなに見て欲しいと語り伝えてくれるのが印象に残ります。語る言葉は知的でありつつも、作品が与えてくれる感動に向き合う姿勢は極めてピュアです。そんな本人が持つ人間的な魅力こそが、彼女が美術に人の興味を導く道筋を作るのに成功した理由であるように思えてなりません。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。