
1月20日、金子恭之国土交通相は2025年の訪日外国人客数(インバウンド)がおよそ4270万人となる見通しだと公表した。過去最高を記録した2024年の3687万人を大幅に超える水準であり、日中関係の冷え込みにより年末に中国人観光客が減少したものの、それまでの前年を上回るペースで推移した効果が出たようだ。
一方で、日本から海外に旅行するアウトバウンドは復活していない。2025年の推計値は1473万人であり、コロナ禍以前の水準を下回る。国内旅行の需要も復活しておらず、旅行会社大手JTBの業績にも一定の影響を与えている。円安で海外旅行の負担が大きくなる上に、国内は宿泊施設の価格が高騰しており、旅行控えが起きているようだ。
●ここ10年で、海外旅行の費用は1.4倍ほどに
アウトバウンドの数は戦後、1990年代まで増加し続け、2016年以降はLCCの台頭によって海外旅行が容易になったこともあって、さらに増加。2019年には2000万人を突破した。しかし翌年以降はコロナ禍で激減し、その後は収束に伴って回復が続くものの、2025年は冒頭の通り1473万人となった。これは1990年代半ばの水準である。
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コロナ禍により生活様式が変化し、旅行しなくなったという意見も聞かれる。だが、全世界の国際観光客数はコロナ前の2019年に14.6億人を記録し、2025年は15.2億人と以前の水準を上回った。日本人による海外旅行控えが起きていることが分かる。
主な要因は物価高と円安だ。食品を中心に物価高が進む中、必需性の低い海外旅行への需要が低下している。110円前後を推移していたドル円は150円を突破し、単純計算でドルの物価が1.4倍に膨らんだ。
日本人の旅行先はアジア圏が多いが、対アジア通貨でも日本円の価値は大幅に低下している。タイの1バーツも3.5円から5円台に上昇するなど、海外旅行の単価は2014年の約25万円から2024年には34万円と、10年間で10万円ほど増えた。
●「1泊数千円台」も今は昔、国内旅行も伸び悩む
国内旅行も回復途上にあるとはいえ、物足りない。
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「日本人国内延べ旅行者数」は2019年に5億8710万人を記録していたが、コロナ禍での落ち込みをへて2024年やっと5億3995万人と5億人台まで復活。しかし2025年は伸び悩み、以前の水準を下回る模様だ。旅行会社大手JTBの業績を見ても、国内旅行部門の売上高は4360億円(2025年3月期)で2019年度を下回った。訪日旅行やBPOなどの旅行外事業で国内事業の縮小を補っている。
国内旅行が冷え込む主な要因はホテル価格の高騰にある。
以前は大人1人数千円台で東京23区に泊まれたが、現在では1万円以下で泊まるのが難しくなった。カプセルホテルでも1万円を超える時代に突入している。価格高騰は全国的に進んでおり、東京商工リサーチによると、ビジネスホテル8ブランドの客室単価は1万3930円(2025年)。直近では中国人観光客が減っているが、客室単価は依然として高い水準だ。
観光地周辺の宿泊施設はインバウンド数の推移や、ドル円などの為替を見て客室単価を決定する。観光客のデータを分析しない施設でも、周辺施設の相場に合わせて単価を決めるため、結果的にインバウンドの状況が相場を左右する。数では日本人が多くても、外国人客は長期で泊まる傾向にあるため、客室単価への影響度は大きい。
海外旅行と同様、国内旅行の平均単価は3万円台後半から5万円弱に上昇し、負担が増えた。余裕の少ない層を中心に旅行控えが起きていると考えられる。
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●富裕層だけが旅行を楽しんでいる?
旅行単価の上昇は旅行の仕方にも変化を与えている。
海外旅行に行かない層が増える一方、国内旅行に関しては高速バスをホテル代わりに利用し、出費を抑える旅行客が増えてきた。高速バス事業者のWILLER EXPRESSによると、高速バスの主要客は学生などの若年層だったが、若手社会人やシニア層も増えており、可処分所得が多いような層も夜行バスを選ぶようになったという。
近年の株高や不動産価格の高騰で富裕層は潤っており、円安が進む昨今でも欧州や米国などの長期旅行は堅調だ。行先別ではアジア圏の割合が前年比で減少した一方、欧州・ハワイ・北米の割合が増えたというデータも出ている。旅行控えする庶民と積極的な富裕層で二極化が進んでいる。
旅行控えをもたらす円安・物価高は、政府が長年続けてきた積極財政が要因だ。国債を発行し続け、財政支出を増やしてきたツケともいえる。円の価値が低いのは、外国との金利差に加え、日本の財政に対する懸念が大きいことも背景にあるだろう。
円安はインバウンド増加に寄与した一方、日本人のアウトバウンドを抑制した。2月に総選挙が予定されているが、民意を反映して与野党とも減税を打ち出しており、財政健全化への道筋は見えてこない。極端な円安を是正する政策が行われない以上、今後も円の価値が低い状況が続くはずだ。
※下記の関連記事にある「インバウンドが押し寄せ、富裕層だけが旅行を楽しむ一方で…… 庶民の『旅行離れ』まだまだ続きそうだと断言できるワケ」では、配信していない図版とともに記事を閲覧できます。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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