企業不祥事を防ぐコツは「昭和」にあり? 今こそ学ぶべき名経営者たちの教えと、注目すべき「現代企業」とは

0

2026年01月29日 06:50  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

出所:ゲッティイメージズ

 戦後の高度成長を支えてきた企業(以下、昭和企業)での不祥事が、2000年から今に至るまで続発しています。古くは食品業界を震撼(しんかん)させた食品偽装から、東芝の不正会計、神戸製鋼や三菱電機などでの検査不正、さらにはトヨタ自動車をはじめとした大手自動車各社における認証不正など、組織ぐるみの不祥事が後を絶ちません。


【その他の画像】


 2025年は小型モーター製造の世界的企業・ニデックで組織ぐるみの不適切会計が明らかになり、現在、第三者委員会による調査が進められています。昭和企業での不祥事は、なぜなくならないのでしょう。


 これらの不祥事に関する外部機関の調査報告書では、判を押したように「組織風土に問題あり」という指摘が見受けられます。組織風土とはいうまでもなく、その組織に根付いた文化がつくりあげる雰囲気やムードであり、社内ルールやしきたりに大きく影響を受けます。


 特に経営者、実権者の影響力は強く、オーナー系企業では創業者や経営者の独善的な経営思想や強い経営姿勢が「社長には逆らえない」という圧力を生みます。非オーナー系企業では古くからの上位下達文化などに起因する「本社には逆らいにくい」というムードが不祥事の遠因になっていると、各報告書で指摘されているところなのです。


 また、「組織風土に問題あり」との指摘を受けた不祥事発生時の再発防止策についてもほぼ同様に、ガバナンス強化と心理的安全性の向上に関する施策ばかりが掲げられています。


 ガバナンス強化については、トップの暴走を食い止める、あるいは誤った経営判断を未然に正すなどの目的で、相互牽制(けんせい)を効かせることが主な目的です。心理的安全性の向上については、「誰もがいいたいことをいいたいときにいえる」風土を醸成し、現場においても誤った指示や行動をお互いに牽制できる体制をとろうというものです。


 しかしこれらの再発防止策は対症療法に過ぎす、根本的な問題の解決には至っていないと筆者は考えています。


●「商い」以前に重視すべきことがある


 筆者の経験を踏まえれば、組織が危機的な状況に陥った時に組織内ムードの急変によって、危機回避が優先されガバナンスが機能しない、心理的安全性への配慮が切り捨てられる、といった事例は容易に起こり得るからです。企業の健全性は、社内ムードによって容易に崩されてしまうのです。不祥事の根本的防止には、ムードに左右されない組織風土をつくりあげることこそが、重要なのです。では、それはいかにして可能になるのでしょう。


 日本の経営思想の歴史をたどれば、先人たちは決まって健全経営の基本として、商い以前に「人として」を守ることの大切さを説いていることをご存じでしょうか。古くからわが国のビジネス発展のベースには、道徳心を重視するという姿勢があったのです。


 しかしながら今、この姿勢が置き去られていると思うのです。ムードに流されて不祥事に手を染めないためにも、経営者も従業員も確固たる道徳心を持つことが肝要であると、先人の教えは示唆しています。


 古くは商業がビジネスとして定着した江戸初期に、禅僧の鈴木正三が「正直」の大切さを説き、さらに町人層のビジネスが大きく台頭した江戸時代中後期には「道徳」を基本とした商いの正しい在り方を、儒学者の石田梅岩が「石門心学」として世に広めました。


 それらを受ける形で、明治時代の殖産興業期に銀行、保険、製紙、繊維、食品、サービス業など、150もの企業の立ち上げにかかわったのが渋沢栄一です。渋沢が著書『論語と算盤』などを通じ、ビジネスは論語の教えに従うような道徳的なおこないと両立することが重要である、として日本の近代化に大きく貢献したことは良く知られているところでしょう。


●「昭和の名経営者」たちの教えに学ぶべきこと


 これら先人の教えを引き継ぐように、昭和の名経営者たちも実は行動規範の重要性を説いています。


 経営の神様、松下幸之助は、その経営哲学として経営理念に包含される行動規範の重要性を強調し、公明盛大、礼節謙譲など「松下の七精神(私たちの遵奉すべき精神)」として今に伝えています。


 戦後の名経営者で京セラ創業者である稲盛和夫は、経営理念に先立つものとして「人としてのあるべき」を説いた「フィロソフィ」を、企業経営における一丁目一番地として位置付け、自らの経営哲学を伝授する「盛和塾」を通じて多くの経営者に説いているのです。破綻(はたん)した日本航空の早期復活は、氏のフィロソフィ指導の賜物でもありました。


 江戸の昔から昭和に至るまで日本経済を成長に導いた先人の教えに共通するものは「正直」「公正」「利他」といった道徳的な観点を重視した行動規範に他なりません。近年、昭和企業の経営者の経営思想、あるいは組織文化にそれが欠けたがゆえに、組織が不祥事の温床と化してしまったのではないかとも思うところです。


 直接的な原因は、長く続いた高度経済成長とバブル経済によって、自己中心的な利益至上主義がはびこり、行動規範が置き去られ形骸化した経営理念が独り歩きしてしまったからでないかと考えます。


 バブル経済の崩壊後、利益至上主義への反省はあったものの、折悪く証券市場の国際化に伴って企業経営のグローバルスタンダード化が叫ばれたことで、原点回帰する機会を逸した企業も多かったかもしれません。加えて、いくつもの昭和企業は時代の急激な変遷に追いつかず、終身雇用をベースとした上位下達文化から脱し切れていないということも災いしているのでしょう。2000年代以降現在に至るまで、依然(いぜん)として昭和企業において行動規範不在をうかがわせる不祥事が跡を絶たない、そんな状況が続いているのです。


 そんな中、平成以降の創業で、先人の考え方を受け継ぎつつ新たな視座を加えて成長を続けている注目すべき企業があります。グループウエア開発大手のサイボウズです。


●サイボウズは何がスゴいのか


 サイボウズは1997年に元松下電工社員らが3人で立ち上げ、オリジナルのグループウエアがヒットして、わずか3年で上場を果たします。しかし急成長と事業拡大を第一義としたことで、組織運営が硬直化して年間で3割近い退職者を出し、業績も下降線をたどることになりました。


 いつ大きな事故が起きてもおかしくないようなこの危機に瀕して、創業者の一人である青野慶久氏が社長となり、前職で身につけた松下幸之助の教えにならう大改革に着手したのです。


 まず経営理念を重視し、その中核に行動規範を位置付けることをしました。具体的には「チームワークあふれる社会を創る」という同社の「存在意義」と同格で、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立主義」「対話と議論」からなる「5つの文化」を制定しています。「松下の七精神」をイメージさせる行動規範です。


 青野社長はこの「5つの文化」を、「企業理念を日々の組織運営に落とし込むために育んできたものであり、企業理念を実行に移すための行動規範として不可欠なもの」と定義しています。そして何よりこの行動規範を青野社長自らが率先垂範することで、社員間での徹底を図ったのです。


 経営理念は航海に例えてみれば目的地を示した海図であり、行動指針は進むべき正しい方角を知るための羅針盤に当たるでしょう。海図によって目的地が分かっていても羅針盤がなければ船は正しい方向に進むことはできません。行動規範をおざなりにしている企業では経営理念が形骸化して、利益至上主義などに誘導されておかしな方向に進んでしまい、不祥事も起きているといえるのです。


●参考にすべき、サイボウズの制度とは?


 もう一つ、サイボウズが改革の折に始めた特筆すべき施策があります。それは「100人100通りの働き方(現『100人100通りのマッチング』)」です。多様性の時代に合わせ、社員一人一人のビジョンの実現に向けて要望のあった就業ルールを取り入れる制度です。


 青野社長は「勤務先企業の成長に貢献できるような業務をがんばることが、将来的な自己実現につながると実感できるならば、それはきっと『楽しく働ける』ことにつながるはず」と、自著『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)で指摘しています。そういう考えで制度化されたものであり、活力ある組織づくりを目指した施策です。


 この施策こそ、終身雇用制度の下、組織一丸で西欧諸国に「追いつけ、追い越せ」をやってきた昭和になかった、新しい時代の発想であるといえます。しかしよくよく考えてみれば、施策の根底にあるものは「社員に対する利他」であり、ここでもしっかり「利他」という先人たちの経営思想に連なっているのです。


 「100人100通りの人事」は、働き方改革の時代を先取りしたとの評価を得て、青野社長が新しい時代の経営者として注目を集めるきっかけとなりました。しかし、裏側にある経営思想を深堀りすれば、実は日本経済の発展をリードしてきた先人たちの教えを、確実に引き継いでいることが分かるのです。


 改革以降のサイボウズは、約20年にわたって右肩上がりの成長軌道を描き、「働きがい」と「働きやすさ」を兼ね備えた「プラチナ企業」のナンバーワン(2024年日本経済新聞社調査)に評価されてもいます。同社はその経営思想について「制度、ツール、風土は三位一体」(サイボウズ・オフィスツアー資料)としています。そして、組織風土は理念や行動規範の徹底のみで整うものではなく、社員への利他を基本とした人事や福利厚生の制度や執務環境などのツールも整えてはじめて、健全な発展を続け得る組織風土ができあがると説明しています。


 不祥事の温床から抜け出しきれない昭和企業の経営者には、大いに参考にして欲しい新時代の経営思想ではないでしょうか。


(大関暁夫)



    前日のランキングへ

    ニュース設定