
つい先日のことだが、都心から遠く離れた神社を訪れた際、「こんな田舎なのにPayPayが使えるのか」と驚いた。
歴史を感じさせる重厚な山門をくぐり、本堂へと向かう途中で、目に飛び込んできたのは見慣れた鮮やかな赤いロゴだった。そう、「PayPay」だ。その神社のさい銭は現金払いのみだったが、記念写真の撮影コーナーにPayPayのQRコードが掲げられ、それをスキャンして支払える仕様だった。
同じような体験談はネット上でも見られる。地方のタクシーで唯一利用できたのがPayPayだったという話や、シャッター通りになりつつある小さな商店街の個人商店でさえこのサービスが導入されていたというエピソードなど、今やこの決済手段は「ほぼどこでも使える」という確固たる地位を築いている。
なぜ、PayPayは日本の隅々にまで浸透したのだろうか。その裏側にある地方での泥臭い取り組みや戦略について、PayPay広報に詳しい話を聞いた。
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●ローンチ前は、実体の分からないサービスの営業に苦労
PayPayのサービスが誕生した2018年当時、国内の決済手段は現金が主流だった。現在でこそテレビCMや大規模な還元キャンペーンによってその名を知らない人はいないほどになったが、サービス開始前には想像を絶するような苦労があったという。PayPay広報は「まだ始まっていないサービスを導入してもらうのは、まさに概念を売り込むようなものだった」と振り返る。
サービス開始前、PayPayは「2018年6月頃から各地に営業拠点を設置しており、当時そのような体制はPayPay独自だった」そうだ。まだ世の中に認知されていなかったQRコード決済という仕組みを説明し、導入を促す営業活動は困難を極めた。何しろ、店舗側からすれば「見たことも聞いたこともない、実体すらつかめないサービスを信じてくれ」と頼まれるような話なのだ。
この状況を打破するために、PayPayは「ヤフー(現LINEヤフー)」と「ソフトバンク」の子会社というバックグラウンドを説明することから始めた。信頼性のよりどころとして親会社の名前を出し、1つずつ不安を払拭していった。さらに、営業担当者はデモ用のQRコードを常に持ち歩き、管理画面を実際に見せることで、決済フローを実演した。言葉だけでは伝わらない利便性を、目に見える形で示し続けたのだ。
導入への障壁を下げるための戦略も極めて緻密だった。クレジットカードなどの既存のキャッシュレス手段と異なり、高価な専用機材の導入が不要であること、初期費用が一切かからないことを強調した。特に2018年10月のサービス開始から2021年9月までの約3年間、中規模や小規模の店舗に対して決済手数料を無料で提供したことは、慎重な地方の店主たちの背中を押す決定打となったようだ。
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●100億円還元キャンペーンで話題、自治体との連携も地方開拓に貢献
地道な営業努力と並行して行われたのが、大胆なマーケティング施策だった。サービス提供直後に実施された「100億円あげちゃうキャンペーン」は、大きな注目を集めた。第1回のキャンペーンは、あまりの反響にわずか10日間で終了する事態になった。連日、家電量販店に長蛇の列を作る人々の姿が報じられ、PayPayに対する注目は日に日に増した。この強烈なインパクトによって、新規ユーザーの獲得と認知度の向上に成功した。
しかし、PayPayの真骨頂は単なる大型キャンペーンにとどまらない。その後、自治体と連携した「あなたのまちを応援プロジェクト」や、国が主導した「マイナポイント事業」といった公共性の高い施策に積極的に参画した。これにより、当初のターゲットであったデジタルネイティブ層だけでなく、スマートフォン操作になじみの薄い高齢層を含む幅広い年代にまで利用者が広がった。
「自治体でのキャンペーンが決定すると、それを機にPayPayの導入を検討いただける店舗も多く、加盟店拡大にも寄与している。自治体からPayPay導入を進めていただけることも大きい」(同社)
2022年には、コード決済の決済金額が初めて電子マネーを上回るという転換期を迎えたが、その潮流の中心にはPayPayがあった。自治体との連携は、地域経済の活性化という大義名分を伴っていたため、保守的な地方都市においても受け入れられる土壌となった。
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●年間で約50回のアップデート 画期的だった「オフライン支払モード」
プロダクトの開発力も、地方のみならずPayPayの成長や利用促進の後押しになっている。「エンジニアの約8割が外国籍のメンバーで構成されており、日本とインドを拠点に24時間に近い体制で開発が進行している」。年間で約50回、つまりほぼ毎週のようにアップデートを繰り返し、ユーザーからの要望や不満を即座に機能へと反映させている。
その成果の1つが、2023年7月に提供を始めた「オフライン支払いモード」だ。これまでのコード決済には、電波がない場所では使えないという致命的な弱点があった。しかし、この機能の登場により、地下街や大規模な通信障害時、さらには災害時でも、一定の条件下で決済を継続することが可能となった。実際に能登半島地震が発生した際にも、この機能が被災地での生活を支える決済インフラとして機能したという実績がある。テクノロジーによって物理的な制約を克服しようとする姿勢が、PayPayの信頼性を支えている。
●スマホ教室などで使い方のレクチャーも
PayPayは、加盟店がサービスを導入した後のサポートも怠らない。といっても、PayPay自らが常に店舗網を活用して、対面サポートを実施しているわけではないが、PayPayは「キャンペーンが開始されるタイミングなどに合わせて、市役所や地域の大型スーパー、ソフトバンクショップ内でのスマホ教室などで使い方のレクチャーを実施している」。こうした顔の見えるサポートを継続することも、PayPay普及の鍵になっているのかもしれない。
このように、PayPayはサービス開始後の大規模キャンペーンに始まり、送金やオフライン決済などの機能にいち早く着手したこと、何度も足を運んで丁寧な説明を繰り返す営業姿勢、対面での説明といったさまざまな要因が複合的に積み重なり、「日本の多くの場所でPayPayが使える」と実感できるようになったのだろう。
PayPayやPayPayカードで買い物ができるお店やスポットは1000万カ所以上に及ぶ。都心のスーパーマーケットやカフェから、地方のひなびた温泉宿、そして静寂な森の中にたたずむ神社まで、PayPayが当たり前のように存在するのも納得だ。
●地域経済の活性化とキャッシュレス化を推進する
PayPayは地方における「現金からキャッシュレスへ」の移行を、今後どのように加速させていくのか? PayPay広報は、まず自治体の給付金事業におけるデジタル化を強力に推進する。現金支給に代わり、域内消費を直接促す「PayPay商品券」の活用を全国へ広げていく方針だ。
本人確認済みのユーザーは3800万人を突破しており(※2025年11月時点)、紙の商品券になじみのある高齢層もデジタル施策へ円滑に移行できているという。また、Alipay+などの連携によるインバウンド需要の取り込みをフックに加盟店開拓を強化し、観光客と地元住民双方の利便性を高めることで、地域経済の活性化とキャッシュレス化を一段と加速させていく考えだ。
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