挿絵/小指―[すこしドラマになってくれ〜いつだってアウェイな東京の歩き方]―
ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。サウナが苦手な著者が訪れたのは蒲田駅にある『カプセルイン蒲田』。2025年10月閉店直前に訪れた老舗店での願いは、今日も「すこしドラマになってくれ」
◆ロウリュ☆レポート【蒲田駅・カプセルイン蒲田(前編)】vol.23
サウナに苦手意識がある。オラオラした男たちによる我慢くらべ大会に見える。
とくに交互浴という、灼熱のサウナと極寒の水風呂を行き来するライトな自殺行為みたいな入浴方法に疑問がある。
友人に誘われて試したことがあるが、明確に寿命が縮む感覚があり、こんなのは絶対にダメ!と思った横で友人は「ととのったァ」などと言っていたことから、臨死体験がクセになっている人の戯れごとと思うようになった。
「大田区にもうすぐ閉店してしまうカプセルホテルがあるんです。サウナも付いているので、よかったら行ってみてください」
担当編集が寂しげに言った。9月の初旬のことだった。
狭くて周りのイビキがうるさいと聞くカプセルホテル宿泊に、苦手なサウナまで付いてくる。大人のアンハッピーセットである。
平日夕方、蒲田駅から歩いてすぐのところにある「カプセルイン蒲田」にチェックインした。受付が想像よりずっと広く、少し古めのスーパー銭湯のような懐かしい空気がある。
指定されたカプセルに向かい、備え付けのロッカーで館内着に着替えると、早速サウナ付きの大浴場「ガーデンサウナ蒲田」に向かう。数年ぶりの臨死、違った、サウナ体験の幕開けである。
「とくに最近は、ロウリュが流行っています。よければ経験してみてください」
シャワーで体を洗い終えたあと、担当編集の言葉を思い出し、ロウリュなるものが体験できるサウナルームに入室した。モワァッと届く熱気に包まれ、早くも苦しい。室内にはキン肉マンに出てきそうなマッチョな男性と、学生と思われるシュッとした兄ちゃん2人組がいた。平日だし空いているな、と思ったが、私が座った途端、男たちがオラオラと現れて、総勢10人の裸の集団があっという間に完成した。まさか新手のフラッシュモブ!? 不審に思いながら壁に書かれたお知らせを読むと、「ロウリュは15分おきでです」と書かれている。
なーんだ、ロウリュしていい時間が近づいてきたから、みんな集まってきたのか。ところでロウリュって何?と続きを読むと、熱された石に水をかけて、その蒸気で室内の温度をさらに上げる必殺技のようなものらしい。みんな、そんなに早く死にたい?
壁に砂時計が掛かっている。砂はもうすぐ落ち切ろうとしていて、それが15分を表しているらしい。この部屋のロウリュはセルフらしく、誰かが石に水をかける必要がある。男は10人。そのほとんどがロウリュを楽しみに入室してきたわけだから、ここは一つ、先輩方のお手並み拝見といこうじゃないかと、砂時計を睨んだ。
さあ、砂が落ちたぞ。いよいよロウリュが始まるぞ。
私は結婚式の余興を待つ気分で(つまり大して期待していない)座した。大量の汗が流れ、それでも座した。
しかし、どうしたことだろう。砂時計は確かに全て落ち切ったのに、男たちは「まだ、残ってますけど」みたいな顔をして、立ち上がらないのである。
あんなにオラオラした顔で入ってきたくせに!
それから3分ほどたち、それでも動かない男たちを情けなく思い、腹が立ち、いよいよ私は立ち上がったのである。
「かけて、いいですか?」
どうして初めての私がこんなAV男優みたいな質問をしなきゃならんのですか?
男たちは「うす」「おねしゃす」と力士みたいな返事だけして、頭を下げた。私は高熱の蒸気を体に浴びながら、もうぜってーロウリュやらねーと思ったのだった。食事だけを楽しみに、後編へと進む。
<文/カツセマサヒコ 挿絵/小指>
―[すこしドラマになってくれ〜いつだってアウェイな東京の歩き方]―
【カツセマサヒコ】
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」