狩猟解禁日に警察に呼び止められ……応じた先にはなぜか犬に噛まれ瀕死の鹿/東出昌大

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2026年01月31日 16:00  日刊SPA!

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東出昌大
―[誰が為にか書く〜北関東の山の上から〜]―
都市部の生活に疲れ、人間らしい暮らしをしたい人の地方への関心が高まっている。そんななか猟師免許を持ち、北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をし「山の中で楽しく遊んで暮らしているだけ」と話す東出昌大のもとには、山の生活に憧れ、彼の生き方に共感した仲間が集まる。ここでは、東出昌大の都市部で普通に生活しているとなかなか経験できない実体験を綴ったSPA!の人気連載を公開。今回は狩猟解禁日について。猟師にとって待ちに待った日。いったい何が起きるのか(以下、東出昌大氏による寄稿)

 ’24年の狩猟解禁日のこと。この日は日常的には駆除を行わない全国の猟師が1年間待ちに待った狩猟の解禁日の為、山の至る所で銃声がする。と言ったら大袈裟なようだが、実際この日にグループを組んで山を囲む巻狩りも多く行われるし、都市部に住む単独忍びを専門とした週末猟師もわざわざ有給休暇を取って山に入ることも多い。

 その為、山の峠の辻々には地元猟友会の役員や地域警察の方々などが暗い内から集合し、山奥を行き交う猟師の車両を止めては「安全狩猟を心がけて下さい」などと注意喚起をする光景もよく目にする。私も奥山に熊を探しに行き、昼過ぎまで歩いて獲れず、結局山の入り口に止めた軽トラに乗り込んで、道幅の広い県道を自宅に向かって下っていた時のことである。

 長い下り坂の数百メートル先、対向車線にパトカーが来た。パトカーを見ると一瞬身を硬くする私だが、シートベルトも締めてるし、鉄砲は弾も抜いているしカバーもかけてある。

 けど「大丈夫だよな? 何もシクってないよな?」などと考えながらも表情には出さないままパトカーとすれ違い、フゥと胸を撫で下ろしたのも束の間、パトカーが赤灯をつけてUターンしてきた。

「そら来たっ!」と何故か一瞬ワクワクしたが、運転席に座る私は狩猟用のオレンジベストを着てたから、その姿を見咎めて「安全狩猟を〜」なんて声がけをなさるのだろう。と思い、私も減速してハザードを焚き、路肩に車を止めて運転席を降り、こちらに迫るパトカーに向き直った。

 ふと、右手の視界で何か動いた。「ギョエェ……」

 何だと思いスッと視線を向けると、うずくまった鹿に犬が噛み付いている。え?と思った次の瞬間、鹿がビョエェェェッ!と鳴いた。その光景の異様さに息を呑んだ。普段、山の緑の多いところにポツネンといるはずの鹿が、綺麗に整備された県道の歩道の上、和犬に噛まれて断末魔のような声を上げている。そこにパトカーが止まって、降りてきた警官が私に声をかけた。

「この鹿、なんとかできますか!?」

 鹿を見れば後ろ脚からお尻にかけての近辺は皮がめくれ、肉が見え、骨も覗いている。この後ろ脚では立ち上がることすらできまい。胸からスッとナイフを抜いて、哭(な)き叫ぶ鹿の耳を掴み、胸に刃を突き立てた。アスファルトに流れた大量の血は、山中で見るそれとは違い露悪的に感じた。

 鹿が止まったのを確認し、興奮した犬の首輪に手持ちのロープを結び、これ以上鹿の亡骸を噛めないようにポールにくくる。

「これどうしたんですか?」

 警察官に聞くと「分からないんです。けど、近くの旅館から、犬が鹿を噛んでいるからどうにかしてくれって通報があって」。

 犬の首輪にはGPSの発信機が付いており、鹿の甚大なこの怪我も銃創を犬が噛んで広げたものだと分かった。

「きっとこの裏の山で巻狩りしてるグループが半矢にした鹿が犬に追われて道路まで出て来たんだと思います。犬の位置は猟師が分かっているはずなので、間もなく誰かが迎えに来ると思います」

「ありがとうございます」

 警察官に別れを告げて、軽トラに乗り込み走り出した。ふと、今まで手を下した殺しの中で断トツで心の負担を感じていないことに気が付いた。

 殺しってなんだろう?

<文/東出昌大>

―[誰が為にか書く〜北関東の山の上から〜]―

【東出昌大】
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている

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