
1月30日に、公正取引委員会主催の第2回デジタル競争グローバルフォーラムが開催された。朝10時から6時間、基調講演のあとにパネルディスカッションが3部あるという長丁場である。筆者はオンラインで参加した。
1回目はちょうど1年前で、日本においては「スマホソフトウェア競争促進法」が全面施行されるにあたり、先行するEUやイギリス、オーストラリアの事例を交えながら、国際協力の重要性が確認された。
2回目となる今回も、基本的にはIT企業に対する政府介入と国際協力のあり方を考えるものとなっている。
IT企業はグローバルにビジネスを展開することで利益を上げているが、各地域や国ごとにルールが違えばグローバルビジネスの旨味がなくなる。これは大企業なら莫大なリソースを投入して押し切れるが、中小企業ではそこが死活問題となり得る。よって各地域や各国は、公平性の観点からもルールをできるだけ共通化していくことが大きな課題になっている。ただそこが一番考え方やアプローチが異なるところである。
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2回目のテーマとしては、新たにAIイノベーションに対する内容が加わった。今回はおもに「未来に適合する競争政策」と題したパネルディスカッション3の内容を中心に、米Apple、米Google、米Microsoft、米OpenAIの担当者が、拡大するAI市場と予定される規制に対して何を語ったのかを整理してみた。
●Appleの主張
Appleの担当者として登壇したショーン・ディロン氏は競争法・規制統括シニアディレクターとして、日本のスマホ新法策定に対し公正取引委員会と交渉を続けてきた人物である。
AppleはAIに関しては後手に回っており、AI市場に対する具体的な言及は少ないが、法規制とイノベーションの関係性について示唆に富む発言をしている。
同氏は欧州デジタル市場法(DMA)に関しては、意図しない結果を生んでいると批判する。政府がエンジニアに代わって、ボタンの配置やOSの構築方法といった製品設計の判断を下しており、企業はイノベーションに用いるべきリソースを複雑な規制対応に費やしている。これは競争政策ではなく、「官僚主義」だと断じた。
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これにより、プライバシー保護の弱体化、プロダクトのパフォーマンス低下、セキュリティリスクの増大といった悪影響が生じている。具体例として、macOSからiPhoneを直接表示・操作する「iPhone Mirroring」のような連携機能は、DMA対応を理由としてEU域内での提供が見送られている。
一方で日本のスマホ新法に対しては、日本がDMAの運用を慎重に観察し、より現実的で段階的なアプローチを採用していると評価した。特に
・セキュリティ、プライバシー、安全性を競争の一側面として明確に位置付けている点
・知的財産権を保護している点
・イノベーションは無料ではないという現実を認めている点
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の3点を評価している。
また今後の政府の役割として、競争法を用いて異なるプラットフォームを画一化させること(iPhoneのAndroid化)は一見「公平」に見えるが、実際には製品間の「差別化」を阻害し、プライバシーやセキュリティを犠牲にする可能性があると警告した。デジタル市場における競争は、価格やアクセスだけでなく、プライバシー、セキュリティ、安全性、ユーザーの信頼といった多面的な要素を含む。政府が市場の勝者や敗者を決定すべきではなく、特にAIのような新技術の提供方法や製品設計に介入すべきではないと提言した。
話の核心を要約すると、DMAでの失敗に学べという話である。理想的な競争法とは、柔軟性があることや消費者の利益に適うものであること、さらには技術的に中立であることを目指すべきである。IT・AI関連大手は米国に集中しているが、米国企業は概ねEUのDMAは失敗であるとの認識を示している。
●Googleの主張
Googleを代表してスピーチを行ったのは、アジア太平洋地域 法規制政策 統括のフェリシティ・デイ氏である。
デイ氏は、良好な競争政策の3つの原則を提示した。
1. エビデンスに基づく実証的分析
AIのようなダイナミックな市場における競争政策は、エビデンスに基づいた分析によって導かれるべきであるとした。まずAI市場には常に多くの競争と新規参入が存在し、競争はいわゆるビッグテック同士に限られないという事実を挙げた。
またこの競争が顕著なイノベーションを促進しているという事実を挙げた。事例として、Google DeepMindの「AlphaFold」が医療研究を加速させ、社会課題の解決に貢献していることを挙げた。AlphaFold(アルファフォールド)は、タンパク質の構造予測を実行するAIプログラムである。
加えて競争がコストを引き下げているという事実を挙げた。事例として、AIモデルのトレーニングコストが2020年以降、年平均で70%減少していることを示した。
2. 競争法の境界
競争政策を議論する際、その目的(消費生活の向上など)を明確にし、知的財産や国家安全保障といった他の政治課題と混同しないことが重要だとした。その一例として、AIの学習におけるコンテンツ対価の問題は競争法ではなく、知的財産の課題として捉えるべきだと述べた。
3. 消費者の利益を損なわない規制設計
規制は特定された「損害」に対して実行されるべきで、その過程で消費者の「便益」を阻害してはならないと主張した。この点では、日本のスマホ新法がユーザーの利便性を損なうことなく、コンプライアンスを可能にするセーフガードを含んでいる点を評価した。
またAIが安全かつ公平に発展するために、どのような競争法が望ましいかという問いに対しては、AIへの責任あるコミットメントは社会的責任であると同時に、ユーザーの安全保護は基本であり、ユーザーの信頼を得て競争力を維持するための商業的な必須要素でもあると強調した。
加えて競争法の基本は、個々の競争当事者を守ることではなく、「競争のプロセス」そのものを保護することであるとした。例えば特定の製品の採用率が低いという事実は、単に需要がなかった結果かもしれず、それが直ちに競争政策の失敗を意味するわけではないとした。
●OpenAIの主張
OpenAI 最高経済政策オフィサーのアダム・コーエン氏は、AI市場の将来像は直接予測することは困難であるため、分析的アプローチを取るべきと主張している。
まずは10年後の理想的な市場のあり方として、多数のプレイヤーが存在し、活発な新規参入、あるいは撤退があることを定義し、そこから逆算して現在何が必要かを考える施策のあり方を提案した。
過去のテクノロジーの事例から、未来の競争を左右する重要な要素として、以下の2点を挙げた。
1. インプットへのアクセス
モデルの学習に不可欠なチップ、データセンター、データ、電力などへのアクセス。
2. 流通チャネル
製品が消費者に届くまでのプラットフォーム、仲介者の有無、料金体系などのルール。
よってAI分野の競争政策は、上記2点にフォーカスすべきだとする。日本の行政は建設的に企業と協力するアプローチを取っていると評価するが、今後もDMAやスマホ新法から得られるエビデンスを、次世代のルールづくりに生かすことが重要だとする。
すなわち、10年後のルールを今定義するのではなく、将来の競争を阻害しうる「障壁」は何かを、エビデンスに基づいて分析する。特に競争を促進する視点を持つこと、そして市場が効果的に開放され、企業も消費者も自由に選択できる環境を確保することが求められると提言した。
要するに、技術進化の早いAI市場に対して、今から規制を行えば硬直化したルールになってしまう、もっと分析を回して介入するタイミングが来たらスピード感を持ってやるべき、ということである。
●Microsoftの主張
MicrosoftはAppleらが参加するディスカッション3ではなく、「プラットフォーム型経済において中小事業者がいかに成長するか」をテーマにしたディスカッション2に登壇した。このため発言の趣旨は法規制ではなく、中小企業への支援策に集中しているが、AIプラットフォーマとしての立ち位置を解説しており、参考になる。登壇したのはアジア地区 競争政策・市場規制責任者のジョイ・フユノ氏である。
AIの技術スタックは、クラウドと同様に階層構造を持っているという。
・最下層(インプット):電力、コネクティビティ、チップなど。これらがデータセンターに集約される。
・中間層(計算資源・基盤モデル):データセンターが計算資源を提供し、それを基に基盤モデルが開発される。この基盤モデル層がプラットフォームレイヤーに相当する。クラウドサービスもこの層で計算資源を提供する役割を担う。
・最上層(アプリケーション・ツール):ユーザーが直接触れるアプリケーションやツール群。
この階層構造を「内向きのピラミッド」と表現し、最上層であるアプリケーションとツールの開発が今後さらに拡散・拡大していくとの見通しを示した。このエコシステム全体の健全性を評価することが重要であり、そのためには各レイヤー、特に中間層であるプラットフォームプロバイダーには、上位レイヤーにおけるイノベーションと競争を促進する責任がある。これは自社の成功だけでなく、エコシステムに参加する他社の成功にも目を向ける義務があるとする。
MicrosoftはクラウドAIプラットフォームプロバイダーとしての役割を認識し、2年前に発行した「AIアクセス原則」について言及した。これは製品設計や事業運営のガイドラインとして機能する。
この原則は、主に3つの領域に焦点を当てている。
原則1:AIデベロッパーへのアクセスとサポートの提供
イノベーションと競争を促進するため、プラットフォーム、ツール、サービスを広範に利用可能にする。
原則2:AIエコノミーにおける選択と公平性の提供
AIモデルに対するパブリックAPIを提供し、Azure上だけでなく、他の環境からもアクセスできるようにする。
原則3:社会的責任の遂行
サイバーセキュリティ、責任あるAI、スキリング(人材育成)、サステナビリティの分野に注力する。
これらのアクセス原則は、データポータビリティ等を確保するために、Microsoftが数十年前から取り組んできた相互運用性の原則の延長線上にあると説明した。
●素早い介入に必要なもの
さて、ここまでの話を総括すると、EUのDMAや日本のスマホ新法は、米国ビッグテックに対して競争法を適用することで、中小企業を含めた競争を促進するためのルールであった。だがAIにおける競争はビッグテックだけのものではなく、中小企業やスタートアップにもチャンスがある。このため政府による市場介入は、ビッグテックそのものを規制して中小企業を保護するのではなく、競争市場そのものを保護するべき、という主張である。
ただMicrosoftの解説にもあるように、AI技術のうち最下層と中間層はビッグテックが握っているのも事実だ。よってビッグテック自身も、中小企業やスタートアップに対して公平にリソースを使用させる義務を負うという考え方は妥当である。
とはいえ、こうした義務が履行されない場合には、速やかな政治的介入は必要だろう。AIサービス成長のスピード感からすれば、介入に数カ月を要しただけでチャンスを失う企業も多く出てくる。
こうした素早い介入を実現するには、常時専門職員による市場の監視・分析が欠かせない。また分析結果も一国で閉じるのではなく、企業や規制当局、学会など多くの視点が世界レベルで共有されるべきだろう。
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