
韓国発のスタートアップで、シニア向けやキッズ向けのスマホを手掛けるALT(アルト)が、日本に上陸する。第1弾として、2月19日にはテンキー搭載型のスマホとなる「MIVEケースマ」を発売する。ケースマは、オープンマーケットモデルとして家電量販店を中心に展開するが、イオンモバイルやJ:COM MOBILEといったシェア上位の大手MVNOも取り扱いを決めた。
Appleとサムスンがシェアを二分している韓国で同社が伸びているのは、ボリュームのあるニッチ市場を狙っている戦略が当たっているからだという。超大手の2社が攻めない市場を取ることで、販売数を伸ばしている。日本ではローカライズを徹底しつつ、この戦略を踏襲する。では、なぜこのタイミングで日本参入を決めたのか。そこには同社の拡大戦略と、日本ならではの事情があった。
●上場を機に拡大戦略を加速、最初の海外としての日本市場
iPhoneが約半数を占め、残りを複数のAndroidスマホメーカーで競う日本市場とは異なり、韓国市場ではAppleとサムスンが“二強”として君臨する。LGエレクトロニクスやパンテックといったメーカーはスマホから撤退しており、海外メーカーのシェアもごくわずかだ。そんな韓国市場で、シニア向けやキッズ向けのスマホを手掛け、徐々に販売を伸ばしているのがALTだ。
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同社は、2017年に設立されたスタートアップ。そのCEOを務める李尚洙(イ・サンス)氏は、LGでキャリアをスタートした後、サムスン電子やパンテックなどのメーカーや、SKテレコムといったキャリアを渡り歩いてきた。同氏は、パンテック在籍時代、KDDIとも端末を開発したいわばベテラン。そんなイ氏がスマホの分野として目をつけたのが、シニア向けやキッズ向けといったニッチ市場だ。
韓国では「シニアとキッズを中心に、セグメント市場に向けた戦略製品をそろえている」(李氏)という。シニア向けは、テンキーやSOSボタンを搭載。キッズ向けは、ポケモンやサンリオとのコラボで、キャラクターを打ち出した端末を展開する。これまでに販売した携帯電話端末は150万台。グローバル展開するスマホと比べると規模は小さいものの、韓国では3大キャリアに採用されるなど、着実に規模を拡大している。
こうした実績が評価され、ALTは韓国の新興企業向け市場であるKOSDAQに上場した。次の一手として同社が狙っているのが、海外進出だ。人口が約5000万人の韓国は、日本に比べて国内需要が小さいこともあり、規模を拡大する際に海外へ打って出るのが一般的。イ氏が在籍してきた3メーカーも、同様の戦略でグローバルに展開している(いた)。
ALTも、日本を皮切りに米国への展開を予定しているという。最初の海外展開が日本になったのは、市場特性の近さに着目したからだという。李氏は、「韓国と日本はお客さまの習慣が似ている」と語る。確かに、販売においてキャリアの力が比較的強く、シニア向けやキッズ向けといった特定のセグメントに特化した端末が比較的流通しているという点で、韓国と日本には類似性がある。「メインの市場はAppleが占めている」(同)という点も、市場の共通性といえる。
ニッチ市場向けの端末を作り込むことができ、かつキャリアとの取引も多い点は、ALTの強みになる。第1弾のケースマはオープンマーケットモデルだが、大手キャリア市場への参入意欲も高い。ALTの日本法人でCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)を務める金希哲(キム・ヒチョル)氏も、「海外メーカーが進出してすぐにお付き合いできないのは重々承知しているが、引き続きお話を伺いながら、機会を見つけていきたい」と話す。
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●3G停波も見越してケースマから投入、フル機能使えるAndroidとして差別化を図る
この時期にALTが日本市場に参入したもう1つの理由が、ドコモの3G停波だ。現状では、4G以降の端末への移行は進んでいるものの、依然として50万程度の契約者が3Gケータイや3Gスマホにとどまっている。ドコモ自身が一部端末の大幅な割引を提案している他、競合のKDDIやソフトバンクもドコモからの乗り換えを獲得すべく、3GケータイからのMNPに絞った割引を強化している。
3Gが停波する3月末に向け、流動性が高まっているといえる状況だ。ALTの日本参入は、この獲得合戦に間に合うことも意識したという。金氏によると、「3G停波の件は重々承知しており、正直なところ、もう少し早く発売したかった」という。乗り換えが活発化することを想定し、開発を進めた結果、何とか停波の前に発売できたというわけだ。
また、「3G停波後も4Gケータイを使っている方がかなりいるので、そういった方がケースマに乗り換えていただければいいと思っている」(同)とする。ケータイユーザーをターゲットに設定する上で、より料金が安いMVNOとタッグを組んだのは正解といえる。イオンモバイルのように幅広い層が訪れる店舗を持つ事業者であれば、買い替えも促しやすくなる。
一方で、日本にはFCNTや京セラなど、既にシニア向けやキッズ向けの製品を手掛けているメーカーも存在する。海外メーカーでは、ZTEもキャリアの求める端末をODMに徹して開発することで有名だ。李氏が「2年かけて市場調査をしてきた」と語っていただけに、ALT側も当然、そのような状況は熟知している。日本でLGやソフトバンクに勤務してきた金氏も、「FCNTや京セラが何十年もやってきている」と語る。
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ただ、「それでも日本にはまだガラケー(旧来型の携帯電話)を使っているユーザーがいる」(同)のも事実。こうした端末では、LINEやPayPayといった生活に密着したサービスも利用できない。また、シニア向けのスマホはいずれもキーボード非搭載だ。「その中にも、もしかしたらLINEが使いたい方がいるかもしれない」(同)――そんなニーズに応えられる端末のバリエーションは、非常に少ない。ALTがケースマで狙うのは、その市場だ。
「キャリアに聞くと、何としてもガラケーがいいという方がいて、らくらくスマホや低価格の一般的なスマホでアプローチしても、なかなか変えていただけない。一方で、100万(以上)のガラケーユーザーがいるので、スマホに乗り換える1つのきっかけ、プラスワンの選択肢として提供したい」(同)
●日本市場向けに文字入力をカスタマイズ、キッズ向けの展開もあるか
実際、ケースマはテンキーを備えているものの、OSにはAndroid Go Editionを採用しており、タッチパネルでの操作も行える。GoogleのCTS(互換性テストスイート)も通しているため、Google Playを通じたアプリのインストールが可能な他、YouTubeやGoogleマップといったGoogle純正アプリも内蔵する。
日本市場には日本特有のニーズもある。基本機能として最大の違いになるのが、文字入力だ。スマホの場合、ソフトウェアキーボードをインストールすれば違いは簡単に吸収できるが、ケースマのような端末ではキーボードとの連動が必要になってくる。そこで、ALTはiWnnを開発するオムロンデジタルと協力。物理キー前提のユーザーインタフェースや、タッチと両立させるアルゴリズムを取り入れて、快適な日本語入力を実現した。
日本語入力の導入に注力したALTだが、おサイフケータイなど、よりハードウェアへの変更が大きくなるカスタマイズは見送られている。投入にあたっては対応も検討していたというが、「スケジュールの都合やコストの都合、ターゲット属性を考え、非搭載にした」(金氏)という。ハードウェアの開発も必要になるため、コストをどう吸収するかは大きな課題だが、次回以降の対応には期待したいところだ。
第1弾は3G停波もあり、「シニアを先に出した方がいいと判断した」(李氏)ため、ケースマが投入されることになったが、キッズ向けスマホの導入も検討しているようだ。日本で販売されている「キッズケータイ」のような子ども向け端末は、Androidベースながらスマホとしての機能は削がれている。かつては、そのスマホ版のような端末も投入されていたが、現在では、各社のラインアップからその姿を消してしまった。
MVNOでは、トーンモバイルのように子ども向けスマホを投入する会社もあったが、現在は独自の製品販売をやめ、端末の上で動くソリューションに一本化している。ケータイを卒業した子どもは大人と同じスマホを欲しがる傾向があり、子どもに特化したスマホのニーズ自体が消滅したという見方もできる。ただ、ALTの端末はキャラクターとのコラボはあるものの、機能自体は一般的なスマホに近く、価格も安い。
ケータイでは不十分だが、一般的なスマホは高すぎる上に大きく、見守りの設定がやや不足している……そんなニーズを捉えることができれば、韓国と同様、キッズ用スマホを投入する余地があるかもしれない。李氏も「(キッズ向けの端末は)韓国はAOSP(AndroidベースでカスタマイズしたOS)からAndroidに変化している」と語ったが、日本市場でもそれを先取りするというのがALTの考えだ。
しかもそこで採用しているキャラクターは、日本発のもの。ターゲットにしている小学生からも人気が高い。日本で空白地帯になっていた、キッズ向けスマホの需要を再び掘り起こすことができれば、ビジネスチャンスはありそうだ。
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