日大三高の野球部グラウンド 写真/産経新聞社全国屈指の強豪として知られる日本大学第三高校野球部で発覚した、わいせつ動画拡散事件。女子生徒(15)に動画を送らせ、部内の数十人に広がっていたという構図に衝撃が広がっている。
さらに新たに、拡散の一部が学校から配布された学習用タブレット端末を使って行われていた疑いが浮上した。私的スマホではなく、学校貸与端末での拡散――問題は個人の逸脱にとどまらない様相を帯びている。
しかし法的に見れば、これは単なる「いじめ」や「軽率な行為」では済まされない。18歳未満のわいせつ画像は児童ポルノにあたり、撮影させた行為は「製造」、拡散は「提供」、保存しただけでも「所持」に該当する可能性がある。加害者が未成年でも、14歳以上であれば刑事責任を問われ得る。
強豪校の不祥事という側面を超え、SNS時代の“デジタル性犯罪”として、この事件をどう見るべきか――弁護士に法的責任の重さを聞いた。
◆「カップルでも違法」未成年同士でも成立する児童ポルノ罪
今回問題となっているのは、児童買春・児童ポルノ禁止法である。同法では、18歳未満の者のわいせつな姿態を撮影・記録した画像や動画を「児童ポルノ」と定義しており、被写体が未成年であれば、加害者が未成年であっても適用対象となる。
「画像や動画を撮影させる行為は同法7条1項の『製造』に、他者に動画を共有する行為は『提供』に該当します。また、動画を受け取っただけでも、主体的に送信を指示していた場合は『製造』や『提供』の共犯として処罰されます。加えて、単純に性的目的で所持している場合は『所持』に該当し、違法です」
そう語るのはアディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士。仮にカップル同士で撮影していた場合でも、被写体が18歳未満である限り原則として処罰対象だ。男女関係や親密性は、犯罪成立の判断には影響しない。日本の刑法では14歳未満は刑事責任を負わないが、14歳以上であれば未成年であっても刑事責任能力が認められる。
「今回のケースのように高校生が加害者であれば、大人と同様に犯罪の成立が判断されます」と南澤弁護士は強調する。
◆撮らせた者も、回した者も、保存した者も処罰対象に
撮影を行った者は明らかに主犯だが、送信を要求した者や拡散の中心となった者も、「製造」や「提供」の主体として重い責任を問われる可能性がある。グループLINEなどで動画を転送した場合も「提供」とみなされ、受け取った者は「所持」に該当する。
一方で、SNS上で意図せず動画を目にしてしまうケースもあるだろう。
「X上でタイムラインに表示され、偶然ポルノを目にしてしまうようなケースでは、意図せず動画を目にしただけの場合、通常犯罪は成立しません。しかし、性的目的で動画を保存した場合は『所持』、第三者に共有した場合は『提供・送信』となり、児童ポルノ禁止法違反にあたります」
「自分はただ受け取っただけ」という感覚は危険だ。スクリーンショットを撮れば“所持”。グループLINEで回せば“提供”。数十人に広がったという事実は、その大半が法的リスクを抱えていることを意味する。
◆少年事件として扱われる可能性が高いが進学・就職への影響は免れず
加害者が未成年の場合、事件は原則として少年事件として扱われる。警察の捜査後、検察官を経て家庭裁判所に送致され、審判で保護観察や少年院送致などの保護処分が検討される。
「死亡事件など重大事件では『逆送』と呼ばれる手続きで検察官に送致され、通常の刑事裁判に移行することがあります。しかし、営利目的のない児童ポルノ事案で、初犯に近い高校生の場合は、直ちに逆送や起訴に至る可能性は低いと考えられます」と南澤弁護士は話す。
少年事件で保護処分となった場合、前科はつかないが、非行歴として一定の記録は残る。
「今回のケースでは、高校名や部活名が特定されていることから、進学先・就職先に事情が伝わってしまうこともあるでしょう。推薦入学や内定が取消になることは想定され、部員への将来的な不利益は少なくないと思います」
◆学校の法的責任と大会出場停止措置
今回の事件に関する学校側や指導者の責任についても気になるところだ。南澤弁護士によれば、法的責任という点では、学校がいじめや違法行為を予見できたのに放置した場合、安全配慮義務違反が問題となる可能性がある。
「今回のケースでは、部員間で動画の共有・拡散が行われたとのことで、なぜ誰も止めなかったのか、教育に問題があったのではないかという学校への非難は免れません」
ただし、今回のトラブルはSNSで発生しており、被害者と加害者が実社会で関わりがあったのかは不明だ。また、あらゆるSNS上のやりとりを学校が監視するのは非現実的である。
「これらの事情から、法律上は、学校側の直接の監督責任が認められるハードルは高いように感じます」と南澤弁護士は指摘する。
一方、部活の大会出場停止に関しては、法的責任とは別に、主催団体の規定に基づく「懲戒・行政的措置」として行われる。昨年には広陵高校において暴行問題が発覚し、途中辞退を余儀なくされるなど、不祥事があった高校に対する世間・スポンサーの風当たりは非常に厳しい。
「明確な法的基準があるわけではないですが、部員の多数が関わる刑事事件が起きてしまった以上、大会に継続参加することは難しいのではないでしょうか」
◆一度拡散すれば“半永久的に残る”——デジタル性犯罪の残酷な現実
被害者側の救済としては、動画の削除に関して、プラットフォームへの削除申請や発信者情報開示請求などが考えられる。しかし、インターネット上に一度拡散したデータを完全に消去することは極めて困難だ。
「海外のポルノサイトに無断転載されてしまうリスクがありますし、最近の流行として、無断転載した性的動画を餌にして、マッチングアプリ・アダルトサイトへの誘導を行う悪質な例も目にします。匿名性の高いSNSでは、拡散・転載されたあらゆる動画を削除請求することは非現実的ですし、警察が網羅的に検挙することも難しいのが実情です」
南澤弁護士は「デジタル性犯罪」の怖さについて、一度流出してしまった動画を誰にもコントロールできなくなってしまう点だと指摘する。AIによる動画の加工・編集が容易になったことで、動画の拡散が促進され、この恐怖はより大きくなっているという。
一方、加害者本人やその保護者に対する損害賠償請求については、現実的な救済手段として可能だ。警察での捜査を受けており、被害の立証は容易だろう。
「今回のような、不特定多数に送信されてしまったという事情からすれば、過去の判例上は100万円前後が慰謝料相場と想定されます。ただ、被害者が一生の傷を負うことに比べると、十分な金額であるかは疑問です」
このように、被害救済が十分とはいえない状況からすれば、そもそも被害者にならないこと、撮らない・撮らせないことが極めて重要だと南澤弁護士は強調する。
◆SNS時代の性犯罪予防——教育の重要性
近年、未成年による動画を用いたいじめや性被害が相次いでいる。この背景には、TikTokやBeRealなど、動画を媒介とするSNSの流行によって子どもたちの抵抗感が低くなっている点が大きい。また、アダルトビジネスが蔓延し、至るところに性的な広告が氾濫していることで、子供たちが性的刺激の強い環境に置かれていることも無視できない。
「性的な話題はタブーにされがちですが、一度流出してしまった動画が誰にもコントロールできなくなってしまうということ、運が悪ければポルノサイトで半永久的に晒し物にされてしまうことなど、動画撮影に伴うリスクを思春期のタイミングで正しく理解することが重要な時代だと感じます」と南澤弁護士は結論づけた。
今回の事件は、単なる高校野球の不祥事としてではなく、デジタル時代における性犯罪の新たな形として、社会全体で考えるべき問題を提起している。
<取材・文/日刊SPA!取材班>
【南澤毅吾】
アディーレ法律事務所。「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。