
<ミラノ・コルティナオリンピック(五輪):フィギュアスケート>◇男子フリー◇13日(日本時間14日)◇ミラノ・アイススケートアリーナ
22年北京五輪の銀メダリスト鍵山優真(22=オリエンタルバイオ/中京大)が2大会連続の銀メダルを獲得した。ジャンプの転倒があり、フリー176・99点の合計280・05点にとどまったものの、世界選手権2連覇中の王者イリア・マリニン(21=米国)がまさかの転倒連発。フリー15位の総合8位に沈んだため、SPを滑って銀メダルだった団体と合わせて日本最多4個目のメダルを手中に収めた。イタリアで演じた「トゥーランドット」には、並々ならない思いがこもっていた。
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「優真君、もしかしてけが?」。観客席がざわめいた。2025年10月19日。鍵山は西日本学生選手権、通称「西インカレ」に出場していた。フリーのみで競う大会。1番滑走でリンクに立ち、冒頭の4回転サルコーを降りた直後だった。ジャッジ席から見て左側のショートサイドで、表情をこわばらせて滑りを緩める。場内に緊張が走った。
だが、スタッフのもとへ小走りで向かう22歳の口元には、どこか照れたような笑みが浮かんでいた。滋賀・木下カンセーアイスアリーナに響いたオペラ「トゥーランドット」の名曲「誰も寝てはならぬ」は、一時中断。数分後、何事もなかったかのように止まった位置から滑り出し、最後まで演じ切った。
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20年以上の競技歴を持つ、あるコーチはこう明かす。「私は5歳の時に1度だけ、演技中に音楽を止めたことがありますが、それきりです」。競技人生で起きるかどうかの珍事。それが五輪イヤーの鍵山に降りかかった。理由はシンプルだった。「提出した音源が練習していたものと違っていたんです」。予備を提出して事なきを得たが、単なる不注意とは言い切れない背景があった。
ハプニングの裏側には、プログラムへの徹底した探求があった。06年トリノ大会で女子の荒川静香がフリーで使用し、同大会日本勢唯一の金メダルを獲得した名曲。誰もが知る旋律に、鍵山は「自分らしさ」を刻もうとしてきた。演技だけでなく音源にもこだわり抜き、編曲を担当する米国の作曲家クリストファー・ティン氏に直接依頼。自身の心情や会場の空気、観客の反応による音の響き方まで想定し、幾度も改良を重ねてきた。
「トゥーランドットを通して、感情を伝える表現にとても心を動かされた。聴くたびに『こういう緩急をつけるんだ』『自分も、そのエネルギーにどう応えようか』と、考えさせられる。毎日細部を調整しながら、物語の中のカラフになりきる意識で滑っています」
この大会までに音源のバージョンはすでに80超。冒頭のジャンプの後にボーカルが入る新仕様は、数日前に届いたばかりだった。それが思わぬ手違いを招いた。「同じものをただ繰り返すのではなく、良くも悪くも毎試合違った感情を乗せていろんな表情をしたい」。そう自ら熱く語った西インカレの囲み取材は、20分を超えていた。
細部にまで魂を注ぎ続けてきたプログラム。イタリアの氷上で、その旋律は歴史の1ページとなった。【勝部晃多】
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