
わいせつ目的の誘拐や不同意性交の罪で、懲役5年が確定した空軍兵長が所属していた嘉手納空軍基地
衆院選の選挙戦が佳境を迎えていた2月4日、広大な米軍基地を擁する沖縄ではあるニュースが新聞の見出しを飾った。
「少女暴行 懲役5年確定へ」。地元紙が報じたのは、2023年12月に発生した米兵による16歳未満の少女への性暴行事件で、わいせつ目的誘拐、不同意性交の罪に問われた嘉手納基地所属の米空軍兵長の被告(26)の上告を最高裁が棄却し、懲役5年の一審、二審判決が確定した―という一報だった。
【政府が隠蔽した米兵の性犯罪】
「米兵絡みの事件は多くの地元の関心事ですが、この事件が特に注目されたのは発覚の経緯にあります。米兵は事件の約3カ月後の24年3月に検察に起訴されましたが、事件が露呈したのは、それからさらに3カ月後の24年6月のこと。しかも、初公判の期日が公になって地元メディアが報じたことでようやく明るみに出たのです。検察の上部組織である法務省や外務省はこの件を把握していましたが、地元の沖縄県への通知はなく、通報体制の在り方が論議となりました」(地元メディア関係者)
さらに、事件発覚の直後に、別の米兵による性暴行事件が明るみに出たことも事態をより複雑にした。この事件も検察が在宅での捜査の末に起訴していたが、地元紙がスクープするまで地元自治体には周知されておらず、政府の対応に対する批判が集まった。
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最高裁が上告を棄却したため地裁の一審判決が確定した
これを受け、政府は24年7月、在日米軍関係者による性犯罪事案について、林芳正官房長官(当時)が「例外なく(地方自治体に)情報伝達する」との方針を表明。続いて米軍側も、「フォーラム」と称した米軍人による犯罪抑止に向けた日米の新たな協議体を発足させることを明らかにした。
【無理筋でも一貫して無罪を主張】
事件から2年あまり。最高裁の決定によって波紋を呼んだ事件にようやく区切りがついたわけだが、米兵が一審、二審とも「無罪」を主張したことで事件の公判ではまた別の問題点も浮き彫りにさせていた。
「米兵は公判で、少女が『18歳と言っていた』として年齢の『誤信』があったとした上で、性的行為への『合意があった』という主張を繰り返していました。しかし、二審の判決では、少女が事件当時、学校指定のジャージを着用し、見た目も身長も150センチに満たない幼い容姿だったことが指摘され、『若年の学生であることは明らか』として米兵側の供述の信用性が退けられています。
判決からも、米兵側が相当に無理筋な言い分を通そうとしていたことがわかります。一方で、米兵側の無罪主張で被害に遭った少女が証言台に立たざるを得ない状況を生じさせることにもなってしまいました。少女にかけられる心身の負担の重さが新たな問題として指摘されたのです」(同前)
一般的に刑事事件の公判では、初公判で検察側が示す起訴状の内容についての罪状認否が行われる。ここで被告側がその内容を認めれば公判の争点は量刑に、認めなければその罪の成否が争われることとなる。
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先の米兵は、ここで検察側が示した起訴内容を否認。少女への性的行為を認めつつ、「わいせつ目的誘拐」「不同意性交」の二つの罪名にかかる行為はしていない、として「無罪」を主張したわけだ。
基地内で休憩中の空軍兵(本文とは関係ありません)
米兵からすれば、刑事司法で「被告人」の立場に置かれた者として「当然の権利行使」ということにもなるのだが、公判で事件の内容が明らかになるにつれ、頑として主張を曲げない米兵の態度が「往生際が悪い」と捉えられ、県民からの反発をより強める結果となった側面もある。
ただ、前出の事件のケースのように、被告の法廷での主張や態度が県民世論を刺激するという事例は、米兵絡みの事件では、しばしば見られる光景でもあるのだ。
2024年5月、県内で女性の首を絞めるなどして性的暴行を加えたとして不同意性交致傷の罪で起訴され、25年6月に那覇地裁で懲役7年の判決を受けた米海兵隊員の男も無罪を主張。一審から無罪を主張し、現在、二審判決を待つ身だ。
元米兵の軍属が、2016年4月に県中部のうるま市で女性を暴行して殺害した事件でも、殺人、強姦致死などの罪に問われた軍属が、「殺すつもりはなかった」などと起訴事実の一部を否認し、二審まで争っている。
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【背景には日米の司法制度の違い?】
米兵絡みの複数の事件で弁護人を務めた経験のある弁護士は、「事件公判で米兵が起訴事実を否認しがちであるのは確かだ」とし、その背景をこう説明する。
「米兵が易々と罪を認めないのは、ある意味で米国の人権意識の高さを示す指標にもなっています。彼らは、推定無罪の原則や黙秘権についてよく理解している。一方で、被害者らの証言や被疑者の自白が重視される日本の刑事司法制度への理解は薄い。
また、米国のように、取り調べ時の弁護士の立ち会いが認められていないことへの不信感も根強く、取り調べ時から捜査機関への不信を募らせ、公判時にさらに態度を硬化させる、という傾向もあるように感じます」(ある弁護士)
こうした日米間の司法制度のギャップは、米兵が事件を起こした際に取りざたされる身柄の問題など、「日本側に不利な内容」との指摘がある日米地位協定の改定が進まない遠因として挙げられることもある。
いずれにしても、米軍基地が身近ではない日本本土ではほとんどみられない「文化の衝突」が容易に可視化されるのが、「基地の島」沖縄のリアルでもあるのだ。
文/安藤海南男 写真/PIXTA
