写真/時事通信社―[その判決に異議あり!]―
あおぞら銀行の行員が内部通報後に受けた懲戒・降格や長期の隔離配置を巡り、東京高裁は1月22日、隔離配置をパワハラと認定。不当な人事も無効として、慰謝料など約840万円の支払いを命じ1審の判断を覆した。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「あおぞら銀行内部通報者不当人事訴訟」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
◆内部告発者は見殺しにされる?
自分の直属の上司が、不適切な処理をもみ消していたら、どうすればいいのか?
今は多くの企業に内部通報窓口があり、「公益通報」という手段も用意されている。ただ、通報者は法律に守られている建前でも、リスキーであることに変わりはない。会社は「コンプライアンス遵守」を掲げつつも、現実には通報した社員より上司や組織を守ろうとするからだ。
通報者側からすると、味方がいるかもわからないまま会社全体を敵に回しかねない。だから大半の社員は見て見ぬふりをする。ところが正義感の強い社員が告発に踏み切り、返り討ちに遭うケースは後を絶たない。今回取り上げるあおぞら銀行の事件がそれだ。
チーフFPだった社員が公益通報したところ、約1か月後、「あなたは10個も問題点がある」などと会社から難クセをつけられ、懲戒処分や降格、嫌がらせの人事を受けた。
飛ばされた「部署」は8畳ほどの応接室。机と椅子とPCだけで、ゴミ箱すらない。そんな追い出し部屋で、誰でもできるリポート作成などを3年3か月もの間やらされた。
要するに、仕事を与えている体を装いながら精神を削る隔離だ。災害時の緊急連絡網からも外されたという。労組が是正を求めても会社は無視し、提訴に至った。
◆懲戒を「適法」とした東京地裁の判決
ところが東京地裁労働部は信じがたい判決を出した。報道によれば、裏付けが乏しいまま懲戒を「適法」とし、配置転換も「大きな窓があり外の景色が見える。冷暖房完備で快適かつ開放的」などとして問題なしと判断したという。窓があれば隔離は「快適」になるのか。これでは不祥事を目の当たりにしても、誰も通報などできない。会社にとって「通報したらこうなる」という見せしめが合法化されるに等しいからだ。
幸い控訴審の東京高裁は、懲戒も降格も無効とし、あおぞら銀行側を逆転敗訴にした。時間はかかったが、公益通報制度の趣旨はなんとか守られた。「通報したら人生が終わる」という前例が確定しなかっただけでも意義は大きい。
それにしても、なぜ地裁はあんないい加減な判決を出したのか。東京地裁労働部には経験の浅い判事補が配属されることもあり、多くは裁判官一人で回す単独事件だ。「労働部」と聞くと専門家が合議で精密に判断しているように見えるが、必ずしもそうではない。事件の当たり外れ、裁判官の経験値や感覚のズレが露骨に出やすいとされる。
厄介なのは、「大企業がそんな報復をするはずない」という思い込みだ。裁判官も人間で、自分の常識に縛られる。
日本の裁判官は任官後、OJTを通じて能力を身につけていく。だから、自分の出した判決が高裁でひっくり返って初めて間違いに気づくこともある。だが、高い授業料を払わされるのは当事者なのだ。
近時の法改正で、内部通報後の不利益扱いは通報から1年以内なら原則「報復」と推定されるようになった。これは一歩前進だ。通報者の立証負担を軽くする狙いがある。
ただ、会社側も1年待てば評価・配置・仕事量といったグレーな嫌がらせで報復できる余地は残るのだ。しかも裁判に訴えても「裁判官ガチャ」がある。法整備しても通報リスクはゼロにはならないのだ。
<文/岡口基一>
―[その判決に異議あり!]―
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー