
アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。今回は週刊ヤングジャンプにて野田サトル先生が連載中の『ドッグスレッド』をピックアップ。
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ミラノ・コルティナ2026冬季五輪が開催され、ウィンタースポーツへの注目が高まっている。銀盤の上で繰り広げられる熱戦に胸を躍らせた方も多いだろう。そんな今だからこそ、ぜひ手に取ってほしい漫画がある。2023年より週刊ヤングジャンプで連載中の『ドッグスレッド』だ。
本作は、あの『ゴールデンカムイ』で知られる野田サトルが、2011〜2012年に連載した『スピナマラダ!』を、「不完全なままこの世に残したくない」という強い思いで蘇らせたリブート作品。一度は連載終了という挫折を味わった物語を、圧倒的な熱量で描き直した執念の一作だ。

※以下の本文にて“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。
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フィギュアの「狂犬王子」がアイスホッケーに転身

物語の舞台は2010年、北海道苫小牧市。主人公の白川朗(しらかわ ろう)は、かつてフィギュアスケートのジュニア男子で歴代最高得点を叩き出し、将来のオリンピック出場を確実視されていた超一流の選手だった。しかし、全日本ジュニア選手権での優勝直後、彼は突如としてリンクで暴れ回る。リンクに椅子を投げ込み、最も重要なスポンサーボードをビリビリに引き裂く。その行動によりスケート連盟から永久追放され、ついたあだ名は「狂犬王子」。
なぜ、将来を約束された天才が自ら道を閉ざしたのか。その背景には、さまざまな感情があったことが後に明かされるのだが、その後、祖父の住む苫小牧へ移住した朗は、ひょんなことから廃校間近の宮森中学校アイスホッケー部に助っ人として参加することに。そこで朗は、初めて「チームで戦う熱量」に触れるのだ。個人競技で孤独に頂点を目指していた少年が、「氷上の格闘技」と呼ばれる激しい集団スポーツに魅了され、再びオリンピックの夢を追いかける。その再起の物語に、読者は開始早々心を掴まれるだろう。
朗の成長とともに学ぶアイスホッケーの神髄

本作の大きな魅力は、スケーティングこそ超一流だがアイスホッケーに関してはズブの素人である朗が、一から競技を学んでいく過程を丁寧に描いている点にある。朗が直面する壁を通じて、読者もまたアイスホッケーの基礎から、その難しさや奥深さを自然に学べるようになっている。
例えば、反則を起こした選手が数分間退場する独特のルールや、スティックの使い方、選手のポジション、チーム戦術など、物語の展開に合わせて分かりやすく解説される。身体と身体をぶつけ合う激しさの裏にある緻密な駆け引きや、1ピリオドを全力で動き続けることの過酷さなど、未経験者には想像もつかない競技のリアルが、朗の成長とシンクロして迫ってくる。競技になじみがない読者であっても、朗がパックの扱いに苦労し、チームメイトとの連携に悩みながらも成長していく姿を追ううちに、気づけばアイスホッケーの虜になっているはずだ。朗は初心者ではあるが、ただのお荷物というわけでもない。「アイスホッケーというのはスケーティングで決まる」からだ。その1点で朗はチームの誰よりも抜きん出ており、ある意味、身体能力だけで「リバウンド王」となった『スラムダンク』の桜木花道のように「応援したくなる」要素を兼ね備えている。
2つの視点が描く、震災とスポーツの「線」
本作が単なるスポーツ漫画に留まらないのは、ライバル側のストーリーも丁寧に描く構成にある。
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本筋は、朗がチームメイトでトップ選手の源間慶一らと共にインターハイ19連覇を誇る名門・狼之神(おいのかみ)高校で日本一を目指していく王道の成長譚だ。しかし、作中では狼之神の20連覇を阻んだ青森の強豪・八戸鮫王(はちのへさめおう)高校に焦点を当てたストーリーも展開される。2011年3月、東日本大震災。八戸鮫王高校の部員たちを襲ったのは黒い波と、日常の崩壊だった。経済的な打撃、地元の復興、練習場所の喪失。「ホッケーどころではない」という過酷な現実。それでも、震災前にあったはずの輝きを取り戻すため、彼らもまた必死にリンクを目指す。両者の視点が交差することで、物語には圧倒的な厚みが生まれている。
「時代錯誤の入部初日」に凝縮されたド根性理論

朗が進学した狼之神高校の練習風景は、まさに圧巻だ。「6キロの鉛の棒(ボッコ)を持って走る」「この車より遅く走る奴は車で引く」と軽トラを走らせる監督。10話分を費やして描かれる「入部初日」の描写はまさに昭和の世界で、コンプライアンスは完全に無視されている。1年生の一人でも目標をクリアできなければ、連帯責任で誰にも水を飲ませない。一見すると時代錯誤な指導方法に見えるが、そこには監督・二瓶利光の「現在のスポーツ科学が全人類のたどり着いた正解だとしても、今の常識が10年後には非常識と笑われる。それがスポーツ界だ」という哲学がある。そして「水は飲み過ぎるとバテる!! 適度な水分摂取が必要だが…それは俺が決める お前らは赤ちゃんでな!!」と続けるのだ。要するに監督の指示を信じてド根性で突き進め、というスタンスだ。効率ばかりを求める現代社会において、この一つのことに一心不乱に打ち込む姿は、不思議と清々しく、読者の胸を熱くさせる。
「不条理」の中で光る笑いとシリアスの絶妙なバランス

狼之神高校での地獄のような練習が終わった直後に描かれる「熊襲来エピソード」は印象的だ。疲弊しきった部員たちの前に現れた巨大なヒグマ。絶体絶命のピンチの中、木に登って逃げ場を失う朗。そこへ二瓶監督が愛車で突っ込み、熊を跳ね飛ばして大爆発が起こる。炎の中から何事もなかったかのように現れた監督が、そのまま部員全員で校歌を斉唱する。この一連の流れは、野田サトルらしい不条理ギャグの極致だが、同時に「どんな絶望的な状況でも、圧倒的な力で打破する」という狼之神高校のタフさを象徴している。
試合においても、朗がフィギュア仕込みのテクニックで、相手の激しいタックルを踊るように紙一重でかわし、パワーを無効化していく。白川の滑りは「戦士ではなく踊り子」と揶揄されるが、彼は自分の長所を突き詰め、独自のスタイルで氷上を切り裂く。人と同じ道は走らず、独自の道を突き進む。ギャグとシリアスが表裏一体となって描かれる中で、「欠点に見える個性さえも、磨き上げれば唯一無二の強みになる」という確かなメッセージが、説教臭さを感じさせない最高の教訓として読者の胸に刻まれるのも、本作が持つ大きな魅力だ。
『ドッグスレッド』は、アイスホッケーのルールを知らなくても楽しめる、極上のエンターテインメント作品だ。ポジションの役割や戦略、テクニックなどは物語を通して自然と理解できるよう設計されており、何よりキャラクター一人一人が抱える「人間ドラマ」が濃密である。
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作者・野田サトルの執念によって描き直された「リベンジ」のエネルギー
1998年に開催された長野五輪の頃には約2万9000人いた競技人口も、現在は減少傾向にあるという。かつてサッカーでは『キャプテン翼』、バスケットボールでは『SLAM DUNK』が爆発的なブームを巻き起こした。近年でも『ハイキュー!!』のヒットによって男子高校生のバレーボール選手数が増加した例があるが、本作もまたアイスホッケーという競技を多くの子供たちやファンに浸透させ、人気に火をつける可能性を秘めている。作者・野田サトルの並々ならぬ執念によって、より力強く描き直された「リベンジ」のエネルギー。アニメ化の報が届く前に、ぜひその熱量を原作で体感してほしい。
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