はま寿司の深夜料金は序章か 外食で広がる「時間をお金で買う」新モデル

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2026年03月01日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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外食で「ファストパス」が広がる、なぜ?

 はま寿司が深夜料金を導入する。2026年3月3日から、午後10時以降は商品価格を一律で7%加算するという。理由は、人件費など運営コストの上昇に対応するためだ。ここ数年、インフレは社会的な問題になっており、こう言われれば納得せざるを得ないのが実情だろう。


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 ところで、外食チェーンを巡っては、この深夜料金の導入に始まり、「時間をお金に変える」システムが徐々に広がっている。いくつかの具体例を見ながら、その現状と背景を解説したい。


●深夜料金とは「深夜労働者の時間を買う」こと


 外食では近年、「一律に値上げする」以外の方法で収益を確保する動きが目立つ。深夜料金はその代表例で、時間帯によって価格を分け、コスト増を吸収しようとする。深夜帯は客数が読みづらい一方、労働者へは割増賃金が発生するので、営業を続けるほど負担は増える。


 そのギャップを埋めるのが、深夜料金の役割だ。つまり、深夜の営業時間にかかる割増賃金分を、顧客が料金として負担している形だ(実際、メニューの質が昼と夜で変わるわけではない)。


 外食における深夜料金といえば、24時間営業を基本としていたファミレスが先行して行ってきた。ガストやデニーズ、ロイヤルホストなど、多くのファミレスではおおむね午後10時から午前5時に店内飲食の注文をすると、10%前後が上乗せされる。


 この流れは、人口減少に伴う働き手の減少やコスト高を理由に、外食の他業態にも広がっている。2024年7月には、牛丼チェーン「松屋」が、一都六県の一部店舗で午後10時から午前5時の注文に対し7%前後の深夜料金を加算。対象店舗は徐々に広がっている。


 今回のはま寿司による施策も、この延長線上にある。


 ちなみに、はま寿司をはじめとする回転寿司チェーンは、国内店舗数が飽和状態にある。2024年7月から2025年7月の推移を見ても、上位15チェーンの店舗数は合計で20店舗減少している(日本ソフト株式会社による)。


 そこに加えて水産物の大幅なインフレが加わり、市場に限界が来ている状態だ(ただし、各社は中国をはじめ海外市場に積極出店をしているので業績自体は悪くない)。国内での店舗展開が岐路に差し掛かっていることは間違いない。


 こうした事情に加え、外食業界で広がる深夜料金導入の流れもあり、今回の決定につながったと考えられる。


●待ち時間という「時間」を買うシステムも


 これと関連して、外食産業の中で気になる動きもある。


 「深夜労働者の時間を直接買うこと」だけでなく、「待ち時間」そのものに料金を設定する飲食店が目立ち始めていることだ。いわゆる、飲食ファストパスだ。


 例えば、SuiSuiというサービスでは、店に行列ができていても、その場でファストパスを購入すれば列をスキップできる。まさに、テーマパークの「ファストパス」と同じ仕組みだ。導入店の例として、みそかつの「矢場とん」や、ラーメンの「つじ田」などがある。


 TableCheck FastPassというサービスも同様で、事前にこのシステムでパスを購入していれば、当日店に並ぶことなく食事にありつける。このサービスの導入店としては「Japanese Soba Noodles 蔦」や「銀座 八五」などが挙げられる。


 いずれにしても、料理そのものではなく、「並ぶ時間を減らす」ことに料金が発生しているわけだ。


 客側にとっても予期せぬ待ち時間を減らすことができるし、店側にとっても行列の整理にかける時間や、店の混雑調整を行うことができて、利点が多い。


●予期されていた「時間をお金で買う」システム


 「深夜料金の導入」と「飲食ファストパス」は、別々の話題に見えるかもしれない。しかし、どちらも「時間をお金で買う」システムという点では共通している。お客は、深夜に働く人の時間をお金で買ったり、待ち時間をお金で買って短縮したりする。


 これまでチェーン店といえば、「いつでも安く」が原則であった。しかし、そこにコスト上昇などを背景に「時間をお金で買う」発想が浸透してきている。


 この流れは、もちろん昨今の状況を反映してのものだが、社会学では、こうした状況が長らく予測されてきた。社会学者のジョージ・リッツァは、現代社会がマクドナルドを代表とするファストフード店の仕組みに大きく影響を受けていることを述べている(『マクドナルド化する社会』〈早稲田大学出版部〉)。


 リッツァは、その要素をいくつかに分類しているが、その一つに「計算可能性(calculability:量的に計算できること)」という要素がある。これは、さまざまなものが金銭的価値という「見える」指標に変換され、量的な数値が重視される、という考え方だ。


 日本では「おもてなし」といった言葉に象徴されるように、外食産業においても、目に見えない価値を重視する傾向が強かった。それが「お値段据え置きで、深夜までがんばる」「わざわざ並んでくれている人には、平等に接する」といった状態として表れてきた。


 しかし、人手不足やコスト増が続く中、それだけでは運営が成り立ちにくい場面が増えている。その中で、リッツァが述べたような「時間」を「お金」に変えていく発想が自然と広がってきたのであろう。彼がそのことを予期したのは30年ほど前だが、その原理は社会に驚くほど浸透している。その意味では、深夜料金も飲食ファストパスも今後、どんどん広がっていくだろう。


●「深夜料金設定」の前に考えるべきこと


 一方で、考えておくべき点もある。


 深夜料金の設定は、「現状の仕組みを維持する」側面が強い。長い営業時間を維持するため、そのコストを補う手段として深夜料金を導入している。


 ただ、現実を見ると、人口減少とそれに伴う働き手不足なども起こっている。その中で、そもそもこうした長い営業時間が本当に必要なのかを考える必要がある。例えば、サイゼリヤはコロナ禍で短縮した営業時間について、コロナ収束後も、原則として深夜営業を止める方針を掲げている。


 もちろん、この点については、仕事の都合などで深夜帯しか外食できない人々の存在も考慮する必要がある。実際、ガストでは2020年に深夜営業を廃止したが、その後多くの店舗で深夜帯の営業を復活させている。


 この背景には、特に都市部の顧客から、深夜営業への要望が多かったことがある。ただ、ファミレスは食事以外の利用もあるため、やや特殊な例かもしれない。特に、はま寿司のような回転寿司チェーンの場合、ファミレスに比べれば「深夜まで開いていてほしい」という要望は減るはずだ。


 その意味でも、外食チェーンにおいて、深夜帯も営業することが必要なのかどうかは、もう一度検討してみる必要があるのではないか。現行システムの維持と経営規模の縮小のバランスを見直す局面にあることは事実である。


 はま寿司の深夜料金設定というトピックは、こんなことも考えさせてくれるのだ。


(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)



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