
福岡を拠点にディスカウントスーパー「トライアル」を全国展開するトライアルホールディングス(以下、トライアルHD)。その名が一気に広く知れ渡ったのは、2025年7月に2つの海外投資ファンドから西友の全株式を取得し、完全子会社化してからだ。
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新興スーパーが、かつてセゾングループの中核を担った名門を傘下に収めたことで、大きな注目を集めた。
トライアルHDと西友の両社の統合により、売上高は合計で1兆円以上となる大流通企業が誕生した。
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トライアルHDの傘下入りから間もない西友だが、すでに大きな改革が動き始めている。
1つ目は、福岡県で実験的に展開してきた小型スーパー「トライアルGO」の首都圏進出だ。2025年11月7日、首都圏1号店として西荻窪駅北店をオープンした。その特徴は、近隣の西友店舗を倉庫代わりに活用している点にある。バックヤード面積を抑えた分、売り場面積を広げることができ、売り上げの向上につなげている。
もう1つは、トライアルと西友を融合させたハイブリッド型の新業態「トライアル西友」の開発だ。2025年11月28日、東京に1号店となる花小金井店を開業した。既存の西友店舗を改装し、トライアルHDの強みであるセルフレジ機能付きの買い物カート「スキップカート」を導入するなど、DXを強化している。
トライアルHDによる西友買収の効果はどれほどなのか。イオンなどのライバル企業の動向も踏まえ、比較・検証していきたい。
●西友統合後の変化は?
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西友は2023年4月、生鮮三品(青果・畜産・水産)の新ブランド「食の幸」を立ち上げ、生鮮強化を進めてきた。バイヤーが味と品質にこだわって商品を選定し、顧客が手に取りやすい価格で提供するのがコンセプトだ。当初は青果・畜産・水産の25品目でスタートし、2024年4月には185品まで拡大した。
このように品質にこだわった商品を販売する一方で、トライアルHDによる統合後は、弁当・総菜売り場や生活用品・日用雑貨売り場でさまざまなトライアルのプライベートブランド(PB)が販売されている。トライアル名物の「ロースかつ重」や、998円〜というワークマンに匹敵するほどの価格破壊ぶりと評されるストレッチパンツ「ノビルノ」、1本29円の歯ブラシなどが代表例だ。
さらに、小型店「トライアルGO」を西友の商圏内に配置し、サテライト店として活用する実験も始まった。平日は自宅近くの「トライアルGO」を利用し、休日は乗降客の多い駅前の西友を訪れるといった、店舗の使い分けを提案している。
「トライアルGO」は母店となる西友の店舗から徒歩圏内にある。そのため、母店の弁当・総菜コーナーで作った卵がたっぷり入ったサンドイッチやおにぎりなどをそのまま運び、販売できる。遠方の工場から配送する必要がなく、出来たての商品を提供できる点が強みだ。これにより、配送コストの大幅削減も実現している。
「トライアルGO」は2022年から福岡県内で展開を開始し、現在は約30店舗を構える。東京では西友とのシナジーを狙い、出店からわずか3カ月で都内5店舗にまで拡大している。
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また、2025年11月28日には、トライアルと西友の両社の強みを融合した新フォーマット「トライアル西友 花小金井店」を東京都小平市にオープン。西武新宿線の花小金井駅から徒歩3分ほどの立地で、既存の西友花小金井店をリニューアルした形だ。
同店では、西友が2012年から展開するPB「みなさまのお墨付き」も販売している。一般消費者によるテストで80%以上の賛同を得た商品だけを商品化するプロジェクトで、安さと品質の両立を目指す。レトルトカレーをはじめ、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、高原ブロッコリーやカットほうれん草などの冷凍野菜が人気だ。
●DXも強みとするトライアルHD
トライアルHDの各店舗では、積極的なDXと省人化が進められている。
実際にトライアルGOの店舗を訪れると、レジは自動化され、顧客自身がバーコードを読み取って会計するセルフ方式が徹底されているのが印象的だ。顔認証決済やリモート年齢確認といった、最先端の技術も導入している。
2〜3人ほどの店員で店舗を回しているが、レジ打ちは行わず、主な業務は商品の補充だ。コンビニのように店内で調理や電子レンジでの温めを行うこともない。調理は近隣の西友で行い、弁当や総菜の温めは顧客自身が担当する。こうした仕組みによって、人手不足に強い店舗運営を実現している。
トライアルHDのDXは多岐にわたるが、象徴的なのはタブレットを搭載した新開発のスキップカートだ。すでに240店舗以上で導入されている。顧客が商品のバーコードをスキャンすると、クーポン対象商品であれば画面に即座に表示され、その場で利用できる。また、買い物中の合計金額もリアルタイムで確認できるため、予算管理もしやすい。あらかじめチャージしたプリペイドカードと連動させれば、専用ゲートでスムーズに決済でき、長いレジ待ちの列に並ぶ必要もない。
トライアル西友の花小金井店は、トライアルのスキップカートを導入した都内初の店舗であり、オープンから2カ月で売り上げは約42%増、客数は約36%増と、明確な効果が表れている。
また、インストアサイネージでは、青果売り場などの商品に合わせた映像や写真を表示するだけでなく、店内一斉放送にも対応する。出来たて総菜の告知や、季節・催事に合わせた情報発信も行っている。こうしたサイネージの活用によって、売り上げを114%に伸ばした事例もあるという。
●トライアルがライバル視するイオンは?
トライアルがライバル視しているであろうイオンは、特に東京23区内を中心にミニスーパー「まいばすけっと」を2005年から展開してきた。2025年12月末時点で1290店舗に達している。まいばすけっとの2025年2月期決算は、売上高約2903億6000万円(前年同期比12.6%増)と堅調だ。
また、イオンは首都圏の地域スーパーを統合したユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下、USMH)を設立。マルエツやカスミ、いなげやなどを傘下に持ち、2026年3月1日時点で760店舗を展開している。
こうした中、イオングループのPB「トップバリュ」の取り扱いは各業態で拡大しており、消費者が同ブランドに接する機会は確実に増えている。首都圏以外でもイオンモールなどで大量に展開されているが、まいばすけっとの出店攻勢もあり、首都圏での存在感が特に目立っている印象だ。
USMH各社にも独自PBはあるものの、イオンの傘下に入ってからはトップバリュの比率が高まり、売り場の同質化が進んでいる印象が否めない。
さらに、イオングループの収益の柱であるドラッグストア業界大手の「ツルハドラッグ」や「ウエルシア薬局」を擁するツルハホールディングスの店舗でも、トップバリュ商品の展開が広がっている。それに加えて、近年苦戦が続くコンビニ大手の「ミニストップ」や、ディスカウントストア「ビッグ・エー」でも同様にトップバリュの取り扱いが増えている。
トップバリュがこれほどまでに販路を拡大しているのは、実力あるメーカーが製造を担い、市場に受け入れられている証拠でもある。しかし、業態の異なる店舗にまで全国規模で浸透していくことで、ブランドとしての「見慣れ感」が出てしまい、消費者を飽きさせてしまっている側面もあるだろう。
結果として、PB本来の「その店ならでは」という特別感が薄れ、ある種のナショナルブランド化が進んでいる。その一方で、トップバリュの個々の商品がナショナルブランド並みのプレミアム性を持つほどではないのが、イオンの弱点と言えるだろう。
●低価格戦略を採用するオーケーと独自路線のライフ
ウォルマートを目標に「Everyday Low Price」戦略を採用してきたトライアルHDにとって、同様の戦略を掲げるスーパー「オーケー」は無視できない存在だろう。
オーケーは2024年11月、大阪府東大阪市に関西1号店となる高井田店を出店。その後、阪神間で矢継ぎ早に出店を重ね、関西の店舗数は7店舗にまで拡大した。関東では国道16号線の内側に出店する戦略を採用し、約170店舗を展開する。
2023年には東京・銀座にも出店するなど、多様な立地で挑戦しながら、都市型スーパーの可能性を探っている。
銀座店では、ランチ需要を意識した焼きたてピザやかつ丼、サンドイッチなどの弁当コーナーを強化。さらに、インバウンド客を意識し、日本酒の品ぞろえも充実させていた。
2026年2月5日に東京で開業した大泉インター店では、レジ前に冷凍食品売り場を広く配置。魚の総菜の新PB「魚恵」を、大阪の野江店に続き関東で初導入するなど、ファミリー層のまとめ買い需要を意識した売り場づくりを進めている。
商品の安さや、社員が商品価値を見極める力では一歩先を行くとされるオーケーだが、価格だけでは競争に勝ち続けるのが難しくなりつつある。立地特性に応じて売り場の構成を変える柔軟性を強めている点が、近年のオーケーに見られる大きな変化と言える。
一方、関西発祥で首都圏にも強固な基盤を築くライフコーポレーションは、主力の食品スーパー「ライフ」に加え、オーガニック商品を扱う「ビオラル」に注力している。
ビオラルは2016年に大阪市内に1号店を開業。現在は首都圏9店舗、関西5店舗の計14店舗に拡大した。さらに、ライフ店舗内でのコーナー展開も進み、第2のブランドとして存在感を高めている。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に高まった健康志向は、ビオラルにとって追い風となった。有機野菜や店内調理の総菜など、こだわり商品をそろえながらも、手に取りやすい価格帯を維持している点が強みだ。
こうした方向性は、トライアルHDには見られないもので、明確な差別化戦略となっている。
●質の異なる安さで、新たな顧客を獲得できるか?
こうしてトライアルHDと各社の店舗や商品展開を比べてみると、イオンのトップバリュは3つのラインを展開しているものの、消費者からはそれぞれ別の方向性があると認識されにくいのが難点だろう。オーケーは立地により柔軟な商品展開を行っており、ライフは健康志向の強い顧客をがっちりとつかんでいる。
一方で、トライアルと西友の統合により、徹底的な安さを追求するトライアルのPBと、激安ではないものの品質と価格のバランスを重視する西友のPBが共存している。質の異なる2種類のPBを展開することで、幅広い顧客層を取り込む戦略を採用していることが見て取れる。
PBの展開に加え、ITを駆使した買い物カートや顔認証決済システム、デジタルサイネージなどの積極的な導入を進めているトライアルHD。トライアルと西友という質的に異なる2種類の安さを共存させながら、ライバルが台頭する市場で新たな消費者を呼び込むことができるのか。トライアルGOとトライアル西友の今後の展開から、目が離せなそうだ。
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(長浜淳之介)
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