WBC圧巻デビューをした侍ジャパン・種市篤暉 プロ入りから“三振”にこだわり続けてきた侍ジャパン・種市篤暉は、WBCデビュー戦となった7日の1次ラウンドの韓国戦、1回を投げ三者三振の圧巻投球を披露した。
5−5の7回からマウンドに上がった種市は、前の打席に伊藤大海から本塁打を放っているキム・ヘソンを1ボール2ストライクから高めの154キロストレートで空振り三振に仕留めると、続くキム・ドヨンを1ボール2ストライクから代名詞のフォークで空振り三振。最後もジョーンズを2ボール2ストライクから145キロのフォークで空振り三振と、チームの流れを呼び込む三者三振。
その裏、侍ジャパンは鈴木誠也(カブス)の押し出し四球、吉田正尚(レッドソックス)の2点適時打で勝ち越し。種市はWBC初登板で嬉しい勝利投手を手にした。
◆ 奪三振
「自分のアピールポイントは、フォークボール。マリンスタジアムで三振をいっぱい獲れるように頑張っていきたい」。
今から10年前の2016年12月13日の新入団選手発表会で、自身のアピールポイントを口にした種市は、ブレずに三振にこだわってきた。
プロ2年目の18年8月12日のオリックス戦でプロ初登板・初先発を果たし、0−0の2回無死走者なしで吉田正尚を1ボール2ストライクから134キロのインコースフォークで空振り三振を奪い、これが種市にとって“プロ初奪三振”となった。
この年は7試合に先発したが、0勝4敗と1勝もできず。「課題というか、投球スタイルとしてもっとガンガン押せるピッチャーになって欲しいと(当時の井口資仁監督に)言われたので、自分もそういうピッチャーになりたいと思っていましたし、一軍ではそれができていなかった。三振を取れるピッチャーになりたいと思っていたので、一軍では全然狙っても三振取れなかったりして、ウイニングショットも欠けていたと思うので、そこは練習しかないと思います」と同年9月の取材で悔しさをあらわにした。
飛躍のきっかけになったのが、この年のオフに「鴻江さんから教わったことを1年間やろうと思っています」と当時ソフトバンク・千賀滉大(現メッツ)らが行っている自主トレに参加し、体の使い方など様々なことを学んだこと。そして、ストレートにもある変化があった。
種市の18年との違いにイチ早く気が付いたのが、昨季“柿の種バッテリー”で話題を呼んだ柿沼友哉(現ヤクルト)だ。19年1月26日にロッテ浦和球場で行った自主トレで、ブルペンに入った種市の球を受けた柿沼は「もともと動くようなストレートの感じのピッチャーだったんですけど、あまり動かずに強さがさらに増しているように感じましたね」と18年との違いを分析。種市自身も「投げ方を教えてもらって、ムービングをしなくなったと思っていますね」と話した。
19年に力強いストレートと落差の大きいフォークを武器に一軍に定着し、規定投球回に未到達ながらリーグ4位の135奪三振をマーク。
この年の10月17日の取材で「ストレートでガンガン押していけるピッチャーになりたい。単純にかっこいいと思うので、個人的には27球のアウトより27個の三振が好き。理想なピッチャーになりたい。豪腕かっこいいし、三振取れる人もかっこいいしという感じのピッチャーになりたいです」と、当時の理想の投球スタイルについて口にしている。
20年1月6日の取材で、19年に同学年の当時オリックス・山本由伸投手が最優秀防御率のタイトルを獲得し、種市もタイトルを獲得したい想いがあるか訊くと、「僕がいけるとしたら奪三振しかないと思っています」と口にした。誘導尋問のような形になってしまったが、種市が初めて“奪三振”のタイトルを獲ると明言したのがこの日だ。
新型コロナウイルス蔓延の影響で開幕が6月に変更となった20年、7月11日の西武戦後に奪三振リーグトップに立ったが、同年9月にトミー・ジョン手術を受けた関係で41奪三振。右肘手術から本格復帰した23年がリーグ2位の157奪三振、24年がリーグ6位の148奪三振、そして昨季はシーズン自己最多の161奪三振。昨季までの9年間で672個の三振を奪っている。
◆ 進化を続けるフォーク
代名詞であるフォークは“進化”を続けている。一軍でプロ初勝利を含む8勝を挙げた19年に「カウントを取るときはキャッチャーの頭を投げる意識で投げています」と、カウント球にストライクゾーンのフォーク、追い込んでからストライクゾーンからボールゾーンに落ちるフォークを本格的に投げ分けるようになった。当時種市は「握りは変えていないですね。意識を変えています」と話していた。
トミー・ジョン手術から本格復帰した23年4月27日の取材では、ストライクゾーンに投げるフォークについて「ど真ん中くらいの意識です。ど真ん中に全力で投げて勝手に落ちてくれる感じです。落としにいったら落ちないので、その中で腕振って落ちているのが一番空振りとれている要因かなと思います」と明かしている。
23年は左打者にシンカー系のフォークで空振りを奪うこともあった。同年4月9日の楽天戦の4回に小深田大翔から空振り三振を奪った139キロのフォークがそうだ。「シンカー気味に投げました。左バッターは気持ち、投げた瞬間、フォースラだと見切られるイメージがあるので、ちょっと体から離れていくイメージで投げています」としっかりと意図を持ってシンカー気味に落とした。
「フォークもそうなんですけど、その日に調子が悪いとわかった瞬間に感覚的に何かを変えるのをしていかないと思います。その中でノートを書くのが一番大事かなと思います。“こういう時はこうなる”、“力んだらフォークが落ちない”とか、“突っ込んだら落ちない”とか試合中にわかっていたら試合中に修正ができる。もっと自分に敏感になっていきたいなと思います」。
ノートに書くことで自身の振り返りに役立ち、イニング間での修正を可能にしている。同年4月23日のソフトバンク戦では「試合中にもっと敏感というか、嗅覚というか、イニングごとに“こうしよう”、“ああしよう”とイニング間のキャッチボールはやっているので、その中でなんとかしようと思っています。なんとかできていない部分が多いですけど、もうちょっと試合中に良くなれば。その中で、フォークは改善できたのは良かったです」と、4回以降フォークの握り方を変えて、4回と5回の2イニングだけでフォークで5つの三振を奪ったこともあった。
初の代表入りとなった24年3月7日に京セラドーム大阪で行われた「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024日本vs欧州代表」では、2−0の8回から登板し、1イニング目を3人で片付けると、イニング間に「初回の感じが良くなかったので、もうちょっと人差し指を使っているイメージだったのを変えたら、だいぶ落ち幅が良くなったのでイニング間に修正できたのは良かったかなと思います」とフォークの握りを修正。先頭のエンカルナシオンを142キロのフォークで空振り三振に仕留めると、続くムジクを143キロのフォークで空振り三振、最後は代打・プロファーを147キロのフォークで試合を締めた。
同年5月29日のヤクルト戦、0−1の4回一死走者なしでオスナを0ボール2ストライクから4球目インコース143キロシンカー系フォークで空振り三振がよかった。本人にそれを伝えると、「あれを毎回投げたいですね、本来は。あれこそシームシフト系のボールだと思いますね」と口にした。スライダー系のフォークについては「サンタナもスライダーさせようと思って投げていたので、それでも空振りが取れていたので、スライダーでも良いかなと思っています」と語った。
同年7月6日の西武戦、「フォークが良くなかったので、ちょっと2ストライク後はスライダーに切り替えてほしいですと(佐藤)都志也さんに言いました」と、4回以降にスライダー、カーブの割合が増えた。この日の登板で気になったのは、カウント球でのフォークがいつもの登板に比べて多かったこと。「(カウント球にフォークは)多かったですね。データを見ても悪くないんですけど、僕の中で落ち幅より軌道の方が大事なので、フォークに関しては特に。軌道をもうちょっと真っ直ぐに寄せられたらなと思います」と悩みのタネでもあった。
すぐに修正するのが種市。続く7月12日のオリックス戦では「良かったですね。というか、その日にこの感覚だと落ちるんじゃないかというのを見つけて、それを試したらすごく良かったという感じです」と納得のフォークを投げられた。西武戦からオリックス戦までの1週間、フォークについて「いい1週間を過ごしましたし、改善できる点は改善しようとした中で、操れていたので良かったと思います」と振り返った。
同年8月に入ってからフォークの軌道が変わったように見える。種市は「(同年8月4日のオリックス戦)京セラからいい形で投げられているのかなと思います」と好感触。オリックス戦は「今年(24年)一番理想に近いフォークボールを扱えていたんではないかなと思います」と納得の表情。フォークの精度についても「僕の中では全く問題ないと思っているので、今の感覚で課題があったら修正していけたらいいかなと思います」と明かした。この時期から、「意識的にはシンカーというよりは、できるだけ軌道が膨らまないようにそこだけ意識していました」とシンカー系のフォークをあまり投げなくなった。
25年はフォークで言えば、2月の石垣島春季キャンプで140キロ台のスプリット(昨季まで投げていた140キロ台のフォーク)と、落差の大きいフォークの2種類を投げていきたい考えを示していた。
落差の大きいフォークは、2019年のようなストライクゾーンからボールゾーンにストンと落ちる系なのだろうかーー。
「そうですね、できるだけフォークボールの方をもっと落差を出せるように。遅くてもいいから落差を出せるようにしていきたいと思っています」。
24年まで右打者のインコースにシンカー系のフォークを投げていたが、そこについては「真縦に落としたいなと。普通に落とせればいいですね」と、この25年2月の取材からフォークについては一貫して“真縦に落としたい”、“真下に落としたい”と口にするようになった。
同年3月6日の『ラグザス 侍ジャパンシリーズ 2025 日本 vs オランダ』では、初回先頭の右・ディダーに2ストライクと追い込んでから空振り三振に仕留めた137キロフォークがストライクゾーンからボールゾーンに良い落ち。前回の韓国ロッテ戦から比べて落差も大きく、握りなどを変えたりしたのだろうかーー。
「感覚は変えました。スプリットもフォークも良い感覚で投げられましたので良かったです」。
0−0の2回に二死走者なしで左のクローズに初球、2球、144キロのスプリットで空振りを奪い、最後は落差の大きい140キロフォークで空振り三振で仕留めたのも良かった。
「スプリットはいつも通りですけど、フォークに関しては前日のピッチングで、(佐々木)朗希に教わったことをそのまま出せたのがすごく良かったかなと思います」。
シーズンが始まってから思うように三振が取れずにいた。5月28日のオリックス戦で、らしさが戻った。特に最大の武器であるフォークが素晴らしかった。「初回は全然だったんですけど、3回くらいから掴みましたね」と振り返る。その中でも、1−0の5回一死一、二塁で紅林弘太郎を1ボール1ストライクから空振りを奪った3球目の140キロフォーク、続く空振り三振を奪った141キロフォークはストライクゾーンからボールゾーンに良い落ち。本人も「ああ良かったですね!ちょっとシュートしながら、はい」と納得のいくフォークが投げられた。
フォークが良くなったところについて、「力感が良くなったのかなと思います。ずっと力んで投げていたので、その分いい指の抜け感というか、そういう感じですね」と明かした。
前半戦、14試合・86回1/3を投げ、3勝6敗、67奪三振、防御率3.65だったが、後半戦は、“支配的な投球”でパ・リーグの各球団に強烈なインパクトを与えた。
オールスター明け最初の登板となった7月29日の楽天戦は5奪三振だったが、8月5日のソフトバンク戦で12奪三振、13日の日本ハム戦で11奪三振、20日の楽天戦と27日のオリックス戦で9奪三振と、8月は月間リーグトップの41奪三振を記録。
8月5日のソフトバンク戦、6−1の7回二死一、二塁で周東佑京に対し1ボール2ストライクから、それまでタイミングの合っていなかったフォークで三振を仕留めてくるかと見せかけて6球目の148キロストレートで見逃し三振、8月20日の楽天戦、0−1の3回一死走者なしで村林一輝を2ボール2ストライクからインコースストレートで見逃し三振などは、フォークを意識させた中でストレートで三振に仕留めた。
9月に入ってからも変わらず三振を量産。特に目立ったのが、カウント3ボール2ストライクから落差の大きいフォークで三振を奪ったこと。9月11日のソフトバンク戦、1−0の2回先頭の栗原陵矢を3ボール2ストライクから四球が許されない中、11球目の142キロストライクゾーンからボールゾーンに落ちる142キロフォークで空振り三振に仕留めれば、9月27日の日本ハム戦、0−2の3回一死一、三塁で水野達稀を3ボール2ストライクから7球目のフォークで空振り三振に打ち取っていた。
3ボール2ストライクからフォークを選択するというのは、空振りを取れる自信があるからだろうかーー。
「そうですね、腕を振った中じゃないと、エスコンの(本塁打を打たれた)レイエス選手の時みたいになってしまうので、(カウント)32からでも腕を振ることを意識しています」。
そして、今年も2月27日の『ラグザス 侍ジャパンシリーズ 2026名古屋 侍ジャパン vs 中日ドラゴンズ』で、4−0の4回一死走者なしで細川誠也に1ストライクから空振りを奪った2球目の144キロフォークは軌道が変わったように見えた。本人に確認すると、「フォークに関しては毎球感覚は変えていました。指の力感だったり、セパレーション、捻転差をつけたりしながら投げたので、もうちょっと映像を見ながら、改善していきたいと思います」とのこと。細川を空振り三振を奪った外角のフォークはスライダー系だったが、「スピードを出したらフォースラするのが僕の特徴なので、もうちょっと真っ直ぐ落としたいと思います」と明かした。
今回はフォークボールのみの紹介となったが、野球が上手くなろうとする向上心、探究心は新人時代から変わらない。とにかく現状に満足することなく、“No.1のピッチャー”になるため、歩みをとめることなく“進化”を続けてきた。これまでの積み重ねが7日の韓国戦の圧巻投球に繋がったと言える。偶然ではなく必然の投球だったのだ。ロッテの代表として、日本の代表として、世界を驚く投球を披露し、“種市はいいぞ”と声高らかに言わせてほしい。
取材・文=岩下雄太