
大谷(左)と鈴木(右)は同学年。前回大会では大谷をイジれるのは近藤健介(ソフトバンク)だけだったが、今回は鈴木が強力な
年齢や自身の状態、過去の代表歴、所属球団との契約、チーム内での立ち位置......。井端弘和監督に口説かれ、それぞれの覚悟で参集した"侍メジャーリーガー"8人+1人の「戦う理由」を、WBCに向けた発言や周辺取材から浮き彫りにしていこう。
* * *
■大谷翔平(31歳/ドジャース)
「前回は『自分が引っ張らなきゃ』という気持ちが満ちあふれていましたが、今回は『みんなと一緒に楽しもう』と、肩の荷が軽くなったような笑顔が目立ちます」
|
|
|
|
侍ジャパンのある関係者が、バンテリンドームでのフリー打撃でスタンドインを連発する大谷を見ながらそう言った。
2度目のトミー・ジョン手術から投手として昨季途中に復帰。そのリカバリーや調整もあり、今回はWBC代表に万全の態勢で参加できる状況ではなかった。指名打者しかできないことで、チームに迷惑をかけるんじゃないかという考えもあったようだが、出場を決めるのは早かった。
その大きな理由のひとつが井端弘和監督の存在だった。昨年まで、何度も岩手の実家を訪れてくれていたのだ。それも、WBCに出てもらうために......という計算が見えるようなことはなく、社会人選手だった大谷の父とただ野球談議をしていたという。
「それに、今回は同い年の(鈴木)誠也がいますからね」(侍ジャパン関係者)
鈴木の存在が大谷の気を軽くしているように周囲には見えている。ふたりで臨んだ帰国会見で大谷が口にした「決起集会よりもプレーで」という発言は、一種の照れ隠しとも言える"公式回答"だったが、そのわずか3日後、大阪の焼き肉店で侍メンバーほぼ全員による決起集会は行なわれた。当日の集合写真を、大谷はいたずらっぽくインスタグラムにアップしている。
|
|
|
|
■鈴木誠也(31歳/カブス)
昨季は30本100打点を達成したが、今季はカブスとの5年契約の最終年。この春は大事なプレシーズンだ。前回大会では合流直前に左脇腹を痛め、出場を辞退していた。
「いろんな方に迷惑をかけた。間違っても同じことはしてはいけないと思うと、声がかかったとき、ちょっと消極的な気持ちにもなったんです」
ただ、脳裏をよぎったのは、ベンチに自分のユニフォームを飾ってくれた前回大会のメンバーのことだったという。
「辞退したのに、それでも仲間と思ってくれたヤツら(笑)。出なきゃ悔いが残るかな、と思って決めました。結論は割と早く出ましたね」
|
|
|
|
自身にとっては2021年の東京五輪以来の国際大会だ。
「あの緊張感は侍でしか味わえないお祭りみたいなもので、どれだけ自分がそれに乗っていけるか。まあ、チームを引っ張るのは翔平(笑)。俺は俺のことをするだけです」
■山本由伸(27歳/ドジャース)
MLBのトッププレーヤーが100%以上の出力で戦うワールドシリーズで歴史的な連投劇を演じ、胴上げ投手&MVP。誰もやったことのない偉業だからこそ、その影響もまた誰にも想像できない。
「肩、肘にはかなり疲労がたまっており、WBCを回避しても無理はない状態だったと聞きます」(MLB担当記者)
しかし、山本がそんな様子を見せることはなかった。
「4ヵ月で、心と体をどこまで戻せるか。やってみたらイメージどおりに戻せたというか。これならできると井端監督に伝えました」
ギリギリまでアリゾナのドジャースキャンプに残り、わずかに残る"狂い"の微調整に励んだ。
「正直、不安はあるけれど、重圧みたいなものはありません。(オリックスで組んでいた)若月(健矢)とのバッテリーで決勝戦の最終回、また胴上げ投手になれたらすごいな(笑)」
■吉田正尚(32歳/レッドソックス)
「もちろん、お声がかかったときから出たかったですよ。でも、(24年秋に手術した)右肩のことを考えると、(その状態がわからないうちから)『出ます』と言うのは無責任かなとも思ったんです」
吉田は侍ジャパンについて問われると常に「責任」「自覚」「日の丸を背負う」といった言葉を口にする。春先に一度コンディションをピークに持ってくると、その後に反動が来る怖さは知っているはずだが、それでも自分の状態を把握した上で、再びWBCに出場することを選んだ。
「井端監督にはLINEでご返事しました。僕、監督とLINEでつながってるんですよ(笑)」
気がかりはここ2年ほとんど実戦でやっていない外野守備。だが、国際大会で必ず結果を出してきた吉田は「バットで返しますよ」と前を向く。
■菅野智之(36歳/ロッキーズ)
「おそらくはラストチャンス。もう一回、心に火をつけて戦いたい」
菅野の人生を変えたのは、17年WBCの準決勝・アメリカ戦。チームは負けたものの、ドジャースタジアムでの6回自責点0の快投がメジャーを目指すきっかけとなった。
「日本は世界一にならなきゃいけないチーム。それに恥じないピッチングや立ち居振る舞いをしなくちゃいけない」
巨人で多くの栄冠を手にしても、世界一の景色は知らない。前回のWBC優勝を日本で見ていたとき、どこか置き去りにされたような寂寥感があったと振り返る。
今回はチーム最年長で、約30人の胃袋に焼き肉150人分、白米30合が消えたと噂される決起集会では"男気支払い"。もちろん優勝へのモチベーションは高い。
「ああ......どんな景色が見えるんでしょうね」
■菊池雄星(34歳/エンゼルス)
宮崎合宿の後半から、菅野と共にMLB組ではいち早く侍ジャパンに合流した菊池。実はWBCは初出場となる
もうひとり、これが最後のWBCと心に期するのが菊池。
「帰国するまで実感は湧いてこなかったんですけど、ジャパンのユニフォームに袖を通したらスイッチが入りました」
昨年1月、オフに滞在していた地元・岩手まで井端監督はわざわざ足を運び、「投手陣のまとめ役を」とWBC出場を打診してくれた。
「どんな成績でも呼びたい」
このひと言で腹は決まった。
菊池は岩手で少年野球を支援している。深刻な野球人口の減少を肌で感じている。
「間違いなく最初で最後となる大会。だから侍の活躍を見せて、子供たちに野球の素晴らしさを伝えたいんです」
■村上宗隆(26歳/ホワイトソックス)
前回大会では不振にあえぎ、4番から"降格"。そして準決勝でのサヨナラ二塁打、決勝での同点ホームラン。そんなドラマは有名だが、実は前大会の前にこんなシーンがあった。
バンテリンドームでの壮行試合前、多くの選手が大谷の規格外のフリー打撃に見入っていたとき、村上だけは表情を変えることなく、じっと打球をにらみつけていた。
「ショックを受けました。すごいなという気持ちより、負けたくないなという悔しさのほうが強かったですね」
あれから3年、いよいよメジャーに挑戦する村上。ホワイトソックスのキャンプでは、苦手とされる高めの速球の克服に時間を費やした。
MLBの審判は日本より高めのストライクゾーンが広い。それはWBCも同じだが、本人は笑顔でこう言っている。
「大丈夫。順調ですから」
■岡本和真(29歳/ブルージェイズ)
村上同様、MLB挑戦1年目のキャンプを途中離脱して侍ジャパンに合流した岡本。
「参加を決めたときはめちゃめちゃ不安でした。でも、この大会は4年に1度しかない。負けたら終わりという経験は、そうそうできないですからね」
脱力系キャラの印象もある岡本だが、前回大会のしびれるような記憶はやはり強く残っているようだ。
「バリバリのメジャー選手たちのレベルの高さを目の当たりにして『このままではアカン』と感じた。
それに、何かを成し遂げることって、しんどいことではあるけれど、同時に何物にも代えられないすごいことでもあるんですよね。多少しんどくても自分が頑張ればいいだけなんで、楽しみのほうが今は大きい」
「しんどい」と「楽しみ」の両方を自然体で語れる。それが岡本の強さかもしれない。
■ダルビッシュ有(39歳/パドレス)
「井端監督、ずっと僕に敬語なんで。かえって"圧"がすごくて(笑)」
そう言って記者たちを笑わせたのは、アドバイザーとしてチームに合流した宮崎合宿初日のことだった。
右肘の手術を受けた昨秋、井端監督に出場辞退の連絡を入れたが、「どんな形でもいいからチームに加わってほしい」と、経験を若い投手に伝えるよう求められた。
日本ハム時代からダルビッシュのことを知るNPB関係者が言う。
「ダルビッシュは一見、近寄り難い雰囲気かもしれませんが、内心はすごく繊細で寂しがり屋で、しかも相手が本気で必要としてくれているのか、うわべだけの社交辞令なのか、見抜く力に長けている。井端監督の本気を感じて、アドバイザーという仕事を喜んで引き受けたのでしょう」
宮崎合宿後にチームを離れたダルビッシュは、「(選手たちが)井端監督を胴上げしている姿が見たい」と口にした。侍ジャパンが無事に決勝ラウンドに進出すれば、米マイアミで再びチームに合流することになっている。
写真/共同通信社
