天然エピソードの裏に眠る怪物の才能 大谷翔平・菊池雄星に劣らぬ資質と評された男・西舘勇陽が巨人のドラ1になるまで

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2026年03月17日 17:10  webスポルティーバ

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ダイヤの原石の記憶〜プロ野球選手のアマチュア時代
第30回 西舘勇陽(巨人)

 普段から口数が多い方ではない。多くを語ろうとしない分、どこかつかみどころがないように映る時もあるのだが、温厚でマイペースな西舘勇陽(巨人)には、数々の逸話がある。

【菊池雄星や大谷翔平に匹敵するポテンシャル】

 たとえば、岩手の花巻東高校時代。腰痛の治療で県内の病院へ向かった時のことだ。

 早朝に野球部寮を出発した西舘は、路線バスで目的地へ向かったが、車中でウトウト......。眠り込んでしまい、降りるはずの停留所を過ぎて終点まで行ってしまった。予約していた午前の診察には間に合わない。そこで西舘は「午後に行こう」と考え、病院近くの駅に着くと待合室で再び目を閉じた。

 一方、病院から「来ていない」と連絡を受けた野球部関係者が西舘を捜索。携帯電話は電源が切れており、連絡もつかない。ようやく見つけ出した時、西舘は待合室のベンチで熟睡していたという。

 そんなマイペースな一面もありながら、野球に秘めた能力は誰もが認めるところだった。西舘が高校在学中、花巻東の佐々木洋監督は彼をこう評していた。

「西舘は、まるで指先に目がついているような投げる感覚と器用さを持っていて、多彩な変化球を投げます。指先の感覚は、歴代エースのなかでもトップクラス」

 2026年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した同校OBの菊池雄星(エンゼルス)や大谷翔平(ドジャース)と比較しても遜色がないほどに、投手としての資質は高いレベルにあった。

【高校卒業時に誓った「4年後、ドラフト1位」】

 フィジカルの強さも際立っていた。岩手県北部の一戸町出身の西舘は、少年時代にクロスカントリースキーやマラソンを得意としていた。足腰や広背筋の強さは、そうした経験によって培われたものだ。花巻東時代についても、「走力やパワー系の動きはすごかった」と証言する関係者は少なくない。

 さらに、西舘が高校2年の夏から定期的にチームを指導していた、現在はウエイトリフティング女子日本代表監督を務める冨田史子ストレングスコーチの存在も大きかった。もともと備わっていたポテンシャルは、高校でさらに磨かれていった。

 1年秋の時点で球速142キロに達していた西舘が、真価を発揮し始めたのは3年春からだ。持ち前のスローカーブとフォークが冴えわたり、球速も右肩上がりに伸びていった。

 同年夏の岩手大会では149キロを計測し、同校初の夏連覇に貢献した。

 高校からプロ野球へ──。その思いがなかったわけではない。ただ、確固たる自信もなかった。

 同郷の同学年には、花巻市出身で青森山田からドラフト1位で巨人に入団した堀田賢慎、陸前高田市出身で大船渡から同じく1位でロッテに入団した佐々木朗希(現・ドジャース)がいた。

 彼らの存在が、西舘の進路に少なからず影響を与えたのかもしれない。花巻東を卒業する際、色紙に書いた「4年後、ドラフト1位」という言葉が、西舘の胸の内をよく表していた。

【甲子園で記念すべきプロ初勝利】

 中央大に進んだ西舘は、4年後、色紙に書いたとおりドラフト1位で巨人に入団。プロとしてスタートを切ったのは2024年のことである。

 プロ野球ドラフト会議で指名された2023年の年末、故郷・岩手県花巻市で西舘のプロ入りを祝う祝賀会が開かれた。関係者約270人が集まった会で、西舘は「幼少期から多くの方に応援、そして支援していただき、感謝の言葉しかありません」と語った。

 会場ではメディアによる囲み取材も行なわれたが、西舘の声があまりにも小さく、報道陣から「もう少し元気な声でお願いします」と求められる場面もあった。それが西舘という人物である。だが、胸の内に秘めた思いはやはり熱い。

「ドラフト1位で選んでいただいて期待は感じています。先発か中継ぎかはまだわかりませんが、自分がやれることを精一杯にやりたい」

 高校時代よりも精悍な顔つきで、彼は言葉を並べた。

 背番号は、花巻東の出世番号でもある「17」。西舘はこうも言った。

「球団の歴代の選手の方々がつけてきて、また、花巻東にとっても特別な番号。岩手の方々に少しでも応援していただけるように、一軍で投げている姿をお見せできるように頑張りたいです」

 祝賀会から数カ月後の24年5月26日、西舘は高校時代も足を踏み入れた甲子園でプロ初勝利を手にする。

 同点の9回裏に登板した右腕は、先頭打者で中央大時代の1年先輩にあたる森下翔太を、自己最速タイとなる155キロのストレートでレフトフライに打ち取った。後続も抑えて三者凡退。直後の延長10回表に巨人が勝ち越し、プロ18試合目の登板で初勝利を手にした。

 座右の銘は「初志貫徹」。花巻東時代の野球部コーチからもらった言葉だという。西舘は言う。

「その日、その日の小さな目標、そして段階的な目標を持って取り組むことの大切さを高校時代に学びました」

 多くを語らずとも、目標に向かって努力を積み重ねる。抑えても、打たれても、表情を変えずに前だけを見つめるその姿を、プロ3年目の今も持ち続ける。

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