
沖縄尚学・末吉良丞インタビュー(後編)
末吉良丞(沖縄尚学/新3年)には、好調時のバロメーターがある。ボールをリリースするまでに、「今日は調子がいいな」と実感するポイントがあるという。
「トップの位置がカチッとハマると、リリースの時に背中が引き離れていく感覚があるんです。背骨から左の肩甲骨が伸びていく感じ。ボールをリリースする時に、あとひと押しできる感じがするんです」
【ベストピッチは2年夏の沖縄大会準決勝】
ベストピッチは2年夏の沖縄大会準決勝・興南戦だった。0対1とビハインドを追う6回表から、末吉はマウンドに上がった。力を入れているつもりはないのに、ボールは走っていく。自己最速タイの150キロを計測。4回を投げて被安打0、奪三振6、与四球1、失点0とほぼ完璧な内容だった。チームは3対1で逆転勝ちを収めている。
この試合に比べれば、昨夏の甲子園での状態は「ふつうでした」と末吉は振り返る。
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末吉の武器は、比嘉公也監督が「シュートハイ」と表現する、左投手特有の軌道にある。ストレートがシュート回転を強めながら、右打者の外角高めに浮き上がってくる。ただし、末吉は「シュートさせようと思って投げているわけではない」と語る。
「シュートハイ」というフレーズは、比嘉監督が以前から使っていたという。比嘉監督自身もシュートハイの使い手だった。
「体を開いて投げてシュートさせるのでは、空振りは取れません。しっかりと右バッターのアウトコース高めに投げ込めば、自然とシュートして逃げていく軌道になる。これは左ピッチャーの武器なので、前から生徒には教えていました」
末吉の場合は、シュートハイとは対の軌道になるスライダーも武器にする。このコンビネーションは、もはや高校生では難攻不落と言っていい。
さらに末吉の疲労に強い肉体も、昨夏の快挙を後押しした。末吉は「今まで肩・ヒジを一度も痛めたことがない」と明かす。
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「自分は連投しても肩・ヒジが張らなくて、背中の筋肉が張るんです。甲子園では肩甲骨と背中の間が筋肉痛のようになっていました」
【周囲の過剰評価に戸惑い】
だが、いくら逸材といっても、高校生である。好感触は長続きしなかった。U−18ワールドカップの試合を視察した比嘉監督は、末吉のボールを見て「なんか違うな」と違和感を覚えた。ストレートが走っていなかったのだ。
新チームに合流し、秋の大会が始まっても、事態は好転しなかった。幸い新垣有絃(新3年)ら公式戦登板経験のある投手が残っており、チームは九州大会ベスト8まで勝ち上がった。しかし、勝てば翌春の選抜出場が濃厚となる準々決勝で神村学園(鹿児島)に1対4で敗退。末吉はリリーフで最終回の1イニングを投げたが、本来の姿とはほど遠かった。
コンディションに問題があったわけではない。それなのに、どうして。当時の自分について語ってもらうと、末吉は「ただの勘違い野郎でした」と吐き捨てた。
「夏が終わってから、『期待に応えよう』と、周りをうかがって、過剰に反応していました。『自分はこうでなくちゃいけない』と、できないことまでやろうとして。秋はスピード、スピードと力で投げようとしすぎて、落ちるところまで落ちました」
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そして、末吉は再び「ただの勘違い野郎です」と繰り返した。
ドラフト上位候補や甲子園のスター選手が、周りの過度な評価や期待に苦しむことは珍しくない。自己評価と他者評価の大きなギャップ、世間との乖離を覚える。末吉もまた、同様な思いを抱いていた。
「自分は特別に突出したボールがあるわけでもないのに、ドラフト候補の評価で言えば『B』とか『A』とか飛び越えて、『S』くらいで評価されているなと。そこまでじゃないのにと感じることはあります」
末吉が「落ちるところまで落ちた」と語るように、冬場は投球練習をしても球速が133〜134キロ程度に留まったという。それでも、末吉の表情は暗くなかった。1年前には、もっとひどい状態をくぐり抜けていたからだ。
「1年秋の神宮大会は『こんなにスピードが出ないのか』と思うくらいダメで、そこからどんどん落ちていって、翌年の選抜前は128〜133キロくらいしか出ませんでした。大会直前の練習試合の最速が136キロでしたから」
【前に飛ばない真っすぐを目指している】
ところが、2年春の選抜初戦(青森山田戦)では、最速145キロをマークしている。末吉は「自分でもびっくりしました」と振り返る。
年間通していい状態をキープできない点は課題ながら、伸びしろとも言い換えられる。末吉はこんな展望を語った。
「前に飛ばない真っすぐを目指しています。ホームベース上でも打者のバットを押し込むような、力強い真っすぐ。今は軸が前にいかないよう、フォームを修正しているところです」
思わぬ僥倖も転がり込んできた。昨秋の明治神宮大会で、九州地区代表の九州国際大付(福岡)が優勝。「神宮枠」がもたらされ、本来であれば出場は絶望的だった沖縄尚学に選抜切符が届いたのだ。末吉は「九国さんには感謝しかないです」と語る。
インタビュー当日、シート打撃に登板した末吉は、チームメイトから何度も痛打を浴びて降板している。まだ本調子ではないのは明らかだった。
練習終了後、沖縄尚学のグラウンドを辞去しようとすると、末吉が挨拶にきてくれた。傍らにいた比嘉監督が末吉に話しかけた。
「今のおまえはこんなもんだよな。騒がれすぎだよな?」
すると、末吉は真顔で「はい」と答えた。比嘉監督に言わされた雰囲気はなく、本心のようだった。
末吉の答えを受け、比嘉監督は「でも、おまえ」と言って、こう尋ねた。
「自分の可能性まで否定しちゃうわけ?」
末吉はふっと微笑を漏らし、こう答えた。
「いえ、それは違います。こんなもんじゃないです」
どこか吹っ切れた表情だった。また一段、階段を上りつつあることがうかがえた。
春の選抜が開幕するのは、3月19日。稀代のサウスポー・末吉良丞はきっと、また新たな一面を見せてくれるはずだ。
