
■御年80歳『リトル・ミス・サンシャイン』プロデューサーの監督作が日本公開
現在80歳で、これまで『リトル・ミス・サンシャイン』(06)や『フェアウェル』(19)など数々の名作をプロデュースしてきたマーク・タートルトーブ。近年では、監督業も行っており、そのひとつ『カミング・ホーム』(原題:『Jules』)が日本公開される。
79歳の主人公ミルトン(演:ベン・キングズレー)をはじめ、主要登場人物たちは皆老人。ある日、ミルトンの家に宇宙船が墜落する――と聞くとありふれた物語に感じるかもしれないが、そこから始まるのは、決してありふれていない珠玉の物語だ。

永遠のオトナ童貞のための文化系WEBマガジン・チェリーではマーク・タートルトーブにインタビューをおこなった。多くの映画に触れ、そして作り出してきた人生で見出したこととは――。
■映画は「まず面白く。その上でメッセージ性を」
まずは『リトル・ミス・サンシャイン』などを振り返ってもらいながら、製作から監督まで、その映画作りにおいて貫いていることから語りだしてくれた。
「何よりも映画は、楽しくないといけないです。好奇心を駆り立てられるようなものであり、驚きがあり、ユーモアがないといけない。『リトル・ミス・サンシャイン』で言えば、お父さんが死んでも遺体がバンの後ろにあったり、女の子がストリップ的な踊りをしたりと、新鮮な驚きがある。今回の『カミング・ホーム』も、小柄な宇宙人が出てきて猫の死骸を集めようとするなんて、なかなか思いつかないですよね。その上で、しっかりとメッセージ性があることが重要です。『リトル・ミス・サンシャイン』でいえば、成功するか否かは考えずに、本当に好きなことに身を投じなさいというメッセージがある」

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■自分の声に耳を傾けることでわかること
人生において、本当に好きなことに身を投じる――それは、タートルトーブ自身が実践してきたことでもある。
「私は小さい頃、自分でオリジナルの新聞を作って、近所に配り歩くような子どもでした。その頃から、ストーリーテリングというものがしたかったんでしょうね。だから、若い人に職業選択のアドバイスをするときには、『自分が小さかった頃に何を楽しくやっていたかを思い出して。おそらくそれがあなたのするべきことだ』と言うようにしています」
自分を見つめることが必要なのは、何も若者に限ったことではないだろう。『カミング・ホーム』でも、老人たちが自分を見つめ直していく。そしてそのきっかけとなるのが、喋らない宇宙人・ジュールズだ。
「今の社会の中には、自分の存在を認めて欲しいけど、認めてもらっていないという感覚の老人が数多くいると思うんですね。そういう環境の中では、人間はやはりどんどん内向きになっていきますし、肉体そのものだって、曲がって、小さくなっていってしまうかもしれない。
このストーリーの素晴らしいところは、ジュールズという全く口を利かないキャラクターを通じて、その周りにいる人間たちが、秘められていた自分の声を徐々に見出していくところなんだと思います。

この老齢者達は、ちゃんと耳を傾けてくれる人がいなかっただけで、自分の魂の灯はともし続けていたはずなんです。そこにジュールズが現れたことで、対話していくようになる。面白いのは、ジュールズ自身は何も喋らないところで、ただただ耳を傾けている。それでも、彼らは心を開示し、三人同士の人間関係も少しずつ開けてくる。何も喋らない宇宙人を通じて、人々が自分の声を見出していくというその意外性がとても素敵ですよね。素晴らしい脚本と俳優たち同士の化学反応による、いい錬金術の末、この作品ができたかなと思います」
■歳を重ねていく上で重要なオーセンティシティ

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この作品を踏まえて、タートルトーブは、歳を重ねる上で重要なのはオーセンティシティ(authenticity)だと教えてくれた。
「やはり、真の自分をちゃんと持って生きていくことが大事なんだと思います。人に何と言われようと、何と思われようと構わずに、思いっきり自分の人生を生きること。監督業をやっていく中でも感じましたが、いくらでも失敗はしますし、批評家たちから作品を批判されることもある。それでも、自分に集中する。真の自分を生き抜き続けて、やり続けるしかない。それは、色々な映画が僕に教えてくれたことです。仮に体や、メンタルの機能が衰えていったとしても自分自身の生を精一杯生きていくんです」
真の自分を生き続ける――それはタートルトーブ自身はもちろん、『カミング・ホーム』や『リトル・ミス・サンシャイン』といった彼の作る物語の登場人物たちの背中が示してくれている。
(取材・文:霜田明寛)
(通訳協力:今井美穂子)
■公開情報
映画『カミング・ホーム』
3月20日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開監督:マーク・タートルトーブ
脚本:ギャビン・ステクラー
キャスト:ベン・キングズレー、ゾーイ・ウィンターズ、ハリエット・サンソム・ハリス、ジェーン・カーティン、アンナ・ジョージ
2023年/87分/アメリカ/中国語/5.1ch/原題:Jules/カラー/提供:キングレコード
配給:NAKACHIKA PICTURES 宣伝:Stranger
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