新たな変異株が流行の兆し!? 蝉とバギーとBA.3.2(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

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2026年03月21日 08:10  週プレNEWS

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研究者も「信じられない…」と驚く新たな変異株が出現。新たなオミクロン「BA.3.2」とは?(イラストはChatGPTで作成)


研究者も「信じられない...」と驚く新たな変異株が出現。新たなオミクロン「BA.3.2」とは?(イラストはイメージです)

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第166話

忘れられたはずの変異株が、再び姿を現した――。少年漫画の伏線回収のように、新型コロナの系譜に潜んでいた「BA.3」とは?

【図表】オミクロン3兄弟が生まれた時期を推定

* * *

【少年漫画の常套手段と、現在の新型コロナの流行状況】

一度は物語から退場したように見えたモブっぽい登場人物が、物語の後半でパワーアップして再登場する。あるいは、序盤で放置されたように見えた設定が、ずっと後になって伏線として回収される。

こういうのは、少年漫画でよく見られる物語展開である。連載中の漫画の中では『ONE PIECE』(尾田栄一郎・作)のバギー、そして、世代がバレる過去の例では、『DRAGON BALL』(鳥山明・作)のレッドリボン軍や、『AKIRA』(大友克洋・作)のテツオなどがこれに当てはまるだろうか。

「新型コロナウイルス」という言葉が大手既成メディアから姿を消してから、だいぶ時間が経った。「新型コロナウイルス学者」のコラムであるはずのこの連載でも、新型コロナの流行状況について触れたコラムは、2024年7月の「第11波」に言及したもの(57話)、あるいは、緊急事態宣言発出から5年の節目を振り返った2025年4月のコラム(101話)まで遡ることになる。

2023年末に出現し、2023年冬の「第10波」の原因となった「JN.1」という変異株がある(28話)。それからおよそ2年以上もの間、その子孫株にあたるさまざまな「子どもたち」が世界を席巻し続けてきた。

あえて無機質なコードネームだけを列記しておくと、JN.1の後には、XECやLP.8.1、NB.1.8.1、XFGなどの「子どもたち」が出現し、世界各国で流行の波を繰り返していた。ちなみに参考まで、日本では、2024年冬の「第12波」はXEC、2025年夏の「第13波」はNB.1.8.1という変異株が主役だった。

――しかし、盛者必衰は世の常。新型コロナ変異株の主役だった「JN.1一族」に、ここにきて翳(かげ)りが見え始めている。

「JN.1一族」からかけ離れた、まったく新しい変異株が席巻する兆(きざ)しが見えてきたのである。

【「BA.3.2」という伏線回収】

――その変異株のコードネームは、「BA.3.2」。

今でも新型コロナの研究を続ける研究者、あるいは、熱心でギークな「変異株ハンター」でもなければ、このコードネームを見ても何も思わないだろう。

このBA.3.2株こそがまさに『ONE PIECE』のバギー、つまり、このコラムの冒頭で紹介した、「新型コロナ変異株の進化」という物語の壮大な伏線回収なのである。

――と、BA.3.2株の紹介に入る前に、まずはすこしおさらいを。

2021年の年の瀬、「オミクロン株」が突如出現し、世界は騒然となった。

かつてない速度で進められた新型コロナウイルスワクチンの大規模接種によって、デルタ株の封じ込めにほぼ成功。東京オリンピックを終えた2021年晩夏からのおよそ数ヵ月間、本邦でも新規感染者数がほとんどゼロの、「凪」の航海の時間があった。

そんな静謐を突然打ち破ったのがオミクロン株である(当時の状況については16話を参照)。しかもこのオミクロン株は、「一人っ子」ではなく「兄弟」だったのである。

まず、先頭を切って2021年末の世界を混乱の渦に陥れたのが、「オミクロン兄弟」の長男たるBA.1株(16話)。

それから遅れることひと月。2022年初頭から流行拡大し、先行していた長男BA.1株を追いやる形で流行を押し進めたのが、次男たるBA.2株(43話)。

2022年始めの日本の「第6波」は、このふたりの兄弟、BA.1株とBA.2株によって引き起こされた。

「BA.1とBA.2」は、当時の大手既成メディアでもよく取り上げられていたので、このふたつのコードネームには聞き覚えのある読者も多いのではないだろうか。

――しかし実は、オミクロン株は「3兄弟」だったのである。有名になったふたりの兄の影にひっそりと隠れた「末っ子」がいたのだ。それがBA.3株である。

以下の図は、G2P-Japanが2022年に科学雑誌『セル』に発表した論文(44話を参照)に載せた図のひとつである。


G2P-Japanが科学雑誌『セル』に発表した論文に載せた図のひとつ。オミクロン3兄弟が生まれた時期を推定したもの。

左の「A」とラベルされた図は、オミクロン株出現最初期に、南アフリカから報告されたBA.1、BA.2、BA.3それぞれの「系統樹」。この解析を元に、それぞれが生まれた時期を推定した結果が、右の「B」とラベルされた図である。

この解析によると、長男BA.1は、2021年9月17日(September 17, 2021)ごろに出現したと推定されている。一方、次男BA.2と三男BA.3は、長男BA.1からは少し遅れて、どちらも11月6日(November 6, 2021)ごろに生まれたと推定されている。

このように、オミクロン株が出現した当初から、これが「3兄弟」であることは、われわれG2P-Japanはもちろん、世界中の研究者が把握していた。

しかし研究者たちは、BA.1株とBA.2株という流行の主役であるふたりの兄弟を相手にすることに手一杯で、脇役でしかない末っ子には見向きもしなかった。調べる余裕もなかったし、そもそもBA.3株には、流行拡大する兆しがまるでなかったからだ。

つまりBA.3株は、生まれたときから「認知」はされていたものの、誰にも相手にされない「できそこない」、ネグレクトされた存在だったのだ。

文/佐藤 佳

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