1勝15敗で、なぜ生き残れたのか アキッパの「やめる」意思決定

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2026年03月21日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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気づけば全国に広がっていた、アキッパの現在地

 経営者は「やめる」という意思決定を、どのように行っているのだろうか。その事業に投じたお金、毎日少しずつ積み上げてきた時間、関わってきたたくさんの人。そうしたものが多ければ多いほど、手放すことよりも、「続けたほうがいいかも」といった考え方に偏りがちだ。


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 そんな中で、あえて“やめる”を積み重ねてきた会社がある。駐車場シェアリングサービスを運営する「アキッパ」(大阪市)だ。これまでに立ち上げた事業は17。その多くをやめて、いまはほぼアキッパ一本に絞っている。


 駐車場シェアリングサービスとは、空いている月極駐車場や個人宅のスペースを、スマートフォンから予約して使えるサービスだ。コインパーキングのように現地で探すのではなく、「行く前に確保」できるので、仕事で利用しているビジネスパーソンも多い。オーナーは初期費用0円で始められ、空いている時間だけ貸し出して収入にできるのがメリットだ。


 サービスは全国に広がっていて、登録駐車場は約5万5000件、会員数は510万人を突破した(いずれも2025年12月末時点)。プロ野球やJリーグのスタジアム周辺、花火大会やフェスなど、「その日だけ極端に混む場所」での利用が増えているのも特徴だ。


 アキッパの売上高も、ここ数年でじわじわと伸びている。ちょっと前の数字になるが、2023年度の売上高は約26億円で、純利益は8597万円。長く続いた先行投資のフェーズを抜けて、初の黒字を実現した。スタートアップの中には一気に大きく伸びる会社もあるが、同社はそうではない。コツコツ積み上げてきたものが、ここにきて数字として見えてきた、というタイプである。


 派手さはないけれど、「あ、そこにあったのね」という気付きを積み重ねてきたサービスだ。言い換えると、なくても困らないが、あるとちゃんと助かる。そんな存在として、じわじわと広がっているのだ。


●困りごとを解決できるかどうか


 アキッパの歴史を振り返ると、創業当初は「なんでもやる会社」だった。2009年に営業代行からスタートし、スポーツバー、モバイルショップ、求人サイト、メディア、イベント……。思いついたらすぐにやる、という感覚に近かった。売り上げを伸ばすことを優先し、「何のために、この仕事をしているのか」は後回しになっていたのだ。


 同社の金谷元気社長に、印象に残っている事業を聞いてみた。すると、「成果型アルバイト求人サイト」(2012年開始)という答えが返ってきた。企業は掲載料金が無料で、1人採用が決まるごとに3万円を支払うビジネスモデルだ。当時、リブセンス(東京都港区)の成果型求人サイトが話題を集めていたので、「ウチの会社もチャンスがあるのではないか」(金谷社長)と考えていたそうだ。


 営業部隊が企業を回り、クライアントを次々に獲得していった。しかし、である。同社にとって「応募者を集める」という業務は初めてであったこともあり、想定以上に苦戦した。結果、4年でサービスを終了。「いま振り返ると、もう少しうまくできていたのではないかと思う。ただ、当時は資金面の余裕がなく、残念ながら事業を撤退した」(金谷社長)


 アキッパにとっての転機は、2013年に訪れる。それまで「売り上げを伸ばす」ことを優先していたが、ここで「困りごとを解決する」方向へと舵(かじ)を切る。


 その背景には、課題をマトリクスで整理して考えるやり方があった。縦軸に「解決が難しいかどうか」、横軸に「困っている人が多いか少ないか」を置き、その中でも「困っている人が多く、しかも解決が難しい領域」を狙う。これによって、新規事業は思いつきではなく、「困りごとを解決できるかどうか」を考えて選ぶようになっていった。


 この変化は、始め方だけでなく、やめ方にも影響を与えた。2016年、同社は大きな決断を下す。ほぼ全ての事業から撤退したのだ。求人、美容師向けサイト、営業代行……。中には利益が出ているものもあったが、それでも手放した。理由は1つ。2014年にスタートした「アキッパ」に、すべてのリソースを集中するためである。


 いわゆる「選択と集中」だ。言葉にすればシンプルだが、実際にやるのは簡単ではない。特にスタートアップにとって、黒字の事業は大事な収入源でもある。それでも同社は、これから伸びると考えた事業に絞った。当時のことについて、金谷社長は「撤退の寂しさを感じる余裕すらなかった」と振り返る。


●実証実験がうまくハマった


 では、なぜアキッパは駐車場シェアリングサービスを「残すべき事業」と判断したのか。サービスを始めた当初、駐車場は約700台分しかなく、初月の売り上げはわずか2万円だった。どのようにすれば、利用者数を伸ばせるのか。さまざまな手を打っていく中で、ある実証実験がうまくハマった。


 大阪環状線の内側で、駐車場を集中して設置するのはどうか。いわゆるドミナント戦略である。250メートル四方ごとに駐車場を1台確保したところ、どのような結果になったのか。「大阪のこのエリアに行けば、クルマを停められる」と認識するユーザーが増え、売り上げがどんどん伸びていったのだ。


 駐車場の数が増えれば、ユーザーが増える。ユーザーが増えれば、オーナーが集まる。いわゆるネットワーク効果(サービスの価値がユーザー数に比例して増加する現象)だ。ドミナント戦略は大阪だけでなく、他の都市でも導入したところ、同じようにユーザー数が増えていった。


 個人的に興味深く感じたのは、その後の展開である。この市場には、楽天、リクルート、NTTドコモ、ソフトバンクといった大企業が参入した。しかし結果として、多くが撤退している。理由はいくつか考えられるが、共通するのは「やり切る前に見切った」ことだ。


 たくさんの事業を抱える大企業では、一つに割けるリソースは限られる。ネットワーク効果が立ち上がる前に、撤退の判断を下したので、「駐車場数とユーザー数の相関関係」を十分に確認できないまま終わった。


 一方のアキッパは、粘り続けた。駐車場のオーナーに、自社のサービスを紹介しなければいけない。そのためには、自宅のチャイムを押して、話を聞いてもらわなければいけない。時代に逆行するかのような営業で駐車場を開拓し、ドミナント戦略でユーザーを増やす。そうした泥臭い積み重ねが、結果として差を生んだ。


 さらに、副産物もあった。大企業が参入したことで、「駐車場をシェアする」というサービスそのものの認知が広がったのだ。


●1勝15敗


 冒頭で「いまはほぼアキッパ一本に絞っている」と紹介したが、同社は11年ぶりに新規事業に踏み出した。2025年にリリースした「エンチケ」は、ライブチケットの販売に加え、ファン同士やアーティストとつながれる音楽SNS機能を組み合わせたサービスだ。ただし、かつてのように「思いついたからやる」わけではない。同社の強みである「移動」と「体験」をつなぐ事業だ。


 エンチケから撤退する可能性はあるのか、という質問に対し、金谷社長は「それは分からない。やってみないとね」と、なにがなんでも続けるのではなく、状況を見ながら判断していく考えのようだ。


 ここまでの戦績を振り返ると、アキッパは1勝15敗(エンチケは含まず)。数字だけ見ると、なかなかの負け越しだ。それでも、最後に残った1つが、いまの主力事業になっている。


 やめることを重ねてきたからこそ、何を残すべきかが少しずつ見えてきたのかもしれない。



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  • アキッポイから、やめた訳じゃないのだな。
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