
宇宙の大発見は、綿密な計画だけで生まれるとは限りません。むしろ、思いがけない偶然が扉を開くこともあります。
今回ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたのは、まさにそんな瞬間でした。観測していたのは別の天体。そこへ飛び込んできたのは、彗星が崩れ始める決定的な一瞬でした。
この研究成果は、2026年2月6日付の学術誌『Icarus』に掲載されました。
NASAは、ハッブル宇宙望遠鏡が彗星「C/2025 K1 (ATLAS)」の分裂過程を捉えたと発表しました。太陽に接近してからおよそ1カ月後、まさに崩壊が進むタイミングでの観測です。彗星崩壊の過程をここまで間近で記録できた例は、ほとんどありません。
|
|
|
|
しかも、この発見は計画されたものではありませんでした。もともと別の彗星を観測する予定だったものの、技術的な事情で対象を変更。その新たな観測を始めた直後に、偶然この彗星の異変に出くわしたのです。
研究チームのジョン・ヌーナン氏は「こんなことはほとんど起こりえない」と振り返ります。翌日、取得した画像を確認した際、本来1つのはずの彗星が複数に分かれて写っていることに気づき、初めて異変を理解したといいます。
ハッブルの高い解像度によって、彗星K1は少なくとも4つの破片に分かれている様子が確認されました。それぞれの周囲には、氷の核から放出されたガスや塵が広がり、ぼんやりとした光の包みのように見えています。
この彗星は直径およそ8キロと推定され、平均的な彗星よりやや大きい天体でした。太陽に最も近づく「近日点」は水星の軌道より内側にあり、強烈な熱と重力の影響を受けます。その負荷によって内部構造が耐えきれなくなり、崩壊に至ったと考えられています。
興味深いのは、分裂した直後にすぐ明るくならなかった点です。通常、彗星は壊れると内部の氷が露出し、一気に輝きを増すと考えられています。しかし今回は時間差がありました。
|
|
|
|
研究チームは、いくつかの可能性を挙げています。たとえば、氷の表面を覆う塵の層が一度形成され、それが吹き飛ばされて初めて明るくなるケース。あるいは、熱が内部に蓄積してから一気に放出されるケース。いずれにしても、彗星内部で起きている現象の複雑さを物語っています。
彗星は、太陽系が生まれた頃の物質を今に残す存在とされています。いわば「宇宙の化石」のようなものです。ただし長い年月の中で、太陽の熱や宇宙線の影響を受け、その表面は変化しています。
だからこそ、分裂の瞬間は特別です。内部に閉じ込められていた、ほとんど手つかずの物質が露出する可能性があるからです。今回の観測は、その貴重なチャンスをつかんだものでもあります。
すでに地上観測から、この彗星は炭素が少ないという特徴を持つことが分かっており、一般的な彗星とは異なる性質を示しています。今後、ハッブルに搭載された分光装置による詳しい分析が進めば、太陽系の成り立ちに関する新たな手がかりが得られるかもしれません。
現在、この彗星は破片となって、地球から約2億5000万マイル(約4億225万km)離れた場所に散らばり、太陽系の外へと向かっています。この途方もない距離は、太陽から火星の軌道までの平均距離(約2億2790万km)よりも遠くに相当し、再び戻ってくることはないと見られています。
|
|
|
|
今回の発見は、偶然がもたらした出来事でした。しかしその一瞬が、長い時間をかけて形成された宇宙の歴史を読み解くヒントにつながる可能性があります。そんな視点で夜空を見上げると、少しだけ世界が違って見えてくるかもしれませんね。
NASA「NASA’s Hubble Unexpectedly Catches Comet Breaking Up」
PHYS ORG「NASA's Hubble unexpectedly catches comet breaking up」
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。