5Gマネタイズの切り札「ネットワークスライシング」始動 ドコモとソフトバンクの戦略差、海外の先行事例を読み解く

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2026年03月28日 06:10  ITmedia Mobile

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ドコモビジネスとドコモは、3月26日から法人向けの5Gスライシングを開始した。5G SAのネットワークスライシングを活用したサービスだ。写真はデモの様子

 5Gをマネタイズするための手段として有力視されている技術の1つである「ネットワークスライシング」が、日本でも徐々に広がり始めている。3月26日には、ドコモビジネスがドコモのネットワークで法人向けに「5Gスライシング」を開始。混雑時でも安定した通信を可能にするサービスとして、工場や放送メディアなどへの提供を視野に入れる。


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 ソフトバンクも、3月27日に三重県の鈴鹿サーキットで開幕した「F1日本グランプリ」で、ネットワークスライシングを導入しており、サービスごとにネットワークを切り分けて提供する。同社は2023年に「プライベート5G(共有型)」としてネットワークスライシングを提供しているが、その高度化を図る。


 KDDIも2025年に放送事業向けのサービス提供を開始した。5G SAが広がりつつある中、次の一手として注目されるネットワークスライシングだが、現在は法人、それも特定業種が中心だ。一方で、導入が先行する海外キャリアではコンシューマー向けへの応用が図られているケースもある。始動しつつあるサービスや諸外国の動向から、次の一手を読み解いていきたい。


●ローカル5Gより安価に安定通信を提供するドコモビジネス


 ネットワークスライシングとは、仮想的にネットワークを切り分ける技術のこと。5G SAで導入された機能の1つで、端末や用途によって求められる要件に合わせてネットワークを最適化し、提供するためのものだ。通常以上の安定性が必要な場合や、遅延を低くしたいとき、さらには一定のスループットが必要なサービスを利用する際に導入される。


 仮想的にネットワークを切り分けているため、ローカル5Gとは違ってその場所専用の設備を引く必要はない。一般ユーザーも混在する通常のネットワークをそのまま利用できるため、そのぶん、コストも抑えられる。実際、3月26日にサービスを開始したドコモビジネスも、ローカル5Gや通常ネットワークで優先制御を行う「5Gワイド」の中間的な特徴を持ったサービスとして5Gスライシングを導入している。


 利便性の高いサービスだが、制御は5Gコアで行うため、ネットワークには5G SAが必要になる。4Gと組み合わせて使うNSAの5Gでは利用できない。ネットワークスライシングを活用したサービスの事例が増えてきた背景は、ここにある。5G SAのエリア化で先行するKDDIは、3月までに人口カバー率を90%超まで引き上げる計画。ソフトバンクは具体的な数値を明かしていないものの、2025年からエリアを急拡大させている。


 こうした中、ネットワークスライシングを活用した商用サービスが徐々に増えている。上記のドコモビジネスが開始した5Gスライシングは、その1つだ。このサービスは、法人向けに常時利用プランと予約利用プランの2つを用意。一定の帯域を法人ごとに確保することで、より安定した通信を可能にする。


 常時利用プランは工場や駅、空港などの敷地内で、半固定的に利用するような用途を想定。予約利用プランは、スタジアムなどでイベントの際に必要な帯域を確保するために利用する形になる。料金は確保する帯域と使用するセル(基地局がカバーする範囲)の組み合わせで決まるといい、回線ごとの課金とは異なるという。


 ドコモビジネスでは、基地局などをユーザー側で設置しつつ、コアネットワークでの制御にドコモ網を使ってコストを削減した「ローカル5G TypeD」を提供しているが、これはあくまで通常のローカル5Gと比較したときの話。「月額でいうと、最終ユニット50万円ぐらいから提供している」(プラットフォームサービス本部 5G&IoT部 第二サービス部門長 岩本健嗣氏)といい、一般的な回線よりは高くなる。


 これに対し、5Gスライシングは「コンシューマーも含めて通常の5G SAを構築し、その中でスライシングを含めて(帯域の)占有や安定化をやっていく」(同)ため、より安価に提供しやすい。また、通常のネットワークを利用するため、5G SAエリアであれば適用可能になる。上記の例で言えば、イベントを実施する会場を変えても利用できるメリットがある。


●ソフトバンクはF1で高度化に挑戦 5つのスライスを同時に提供


 ただ、ドコモビジネスの5Gスライシングは現状だと、安定通信のために帯域の確保を主にしており、低遅延や安定性向上など、他のパラメーターを用いたスライスは用意されていない。単一設定のスライスを企業側が活用する形だ。また、端末内のアプリごとに適用するスライスを切り分ける「URSP(User equipment Route Selection Policy)」も導入されていない。


 ソフトバンクも法人向けのサービスとしてネットワークスライシングを活用したプライベート5G(共有型)を提供しているが、F1日本グランプリの会場ではそれを高度化。「これまで個別に培ってきたノウハウを、同時に実行している」(テクノロジーユニット統括 インフラ技術戦略室 室長 藤野矩之氏)という。


 F1日本グランプリでは、2つの技術を組み合わせた。1つが、本稿でテーマにしているネットワークスライシングだ。しかも、「今回の日本グランプリでは5つのスライスを同時に提供した」(同)。1つ目が高品質な5G SA用のスライスで、これは一般ユーザーのスマホにも適用されるものだ。


 2つ目が、会場で提供するXRコンテンツ用のスライスで、「コンテンツとして必要な速度が決まっているので、なるべくそこを担保し、遅延も最適化できるパラメーターが入っている」(同)。


 これに近いのが、ミリ波を使った映像伝送のスライスだが、「非常に容量が大きい」(同)のが特徴。ミリ波を使った上で、スライスも切り分けている。ミリ波は、もう1つのスライスでも活用しており、こちらはルーター(CPE)で電波を受信した上で、Wi-Fiに変換して一般ユーザーにも提供する。


 これら4つのスライスは、いずれも一定の容量を確保している点は共通しており、遅延の要件やミリ波を使うかどうかが差分になるが、もう1つは決済端末用。「ものすごいキャパシティーが必要なのではなく、確実に遅延なくつながることが重要視される」(同)ため、そのパラメーターを当てはめている。


 また、「ネットワークの状況は時々刻々と変わるので、それを適切にコントロールするのが重要」(同)になる。そのため、各スライスのネットワーク状況を把握し、「1分ごとに自動で最適化することに取り組んでいる」(同)。あくまで実証実験という位置付けだが、一般ユーザーの回線も含めてスライスを提供し、より高度な商用サービスの展開も目指している。


●諸外国で進むネットワークスライシングの事例、コンシューマー向けもあるか


 もっとも、ネットワークスライシングの本格活用にはまだ課題も多い印象を受けた。1つは、5G SAのエリアだ。特にドコモに関しては、KDDIやソフトバンクと比べると5G SAの展開が遅れており、ネットワークスライシングを適用できる場所が限定される。ドコモビジネスの岩本氏も、「SAエリアがネーションワイド(全国規模)に広がっていないため、今回われわれがスライシングを提供するのは、面的というより固定的なユースケース」と語る。


 半固定的な使い方であれば、「お客さま要望エリアという形で基地局を作っていくことがある」(同)ので、エリアの狭さはある程度カバーできる。例えば、自動運転のような幅広い場所で通信が必要になる用途を想定すると、エリアの拡大は必須。コンシューマー向けにスライシングを活用したサービスを提供する上でも、エリアの広さは欠かせない要素になる。


 5G SAで先行している海外キャリアに目を移すと、法人利用に加え、コンシューマー向けサービスにもネットワークスライシングを活用し、収益化している会社もある。3月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC26 Barcelonaでは、こうした実績を成功事例として共有しているキャリアも存在した。


 シンガポールのSingtel(シングテル)は、エリクソンのブースで最新の動向を解説。同社は2022年にソフトバンクと同じF1シンガポールグランプリで、ネットワークスライシングを活用した動画配信を提供。ワールドカップでも、ユーザー向けに優先帯域を割り当てるサービスを実施している。


 また、現在は「5G+ Priority」というサービスを提供しており、コンシューマー向けにも料金プランに応じた通信品質を提供している。エリクソンによると、F1やワールドカップのようなシンプルなネットワークスライシングから段階的に複雑な仕組みを導入していくことで、より広いユーザーに受け入れられるサービスに育ててきたという。


 Singtelの担当者は、より高品質なサービスを提供することでユーザーの満足度が向上するとともに、5Gへの移行も進んで収益化にも貢献したと話す。他にも、ドイツのドイツテレコムが「5G+ Gaming」という名称でストリーミングゲームをより低遅延で遊べるオプションを提供しているが、5G SAで先行する中国でも同様の事例は多い。


 法人向けのような特定用途や半固定的な場所に限定される日本のネットワークスライシングは、まだ初期段階のもので導入が早かった国と比べると後れを取っているようにも見える。一方で、KDDIが優先制御の「au 5G Fast Lane」をネットワークスライシングへの橋渡し的な役割に位置付けているように、サービスの立ち上がりを予感させる動きもある。2026年度からの各社の動きにも注目しておきたい。



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