「部長、それってアゲですか?」 沈黙の会議を壊すギャル、大手企業が頼るワケとは

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2026年03月30日 05:10  ITmedia ビジネスオンライン

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ギャル式ブレストを展開

 「ため口で話すこと」「互いをあだ名で呼び合うこと」「役職や肩書は公開しないこと」「5分以上沈黙しないこと」「持っている服の中で一番好きな服を着ること」――。一見すると遊びのようにも見えるこれらのルールが、今、大企業の会議室に変化をもたらしている。


【画像を見る】代表バブリー氏、所属するギャルぷうちゃん


 企業の会議に「ギャル」が混ざり、知識や経験、忖度(そんたく)なし話し合うことで、組織活性化を図るサービスが注目を集めている。手掛けるのは、ギャルのバブリー氏(本名は竹野理香子氏)が代表を務めるCGOドットコム(東京都渋谷区)だ。日系大手企業を中心に、累計導入社数は120社以上に上る。


 なぜ今、ビジネスの現場で「ギャル」が求められているのか。バブリー氏に話を聞いた。


●忖度をなくす「ギャル式ブレスト」の仕組み


 CGOドットコムが提供するのは、独自に開発した「ギャル式ブレスト」だ。記事冒頭で紹介した5つのルールのもと、ギャルと企業の社員が同じテーブルで話し合う。ギャルとの直感的でフラットなコミュニケーションを通じて、参加者の本音やアイデアを引き出すのが狙いだ。


 扱うテーマは一般的な企業会議と大きく変わらない。新規事業のアイデア創出や既存事業の改善など、実務に直結する議題について議論する。


 ギャルは自らアイデアを出すのではなく「引き出し役」として活躍する。参加者が意見をなかなか出せない場合は「何が好き?」「趣味は?」「いつも何しているの?」といった問い掛けで場をほぐし、自然な発言を促す。


 プログラムは約1.5カ月の事前ヒアリングと課題整理から始まり、当日3時間のセッション、さらに1カ月後の振り返りまでを含む。導入企業の8〜9割は大手企業で、新規事業や研究開発部門からの依頼が多いという。


 振り返りでは「ギャルマインド指数」によって変化を可視化する。CGOドットコムでは、ギャルマインドを「自分軸」「直感性」「ポジティブ」の3つに分類して定義している。


 「他人ウケより自分ウケ!」で自分の意思を尊重する「自分軸」、「それいいじゃん!」「かわいい!」と自分の感情を素直に表現する「直感性」、物事を前向きに進める「ポジティブ思考」の3つだ。アンケートを通じて実施前後の変化を数値化し、組織の状態を測る。


●なぜ「ギャルマインド」が求められるのか


 こうしたサービスが求められる背景には、大企業ならではの悩みがあるようだ。新規事業の創出が求められる一方で、会議では上層部だけが発言し、若手が沈黙するケースも少なくない。結果として、新しい発想が生まれにくくなる。


 企業では「会社・上司のため」「数字を出さなければいけない」「現実的に考えて無理だ」といった発想に偏り、ギャルマインドとは逆の会話になっていることも多いという。


 バブリー氏は「会社での役割に沿った忖度的な意見ではなく、その人らしい、本当にやりたい思いを引き出すコミュニケーションを体現してほしい。大企業ならではの文化を壊す“起爆剤”として使っていただくことが多い」と説明する。


 ため口やあだ名といったルールも、そのために設計されたものだ。「役職を取っ払って、話し方・人格・見た目を変えてみることで、自分の中の“ギャル像”を意識しながら話せるようにしている」という。


 実際、導入した企業からは「こんなに部下が発言しているのを初めて見た」「今までは社内リソースから事業を作ってきたけれど、もっと自由な発想でいいんだと気付いた」といった声が寄せられている。導入企業の約4社に1社は、別部署での再実施や同一部署でのリピートにつながっているそうだ。


●研修から実装まで広がる「ギャルマインド」


 CGOドットコムでは、ギャル式ブレストを活用したアイデア創出にとどまらず、その後の社会実装までを見据えた「ギャル式スタジオ」も提供している。物流事業を手掛ける日本貨物鉄道(JR貨物)との取り組みでは、2月にイベント施設「マイラボ渋谷」(東京都渋谷区)に「ギャル神社」を設置した。


 JR貨物はBtoB企業なため、特にZ世代を中心とした消費者との距離に課題があった。そこで2024年9月にギャル式ブレストを実施。その結果「走行中にビールを醸造するコンテナ」「踏切の待ち時間に流れる音楽」「コンテナで地方のキレイな空気を運ぶ」といった自由な発想が生まれた。


 その中で参加者から「貨物は単に『モノ』を運ぶだけでなく、『思い』を運ぶ」という意見が出た。これをギャルの感性で解釈すると「バイブス(熱量や感情)を運ぶこと。バイブスを届けるなら神社だよね」という結論に至ったという。


 バブリー氏は「『誰かの大切なものを運ぶ』という物流の本質は、実は『誰かの気持ちをアゲる』というギャルマインドと深く通じている」と話す。


 会場には、ピンクの鳥居などを設置したフォトスポット「ギャル神社本殿」を設けた。この他、恋や推し、自分自身へのエールを後押しする「愛のアゲみくじ」(無料)、ギャル巫女(みこ)が思いを受け止め、祈りに変える「好きを届けるアゲ祈り体験」(1000 円・お守り付き)を用意した。


 お守りは、JR貨物の制服を再利用したキーホルダー型だ。制服に込められた「全国に貨物を運び続ける」という思いを重ねている。


 バブリー氏は、こうした社会実装に力を入れる理由について「社員一人一人の意識が変わるのはもちろんだが、その変化を外にも広げていきたい。消費者にギャルマインドを体現して届けていきたい」と話す。


●「やってみたい」を引き出す ギャル式1on1


 2025年7月からは、ギャルマインドをベースに、従業員の「できるかも」「やってみたい」といったポジティブな感情を引き出し、行動の変化を促す「ギャル式1on1」を開始した。これまでギャル式ブレストで培ってきたノウハウを基にしたコーチングサービスだ。


 例えば、ある企業の新規事業部門における40〜50代の中間管理職では、業務は問題なくこなせており今後のキャリアも見えている一方で、かつてのように自ら挑戦しようとする“バイブス”が低下していることが課題だった。


 1on1を通じて、彼らの挑戦したいこと・やりたいことをギャルたちが引き出す。実施後には「こういうことをやってみたい」「実は入社当時はこういうことに挑戦したかった」といった発言が出るようになったという。そして「じゃあやってみようよ」「こういう形ならできるんじゃない?」という形で、ギャルが具体的な行動を促していく。


 1on1で活躍するギャルの中にはコーチングの資格を取得しているメンバーもおり、ギャル式ブレストでの経験を生かして選抜されたメンバーで実施しているという。


●「ギャル式1on1」を筆者が受けてみた


 入社1年目の筆者(ニックネーム:よね)も「ギャル式1on1」を体験した。通常は6カ月のプログラムだが、今回は初回セッションを想定して実施。1on1の最中も、ギャル式ブレストと同様に、ため口やあだ名で呼び合うといったルールが適用される。担当ギャルは、「ぷうちゃん」だ。


 セッションは「ウチはウチ。ウチまじ最強。ウチまじギャル」と唱える「ギャルマインドの祈り」からスタート。これにより、ギャルが自分に“降臨する”という。


 まずは事前に記入していた「アゲメーカーシート」に基づいて自己紹介を行う。今ハマっていることや、休みの日の過ごし方などを記入したものだ。ぷうちゃんは一つ一つを深掘りしながら「最高じゃん、アゲだね!」と全肯定してくれる。その後、話題は具体的な業務課題へと移った。


ぷうちゃん:業務において、目標としているものってある?


よね:1カ月に20本、取材記事を書くことかな。


ぷうちゃん:すごいね! その目標の上でどうしたい? 取材の品質を落としたくないとか。


よね:記事の質を上げたい。取材相手の本音を引き出して、深掘りできるようになりたい。


 目標が決まると、次は自分の「強み」の分析に移る。目標や強み、振り返りなどを記入する「アゲ計画書」と呼ばれるシートに書いていく。


ぷうちゃん:「ウチのつよつよポイント」、つまり自分の強みはどこだと思う?  例えば、話の仲介が得意とか、コミュニケーションが得意とか、思ったことを何でも言えるとか。仕事の進め方は一気にガーンといくタイプ? それともコツコツ型?


よね:度胸があるとはよく言われるかも。あと、どちらかというとコツコツ派かな。事前準備はきちんとするようにしている。


ぷうちゃん:かっこいい!  めっちゃいいことだよ。


 このように、自分の強みを複数挙げてシートに記入した。印象的だったのは、どんな話も全て肯定してくれる点だ。自分では言語化できていなかったことも「それも強みだね! いいね!」と引き出してくれる。


●今後1カ月間の具体的な行動を決める


 強みや現状などの分析が終わったら、次の1カ月間の具体的なアクションを決めていく。


ぷうちゃん:「取材相手の本音を引き出して、深掘りできるようになりたい」を目標にしたけれど、具体的に何をすれば達成できると思う?  例えば、度胸があるってことは「これ聞いたらヤバいかな」って思うことも「度胸があるから聞いてみよう」と行動に移せるよね。そうすると、本音が引き出せるかもしれない。そういう目標ってある?


よね:質問の幅を広げたいから、踏み込んだ質問をあらかじめ考えておくとか。


ぷうちゃん:めっちゃいいじゃん! 数字の目標も考えたい。質問はいくつ用意する?


よね:取材の流れによって変わるから、その場に合わせて質問できるように3つ考えていく。


ぷうちゃん:いいね。でも1人で考えると「何考えよう」ってなるでしょ。部署の先輩に「こういう質問どうですかね」って聞くのもアリ。現実味が増すし、どう?


 目標設定では「明日から何をするか」という具体的な行動レベルまで落とし込む。単なる相談ではなく、実際の行動変化に直結する1on1だと感じた。若手ならではの悩みについても、ぷうちゃんにぶつけてみた。


よね:取材相手や社内の人は目上・年上の人が多くて、意見を言うときにすごく緊張しちゃうんだけど、どうしたらいいかな? 否定されたらどうしようとか、間違っていたらどうしようって。


ぷうちゃん:それなら「間違ってたらごめんなさい」とか「聞いていいか分からないんですけど」って前置きしちゃえばいいよ。相手の顔を見ながら「ぶっちゃけどうなんですか、その辺。私よく分からなくて」って聞いてみる。相手を転がすの、めっちゃ転がす!


 他にもいくつか相談したが、まず「そうだよね」と共感してくれるので安心感があり、アドバイスも実践的だった。最後に、ぷうちゃんに1on1で心掛けていることを聞いた。


ぷうちゃん:ネガティブに引っ張られすぎないこと。「そっか、つらいよね」って共感だけで終わると、解決にはつながらないと思ってる。だから「でも」という言葉を大切にしている。もちろん、ポジティブに考えられないのもその人の個性。自分のネガティブさに悩んでいた人もいたけど、それも含めて“アゲ”だと思う。無理に押し殺さず「これも個性なんだ」と受け止めてほしい。


 下記の関連記事にある「【完全版】「部長、それってアゲですか?」 沈黙の会議を壊すギャル、大手企業が頼るワケとは」では、配信していない写真とともに記事を閲覧できます。



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