高知・仁淀川どっぷり旅体験記(上)古民家宿、神楽の“意外性”を満喫

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2026年03月30日 14:20  OVO [オーヴォ]

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土居川が流れる池川神楽の地元、高知県仁淀川町の旧池川町地域

 高知県仁淀川町は土佐湾に注ぐ仁淀川(によどがわ)の上流域、通称「仁淀ブルー」とも称される色彩美が広がる町。自然豊かな山間の町でもあり、渓流釣りやカヌーなど、豊かな自然を生かしたアクティビティーも楽しめる。

 今回の旅の目的は、仁淀川ブルーの実見以外にもう一つある。2011年3月の東日本大震災を機に都会を“脱藩”して移住した女性が、高知県仁淀川町に2021年に開いた古民家宿「山のめぐみ舎」に宿泊することだ。高知空港から車に乗り、西の愛媛県境に近い宿に向け出発する。宿まではおよそ車で1時間余りという。

▼世界に広がった池川神楽

 仁淀川水系土居川沿いの旧池川町(現在は合併して仁淀川町)に入ると、長い橋の欄干近くで外国人観光客の二人組が自撮りしている。川幅は広く、遠くの山も見える見晴らしの良い場所である。欄干の端にちょこんと座る河童のようなキャラクター像が味わい深い。


この旧池川町のメーンストリートは昭和にタイムスリップしたような趣がある。歴史を重ねた商店の古い看板や家々の重厚な外観などが懐かしさを醸し出している。

 目的地の宿に行く前に、ここ旧池川町の守り神を祭る池川神社を訪ね、旅の安全を祈願する。この神社で地元住民が毎年11月23日に奉納する「池川神楽(いけがわがぐら)」は土佐三大神楽の一つで国の重要無形民俗文化財。430年以上の歴史があり、全演目を通しでやると4〜5時間に及ぶという。


 池川神楽保存会の馬詰正会長(78)は「地域の大切な伝統として人から人へと長年引き継いできた。舞を見れば、師匠は誰か、関係者ならすぐ分かる人間味あふれる神事です。一時期途絶えそうになったものの、画質は悪かったが奇跡的に映像が残っており、何とか伝統をつないできました。ご多分にもれず、課題は後継者不足です。若い人は覚えが良いので、若いうちから関心を持ってもらいたい。学校関係者の協力も得たい。この先5年間が池川神楽を継承できるかできないかの大事な期間になりそうです」と話す。

 池川神楽を担うのは馬詰会長をはじめ、氏次(うじつぐ)司事務局長(70)、会計担当・上野眞由美さん(49)、広報担当・若藤美紀さん(66)ら40〜70代の幹部。常時関わるメンバーは10人足らずで、ぎりぎりのメンバーで何とか伝統神事を維持している。練習を兼ねて夜の「ナイト神楽」を開催するなどPRに余念がない。


 保存会はこれまでにドイツ統一直前の西ドイツ(1990年4月訪問)、アメリカ、エストニア、ラトビア、ルーマニアなどで池川神楽を披露した国際経験豊かな人たちである。海外の人たちをも魅了した池川神楽の魅力を信じて継承に向け日々努力を重ねている。


 池川神楽は意外にも国際的だった。旅の醍醐味の一つは普段の生活圏に縮こまっていては得られない意外性との出会い。地元の人が知っていることでも、旅人にとっては新鮮な驚き。小さな発見は旅を豊かにする。

▼移住者営む古民家宿

 夕方、古民家宿「山のめぐみ舎」に着く。仁淀川ブルーの目の前にたたずむ古民家一棟貸しで一日一組限定の貸し切り宿だ。この宿を開いたのは古城(ふるき)亜希子さん。古城さんは36歳の時、神奈川県から仁淀川町に移住する。昔から古民家カフェ巡りが趣味で食への関心が高く、日本の伝統野菜の種の保存を考える催しにも足を運んでいたという。

 大量生産、大量廃棄の工場的な食システムの危うさへの不安が東日本大震災をきっかけに一般にも広がる中、毎日の通勤ストレスにも疑問を感じ、自分には不自然に思えるシステムに囲まれて疲弊したまま老いていく自分の姿が頭に浮かんだ。この“重力圏”を抜け出し、自分が本当に良いと思う暮らしを自分の手に取り戻そう。それが自分らしく生きる道と考え、移住を選択した。


▼池川こんにゃくを受け継ぐ

 移住直後は仁淀川町の「地域おこし協力隊」としてしばらく生計を立てながら、食に関わる道を模索していた。そして、移住前にも工場を訪れていた地元名産「池川こんにゃく」の生産継承を決断する。地元に自生もするこんにゃく芋を昔ながらの手間をかけた手作り製法で作る。皮むきや練り、成形などは機械を使わない。池川こんにゃくは、生産者の高齢化でおよそ30年の歴史が途絶える寸前で古城さんに命を救われた。


 古城さんの池川こんにゃく「むく」は、こんにゃく芋のほかは、水と凝固剤しか使わないシンプルさ。素朴な香りと刺身で食べるに適した独特の食感、大地を感じさせる奥深い味。池川こんにゃくの美味しさに感動した古城さんは、長年作り続けてきた女性グループに手取り足取り作り方を教えてもらう。作業は、冬場の手のかじかむ水作業や、生地が入った重い容器を持ち上げるなど体力を消耗するが、“手作業の充実感”は事務職当時とは比べものにならない。刺身にして出してくれた池川こんにゃくは弾力となめらかさ、そしてしっかりとしたコシが印象的でとてもおいしかった。


 山のめぐみ舎は2018年9月、まずカフェとしてオープンした。だから山のめぐみ舎は正確に言うと、カフェ兼一棟貸し宿だ。もっと正確にいうと、宿としては原則3月中旬〜11月の期間のみ営業する。カフェは原則土日11〜14時営業の予約制。ちなみに古城さんが池川こんにゃくを作るのは10月後半〜5月中旬。「フライやデザートなど、池川こんにゃくの新しい楽しみ方をカフェでは提供しています」と古城さんは言う。多角経営という計算思考ではなく、やりたいことを追求した自然な流れに見える。その流れは木々が時折織りなす、伸びやかな枝ぶりに似る。

▼お風呂が沸くまで2時間の“ゆとり”

宿は1泊3万6000円から(大人3人までの1棟貸料金)。年間150人ほどが宿泊するという。今年1月に9月宿泊の問い合わせが入るなど、客足は順調だ。旅行サイト経由で海外から来る人も多い。最近、民泊に挑戦する人も周囲で増えてきているそうだ。


 宿のひのき風呂はまきでたく。「やったことがなかったから、最初は難しくて苦労しました。たきすぎたり、ぬるま湯だったり」とまきの燃え具合を見ながら、古城さんは言う。今はパートナーが風呂たきを手伝ってくれる。いい湯加減になるにはおよそ1.5〜2時間ほどかかる。しかし宿泊者の中にはその手間のかかる、まき割りや火の世話をやりたがる人もいるという。目の前を流れる仁淀川水系の土居川のせせらぎを聞きながら、眺める赤い火は格別だろう。風呂がたきあがるまでのゆったりとした時間を楽しむ。湯船の中でもゆっくりと時が流れているような感覚に心地よさを感じた。

 仁淀ブルーの美しい景色を眺めながら「山のめぐみ舎」を堪能した一日となった。次は土佐の三大祭りの一つ「秋葉まつり」について触れていく。【高知・仁淀川どっぷり旅体験記(下)に続く】

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