
例えば、介護をしている親の要望がだんだんエスカレートしてきて、どこまで応じればいいのか悩んでいる人は多いです。なぜ親はむちゃな要求をしてくるのか、そして子どもはどこまで聞き入れるべきなのか、実際に寄せられた相談内容とともに介護アドバイザーの筆者が解説します。
エスカレートする親の要求に困っています……
今回は、シゲコさん(50代女性)からの介護のお悩みです。「私が住む場所から実家までは3時間かかります。半年に1回ほどのペースで帰省していましたが、昨年父が体調を崩したため、大変でしたが、月1回ペースで通い続けて面倒を見ました。その後、幸い体調がかなり回復してきたので、元のペースに戻すことを伝えたら『親を捨てる気なのか!』と両親が激怒。『もっと頻繁に来てくれ』『家事も頼んだわ』などと、要求がエスカレートして……。どうしてこんなことを言われなければいけないのでしょうか? どこまで親の要求に応えればいいのでしょうか?」
すべての要求に応えることはできないからこそ
心身の状態が悪くなってきた親が、元気な頃は言わなかったようなわがままを言ってきたり、それをなかなか我慢してくれなかったりして、シゲコさんのように苦しむ人は多いです。筆者も実の親に「仕事をやめちまえ」と言われて、随分悩んだ経験があります。自分の生活もある中で、距離のある実家に月1回帰省するのはとても大変です。それなのに、「薄情者」「親を捨てるのか」などと言われてしまったらカチンときますし、この先が不安ですよね。これが当たり前になったら、自分の生活をやっていけるのかという悩みも出てくるでしょう。
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シゲコさんは、今はきちんとした判断力があるはずですから、「自分が介護される側になったときに、子どもに言っていいこととダメなこと」を考えてみてください。今の判断力のある状態でいいこと・悪いことを見極め、そのうえで「将来、自分の子どもにやらせてはダメだな」と思うことを受け入れるのは、少しやり過ぎだと筆者は考えます。
年を取るにつれて親は「ちゃんと」するのが難しくなりがち
年を取った親は認知症や高齢者うつになる可能性が高くなります。65歳以上の人の4人に1人は認知症、またはその予備軍であり、年齢が上がるごとにそのリスクは上がっていきます。また、自分の体調が悪くなってきた、あるいは親しい人が亡くなってしまったなどの理由によって、うつ状態になっていく高齢者もとても多いです。そうなると、若い頃は言わなかったようなわがままを言ったり、「絶対にやってくれ」「やらない奴は敵だ」などの強い言い方をしたりしやすくなります。
「そんな言い方をするなんてひどい……!」とショックを受けるかもしれませんが、認知症や高齢者うつというのは、基本的に判断能力が下がっていく病気です。悲しいことですが、親は年齢を重ねるにつれ「ちゃんと」するのが難しくなります。
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患者である親の味方をする医者もいる
筆者はシゲコさんのようなご家族の嘆きを何度も聞いてきました。「毎日帰ってきてくれ」「一緒に暮らしてくれ」「嫌がる旦那や子どもなんか捨てちまえ」「仕事なんかやめちまえ」。親のこういった発言に苦しんでいる人はとても多いです。実際、筆者もそう言われて苦しんだ人の1人です。筆者の両親は本当に筆者のことを大事にしてくれましたし、「将来は私たちのことは何も気にしなくていいよ。お金も十分に貯めているし、入る老人ホームも決めているから。一人息子のお前に迷惑は絶対かけないよ」とずっと言っていました。
しかし認知症になってからは「同居してくれ、仕事を辞めてくれ」といった電話が1日に何回来たか分かりません。両親がお世話になっていた主治医に相談したのですが、「仕事を辞めてあげなよ。長男なら親の面倒を見るなんて当たり前のことだよ。これまで育ててくれた恩を忘れたの?」と言われてしまいました。
「仕事を辞めて、私の子どもや妻はどうやって暮らせばいいんですか?」と私が問うと、「それは君がどうにかすればいいこと。まずは辞めてから考えたら?」
むちゃなことを言いますよね。でも、この主治医が特別におかしいわけではないのです。世の中にはいろいろな考えの人がいるので、全員とは言いませんが、「自分が面倒を見ている患者のためなら、家族の犠牲はなんてことない」と思っている医者は少なくありません。
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介護の方針を決めるための5つのステップ
医者の意見で聞くべきことは、治療の在り方、薬の飲み方、リハビリの仕方などです。こういった部分は下手に家族でアレンジをすると大きな問題につながりやすいので、医者の意見に従いましょう。一方で、「介護の方針・家族がどう向き合っていくのか」に関しては、家族が決めるのが一番だと考えています。医者のアドバイスはあくまで参考程度にとどめる必要があるのではないでしょうか。なぜなら、実際に介護をするのは医者ではなく家族なのですから。
そして介護の方針を決めるためには、以下の5つのステップを参考にしてみてください。
1:親の心身の状態を把握する
2:家族の誰が何をどこまでできるか、「家族の介護力」を考える
3:社会制度やさまざまな介護サービスを調べてしっかり使う
4:金銭的に破綻しないために予算計画を立てて資金を確保する
5:親の希望を“可能な範囲”で聞く
1〜4のステップを充足した上で、今回のテーマである「親の希望」という5つ目のステップに進んでください。この順番で進まないと、どこかで破綻するリスクが高まります。多くの家族や子ども側は、最初に親に希望を聞いてしまいがちですが、そうすると「それを全部聞かなきゃいけない」という呪いにかかってしまいやすいため注意が必要です。
親からの要求水準が上がるというのは、親の判断力が落ちていることを表す1つのバロメーターです。まっとうな親は子どもにむちゃなことを言いません。親の判断力がしっかりしているように見えても、要求水準が上がっているときは注意が必要です。
「100点満点の介護」ができる人はいません。判断力が落ちた親の場合、100点を取る条件が変わってしまうこともあります。だからこそ、自分ができる限界を見極めてほしいです。その限界が「将来自分の子どもにやらせてはいけないこと」。そこを踏まえた上で、持続できる介護を目指してみてください。
横井 孝治プロフィール
両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。(文:横井 孝治(介護アドバイザー))

