
すかいらーくが外食チェーンを“爆買い”している――。
【画像】すかいらーくが明かした「株式取得の理由」(公式リリース)
すかいらーくホールディングス(HD)は3月24日、炭火焼干物定食チェーン「しんぱち食堂」を運営するしんぱち(東京都港区)の全株式を、投資ファンドなどから約110億円で取得すると発表。2024年9月の「資さんうどん」(約240億円)に続く大型M&Aだ。
すかいらーくと聞いて連想するのは「ガストやバーミヤンを展開するファミレス最大手」といったイメージだろう。しかし同社のビジネスモデルを確認すると、すかいらーくHDの実態はもはやファミレスチェーンというよりも、外食特化型ファンドとでも呼ぶべき存在になりつつある。
複数のブランドを買い集め、自社で一気に事業規模を拡大させる。これは従来、プロのPE(プライベート・エクイティー)ファンドが得意としてきたロールアップと呼ばれるM&A戦略だ。
|
|
|
|
●うどん・干物の共通点とは
ロールアップとは、特定の業界内で複数の中小企業を連続的に買収し、規模の経済とオペレーションの統合によって企業価値を引き上げる手法だ。すかいらーくHDはこれを事業会社の立場から外食産業で実行している。
一般的な投資ファンドの行うロールアップモデルとの違いは、自前でセントラルキッチン・物流網・約3000店の店舗インフラを持っていることである。つまり、買った後に自社のインフラに統合する準備が整っているわけだ。
「うどん」と「干物」。一見すると、この2つの買収には関連がないようにも思われる。しかし、両社の間は明確なロジックでつながっている。
資さんうどんといえば九州を地盤とする、ロードサイド中心のうどん業態だ。平均的なメニューの価格は700〜800円程度と、物価上昇局面においてもお財布に優しい部類に位置する。
|
|
|
|
買収後はすかいらーくHDの既存店舗を業態転換する形で全国展開を加速し、2030年までに300店超への拡大を計画する。2024年12月期の売上高は前期比約2割増の約160億円に到達していた。
しんぱち食堂は東京発で都心駅前の狭小立地を得意とする定食業態だが、こちらも客単価1000〜1200円と、東京の魚料理というカテゴリーにおいては安価な部類に入る。炭火焼機による独自の提供オペレーションで、狭い店内でも高い効率を実現しているのが強みである。
●すかいらーく、実は「和食の日常食」が弱い?
両者はいずれも「低価格帯」で「和食」という要素で共通している。
まずすかいらーくの価格帯について確認しよう。これまで低価格帯であったブランドが高付加価値メニューの追加や値上げにより中価格帯まで上がってきた背景がある。例えば、ファミレスのガストはどちらかといえば低価格帯で推移していたが、足元におけるガストの客単価は約1200円程度と、グループ内の平均的な価格帯まで上がってきた。
|
|
|
|
物価高で実質賃金が目減りしている消費者に対し、通常よりも数百円安く食事が済ませられるブランドを提供することで、事業規模を拡大させたい狙いがうかがえる。
次にすかいらーくの主力ブランドを見渡すと、実は「日常的な和食」が薄いことが分かる。主力ブランドはガスト(洋食)、バーミヤン(中華)、ジョナサン(洋食)など、洋食や中華がメインだ。
和食はしゃぶ葉や夢庵ブランドがあるが、しゃぶ葉の価格帯はグループ内でも高い部類に属する。夢庵は2020年の188店舗から足元では174店舗まで減少しており、近年の人気はやや下り坂といえる。
ここに新たな和食カテゴリーを増やすことで、グループ全体のバランスを調整したい狙いがうかがえる。
●なぜM&Aなのか
すかいらーくHDの時価総額は7800億円にも達している。
これほどの規模があれば、低価格の和食業態を社内で開発することも不可能ではなさそうだが、なぜM&Aを選ぶのだろうか?
それは、新業態を自前で開発・検証・拡大するには通常3〜5年と膨大な工数がかかるからだ。一方で、お金を出せば、資さんうどんやしんぱち食堂のような、すでに市場で実証済みのブランドとその顧客基盤を手に入れられる。
すかいらーくHDは同社の中期計画で、2027年12月までに国内で300店規模の新規出店を目標に掲げており、このスピード感で品質の高い店舗を出店するにはM&Aが不可欠なのである。
買収価格については、資さんうどんに約240億円、しんぱち食堂に約110億円。投資家の一部からは、いずれも現時点の利益水準に対して高い値段を出していると指摘されている。
●110億円は「高値づかみ」では?
特に、しんぱち食堂の営業利益は直近で7600万円しかない。これに対し110億円もの価格で買収すると、単純計算で投資回収まで100年以上かかる。これは相当な「高値づかみ」ではないのか。
しかし、ロールアップの評価軸は「今の利益」ではなく「統合後のポテンシャル」にある。すかいらーくのインフラを掛け合わせた将来の出店余地や拡大ノウハウ、和食ポートフォリオの取得といったシナジーを織り込めば合理的となるのだろう。
実際のところ、買収発表の翌日には、すかいらーくHD株は一時1.59%高となり、時価総額が約123億円増加した。グループ全体の時価総額が買収総額よりも上がれば、資さんうどんやしんぱち食堂のようなブランドの「爆買い」は、トータルで元が取れるという解釈もできる。
経営学的には「参入余地が乏しく、陳腐化しやすく、価格競争が起きやすい」とされ、経営の難易度が非常に高いとされてきた飲食業。しかし、立地や価格、業態などで領域を絞れば、まだ空白が残っているのかもしれない。
もはやすかいらーくHDは「ファミレスの会社」という範囲ではない。自社の外食インフラの上に多様なブランドを“アプリ”のように載せていく。そんなすかいらーくの外食ビジネスの今後に引き続き注目したい。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。